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元部下から相談を受けてみた

ユウガの悪夢事件が終わり、ようやく新居の整理が本格的にできる。

昨日はユウガの惚気話が全く終わらず、疲れはてて寝てしまったからな。



お礼に昼食なんて言われてついでに買い物に付き合わされ、結局夕食も一緒食べて。

……帰ったらベッドに即行で沈んだわ。



「家具の設置はあらかた終わりが見えてきたけどなー。生活用品も買ってこないと。掃除だって終わってないし……ん?」



一人で計画を練っていたら、扉を叩く音が聞こえる……また、ユウガか。

抱き枕の寝心地を語りに来たのかもしれない、もうわかったっつーの。

訪問販売お断りでーすって言って、開けたらすぐに閉めるか。



「すみませーん。訪問販売は……」



「……おは」



ユウガじゃなかった、ハピネスだった。

こんな朝からいきなりどうしたんだ、こいつは。

どこか出掛けるのか、お洒落しているし……レイヴンとデートじゃないのかね。



「どうしたよ。その格好はデート前だろ。デート前に彼氏じゃない男の家に寄るなって。しかも、こんな朝早くに。変な誤解されたらどうすんだ」



「……身の程」



「わきまえろと。……うるせーわ」



「……浮気」



「いや、お前もそうなるだろ」



「……叫ぶ?」



「それは真面目にレイヴンがとんでくるから、止めろ!」



ハピネスといつものやり取りを玄関前で繰り広げる。

これやるから、本題からどんどん脱線していくんだよな。



「何の用があって、デート前にも関わらず、俺のところに来たのか説明しろ」



「……変」



「変て……俺がか?」



そんなこと今更確認するまでもないだろう。

俺はただ、厨二が混ざってるだけだっつーの。



「……知ってる」



「だろ。だったらさ」



「……隊長、じゃない。レイヴン」



「は?」



レイヴンが変て……何があったんだあいつは。

いや、待て、心当たりがないこともない。

ユウガの突っ走りがもしレイヴンに影響を与えていたら……。



「あの勇者の行動力は他者に伝染する力でもあんのかよ……」



俺は深くため息をついた。

レイヴンが変な理由は思いの外成長を遂げたユウガを見たからだろう。

あの時、必死にメモしていたから、それも関係しているかもしれない。



「変て、具体的にどんな感じだ? ハピネスから見てそれは駄目なのか」



レイヴンはハピネスを不快にするようなことはしない。

むしろ、喜ばせるとか幸せにしたいとかっていう目標の下、動いている。

ハピネスがレイヴンの変化についていけていない可能性もあるが。



「……微妙」



「あー、レイヴン、どんまい……」



ハピネスの評価はあまり良くないらしい。

あれだけメモをとって勉強していたのに……何をやらかしたんだ。



「それで俺にどうしろと。一発殴って治るなら、遠慮なく殴……いてっ」



脛を蹴られた、そういう解決方法は望んでいないと。



「……真面目」



「いや、ふざけた案じゃないからな。何かに目が眩んでいるなら、目を覚まさせてやらないといけない時もあるだろ。今回はそういう事案なのかもしれないし」



「……理解」



ハピネスも何かを考え出した。

ここまでハピネスを悩ませるって……レイヴンよ、どれだけの迷走を見せているんだ。



無理にイチャイチャしようとしてんのかね、ユウガみたいになんていうのは止めといた方が良いだろうに。

レイヴンなりの距離感がハピネスは好きなんだぞ、多分だけど。



ユウガはユウガだから、あれで良いけどレイヴンがやったら……なあ?



