友人の願いを聞いてみた
「レイヴン……それは俺だって願ってることなんだぞ?」
変装してこそこそとデートするってのは、神経を使う。
俺としてもセシリアと堂々と手を繋いでデートしてみたいさ。
ユウガみたいなあからさまにイチャつきながらのデートはちょっとなって思うけど。
「……やはり、難しいか。なら、変装していても良いからこう……ハピネスと良い感じだというところを見せつけたいというのは」
「何を言っちゃってるんだ、この騎士団長は」
イチャつき具合を見せびらかしたいとか、彼女無しから相当の恨みを買うような発言だぞ。
「……見せつけ」
ハピネスがレイヴンの腕に自分の腕を絡ませて、頭を肩に乗せる。
そういうことを、人前でやるなっつーの。
レイヴンもさらっと頭をポンポンすんなって。
「もう、俺の前で充分見せつけているから、良いんじゃね」
「……いや、俺はもっと違うことが。ハピネスと一緒ならどこでも良いというのは分かっているんだ。だが、この前のユウガを見てしまうと」
「うーん……」
距離感や幸せの感じ方は人それぞれだろうに。
そう言っても、この決意を固めた目をした騎士団長は納得しないよなぁ。
ハピネスも表情はクールだけど、内心は嬉しそうでレイヴンの意見に賛成っぽいし。
俺にどうしろっていうんだ……。
「二人で国外の田舎にでも旅行しに行けば良いんじゃないか」
「……そうしたいのは山々だが、今は国外に行けるような休暇は取れないんだ。ユウガとミカナの結婚式の警備体制が敷かれるからな。ミネルバに不審な動きがないか見回り、調査をしないとならない」
「あー……そっか」
長期休暇が取れないんじゃ、旅行は無理か。
この辺での旅行だとお忍びって感じにはならないし……。
「家で馬鹿騒ぎでもするか。部屋を貸すぞ」
「……それでは、いつもと変わらないだろう」
やっぱり、この案も駄目でした。
……俺じゃ打開策が見つからないような気がする。
「これはもう頼るしかないかな……」
申し訳ない気持ちを胸にして向かった先はというと。
「どこか良い場所はないだろうか」
困ったらセシリアというこれまた普段通りのパターンである。
「まさか、レイヴンさんがそのような悩みを抱えているなんて、思いませんでしたよ」
「……頼りにさせてもらう」
連れてきたレイヴン、セシリアに頼る気満々だよ。
申し訳なさそうにしているのが俺だけってなんでだろうね。
俺の問題じゃないのにさ。
「……わくわく」
「ハピネスちゃん、期待を言葉で表さないで下さい。……ああ、もう、ちょっと待ってくださいね」
セシリアが引き出しの中から取り出した物は……なんだろう、手紙?
「これは私が仕事先でもらったあるパーティーの招待状なのですが、どうでしょうか」
仮面舞踏会の招待状だな。
商会が主催のパーティーらしいがお忍びで貴族も参加しているようだ。
成る程、レイヴンたちにぴったりじゃないか。
「……ん? セシリア、この招待状ってどういう経緯でもらったの」
「そ、それはですね……その、誘われたんですよ」
「誰に?」
「以前、仕事の関係で知り合った男性です……」
「ほほう。貴族の殿方かな」
「はい」
「レイヴン、ちょっと用事できたから帰るわ。あとはセシリアに聞いといて」
俺は拳をパキパキと鳴らして、部屋を出ていこうとしたら、レイヴンに取り押さえられた。
「レイヴンさん、ありがとうございます。だから、ヨウキさんには言いたくなかったんですよ。きちんとお断りしましたから、落ち着いて下さい」
「あ、そう。なら、安心した。……ってか、本当に行くわけないじゃないか。セシリアの迷惑になるしさ。ははは、冗談だよ、冗談」
そもそも、セシリアが誘われたからって俺に黙って行くわけないしね。
ここは、彼氏としてある程度の余裕を見せないと。
「……隊長」
「どした、ハピネス」
「……大人」
「俺は普通に大人だぞ。何を言ってんだ」
「……ふっ」
こいつ、鼻で笑いやがった。
大人じゃないと思っていたと、そういう意味だととらえて良いんだな。
「おっしゃ、表出ろや。舞踏会に出ること確定したんなら、悩み解決だろ。久々に稽古つけてやるよ」
「……上等」
セシリアの部屋の窓から飛び降りて、戦闘開始。
そして、開始五分も経たずに戦闘終了。
俺が勝ったわけじゃなくて、セシリアとレイヴンに止められた、何故だ。
「おい、これは普通の組手みたいなもんだぞ。レイヴンだってさっきハピネスとやり合ったじゃないか」