「……採用」



「え、一発殴るのか?」



「……出発」



「ちょっ、おい。俺もかよ」



腕を引っ張られて強制連行される。

ああ……新居の片付けいつ終わるのかなぁ。

ハピネスに連れられて、レイヴンとの待ち合わせ場所についたんだが。



「ハピネス、今日は普通のデートだよな」



「……肯定」



レイヴンのやつ、スーツ着て花束を持ってるんですけど。

しきりに時間を気にしているみたいだし、ハピネスが来るのを待ちきれない様子。

……何に影響されたんだ、あいつは。



「お前、今日プロポーズでもされるんじゃないのか。あれだと、指輪も用意してそうだぞ」



「プロポーズ……」



ハピネスのやつ、珍しく頬が緩んでいやがる。

満更でもなさそうだな、おい。

レイヴンもハピネスに本気だし……真面目にプロポーズなら、俺帰った方が良いよね。



「よし、ハピネス行ってこい……って、おい!?」



なんで俺の腕を引っ張ってんだ、こいつは。

引きずられるまま、ハピネスとレイヴンの下へ向かう。

レイヴンもこちらに気付いた。



ハピネスを見て喜び、しかし、俺がいたからか無になった、表情の変化が分かりやすいことで……。



「……何故、ヨウキがここに」



「おい、ちょっと殺気こもってないか?」



完全に邪魔者扱いされてるし、怒りも感じる。

実際に邪魔なのはわかってるけど、俺の意思ではないからな。

だから、そんな顔をしないでくれ。



「俺は最近のお前が変だとハピネスから相談を受けて、半ば強制的に連れてこられただけだが」



「……俺が、変だと?」



いや、ハピネスが直々に相談をしに来るくらいだぞ。

そして、今日の格好……念のために確認するか。

レイヴンの耳元でひそひそ話だ、ハピネスには聞こえないように……な。



「お前さぁ、今日、ハピネスに結婚しようとか言うわけじゃないよな」



「け、結婚!? いやいや、まだ早いだろう。同棲もしてないんだし、俺も身の整理をしないと。ハピネスも……仕事の都合があるだろうからな、ははは」



……誰だこいつは、こんな照れながら将来設計をする騎士団長、俺は知らないぞ。

つーか、ハピネスも普通に聞き耳立ててるから、ひそひそ話の意味ねえし。



「……真剣?」



「あ、当たり前だろう。男として、二人の未来を考えるのは……な」



「……将来」



何、この甘い空間、悩みないよねこの二人。

本当に邪魔だよ俺、自分でわかる。

このまま、そそくさと退散しよう、その方が絶対に良い。



そろーり、そろーりとゆったりした動きでこの場から離脱を試みたんだけど。



「……焦り」



「……な、いや、そんなわけあるか。俺はちゃんと考えて行動をして」



「……変、隊長」



ハピネスからお呼びがかかった、やはり駄目だったか。

レイヴンはどうしたのかね……やっぱり違うんだろうなぁ、普段、二人がどんな感じでデートしているのか、知らないけどさ。



ユウガの影響か……面倒だが、帰るわけにもいかないらしい。

やはり、一発殴るのだろうか、レイヴンは悪いことしているわけじゃないから、進まないんだけど。



「……勝負」



「仕方ないな。久々にやってやる。ハピネスからのご指名だからな、そこそこ本気で行くぞ」



「……おい、これはどういう展開だ。俺にヨウキと手合わせをしろと、なんでだ」



俺の提案をハピネスが採用したからだよ。

腕を伸ばして、準備運動をしているとハピネスが首を横に振っている、どうしたよ。



「……私と」



「え、ハピネスとレイヴンが手合わせをするのか?」



「……正解」



ハピネスは武器である、自分の羽根で作った扇を構える。

やる気、まんまんかよ。



「いや、待て。ハピネスと俺が、だと。……駄目に決まっているだろう。怪我をしたらどうするんだ。加減をするにしても無傷とはいかない。そんな危ないこと、できるか!」



レイヴンが声を荒らげた。

彼女が怪我をするかもってことで心配したんだろう。

だが、少し言い過ぎではないだろうか。



ハピネスはそこまで過保護に育ってはいない。

俺の元部下をあまり嘗めないでもらいたい。

何より……今の言葉でイラっとしたのは俺だけじゃなさそうだ。



「……心外」



ハピネスが面白くなさそうな表情で、レイヴンを見ている。

まあ、そうなるだろうよ。

レイヴンは守りたい気持ちが強すぎるんじゃないかね。



「……ハピネス、俺はそんなつもりで言ったわけでは」



「……隊長」



「ん、どうした」



「……移動、人気、ない場所」



「了解。ほら、レイヴンも行くぞ」



近くの森で開けた場所を見つけよう、あとは、俺が近くに人がいないか確認すれば良い。

本当にどうしてこうなったんだか。



やる気満々なハピネスと、何故だとぶつぶつ呟くレイヴンを引き連れて森へと向かった。

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