「……再戦、要望」
「……済まないが今日は抑えてくれ。いや、今日も抑えてほしい」
「ヨウキさんもここは控えてください。稽古がしたい気持ちもわかりますが……レイヴンさんとしても複雑な思いがあるでしょう。それに……戦闘が激しすぎです」
セシリアに言われてはっとした表情になり、周りを見渡す。
やっちまった……ハピネスも絶望した顔をしている。
ソフィアさんにばれる前に急いで掃除をしないと。
「ハピネス、連携して掃除だ。俺とお前ならいける!」
「……承知!」
直ぐ様、戦場と化した庭園を整備する。
幸いにも花たちに被害はない。
無駄な動きは一切見せずに視線だけで合図を送って、さくさくっと掃除を終わらせた。
「ふっ、俺たちにかかればこんなもんだ」
「……完璧」
二人してハイタッチすると、レイヴン、セシリア以外の視線があることに気づいた。
「はい、全て見ていましたがとても素晴らしい動きでした。他のメイドたちの見本になってほしいくらいに」
……集中して気づかなかった、最初からいたんですね、ソフィアさん。
セシリアとレイヴンは首を横に振っている、諦めろということかね。
「……お褒めいただきありがとうございます」
「……恐縮」
「いえいえ、お気になさらず。ただ、その見事な掃除っぷりを屋敷全体で見せていただければとおもうのですが……よろしいでしょうか、ヨウキ様、ハピネス?」
これは、はい、了解です、首を縦に振るの三つしか選択肢がないパターンだな。
横にいるハピネスも拳を固く握っている、覚悟は決まったようだ。
「はい、任せて下さいソフィアさん。ほら、ハピネス行くぞ!」
「……熱血!」
やる気を全快にした俺たちは屋敷を隈無く駆け回った。
時々突き刺さるソフィアさんの視線が原動力となり、俺たちは埃を撒き散らさない風になったんだ……。
「お疲れ様でした。メイドたちにも良い刺激になったようです。また、お願いする機会があるかもしれませんので、その時はよろしくお願いいたします」
汗だくな俺たちに一礼してソフィアさんは去っていった。
……あの人には逆らえないな、やっぱり。
「どうぞ」
「ああー、ありがとう」
セシリアから冷たいお茶をくれた。
一気に飲み干し、体が生き返るのを感じる。
ハピネスもレイヴンからもらったようだが、俺とは違いゆっくり時間をかけて飲んでいる。
「……感謝」
「……ああ。それを飲んだら町へ行かないか? 仮面舞踏会に着けていく仮面や服を買いにいこう」
「……決着」
俺に視線が飛んできた。
確かに中途半端な形で勝負が終わったからな。
まだ、夕食という時間でもないので買い物に行くのが少し遅れても
大丈夫か。
「……ハピネスの気持ちは分かる。ここに来ることになったのも、俺が自分勝手に動いた結果だしな。ただ、今日はもう、俺と一緒に……二人だけの時間を過ごさないか?」
何言ってんのさ、騎士団長と叫びそうになったよ。
俺とセシリアは二人して目を点にしたさ。
いや、そういうのは二人きりの時に言う台詞じゃないんすかね。
その抱き締めて耳元で言うのは狙ってるのか、勢いでやったのか、教えてくれ、レイヴン。
そこから先は言葉なんていらなかったみたいだ。
ハピネスとレイヴンは仲良く恋人繋ぎで屋敷を出ていったとさ。
相談の意味あったのかよ。
「……ヨウキさん」
「ん、何?」
「仮面舞踏会、ヨウキさんも参加してきましょうか」
「へ?」
「私は誘いをお断りしたので、行けませんがこういったパーティーに一度参加しておいた方が良いかと思います」
セシリア出ないのに、舞踏会なんて行って俺どうすれば良いのさ。
そもそも、そんな踊れないよ、俺。
「いやいやいやいや、無理無理無理! 人の足踏むって、絶対」
「安心して下さい。私が手取り足取り教えてあげますから。舞踏会まで時間があまりないので、厳しくいきますが」
「え、ちょっ、本気。確定なの」
「行きますよ、ヨウキさん」
腕を引かれてずるずると広間へと連行されていく俺。
この感じが懐かしいな……なんて思ってられるほどの余裕はない。
「セシリア、なんか怒ってたり、する?」
「いえ、私は普段通りですよ。さあ、覚悟して下さいね」
あ、これ、俺なんかやったかもな。
心当たりを探すも、ぴんとくるものはなく。
躍りの練習を始めたら、余裕など完全に無くなった。
ほんと、どうして怒ってるんですかね……。




