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勇者の安眠のために動いてみた

順調に見えたユウガの催眠治療。

もう心配ないなーと思い、ユウガが起きるまでガイと雑談……する予定だったんだが。

急にユウガがうなされだした、何でだ。



「おい、ガイ。ユウガのやつ、表情が苦しくなっていないか。ちゃんと夢のコントロールしろよ」



「何だと、我輩はしっかりとやったはずだが……む?」



「どうしたよ、不思議そうな顔をして」



「おかしいぞ、小僧。我輩の魔法が解けている。これでは普通に寝ているだけだ。我輩が行った夢の操作を受けていない」



つまり、今のユウガはただ寝ているだけ。

この苦しそうな表情はいつもの悪夢を見ているからだということか。



「いやいや、なんで《ナイトメア・スリープ》が解けているんだよ。ただ、普通に寝ているだけって……」



ふと、ユウガの腰に帯びている聖剣に目がいった。

ミカナへの愛の力によりユウガには翼が生えて、飛べるようになった。



覚醒した聖剣の力があれだけではなかったとしたら、どうだろう。

例えば、魔法耐性、状態異常耐性がアップするとか……な。



「おい、かけ直せ、かけ直せ。このままじゃ目覚めが悪いままだぞ」



「ええい、わかっている。ちょっと、待て」



ガイが急いで魔法をかけ直すと、ユウガの表情が穏やかになった。

しかし、また、時間が経てば魔法をかけ直さねばならない。

これは困った。



「おい、小僧。まさかこの者が安眠できるようになるまで、我輩が付きっきりで《ナイトメア・スリープ》をかけ続けろと言わないだろうな」



「……そんなことをしたら、ガイを独占したってことでティールちゃんに何をされるか」



夜、目を光らせたティールちゃんがガイを求めて現れる未来が容易に想像できる。



「うむ、それは……そうだな。可能性は充分にあり得る。ティールならば……ああ、否定ができんな」



「病的に愛されているからな。最近、何かあったりしたか?」



「最近は普通だぞ。我輩もティールも仕事があるからな。働くのは良いことだな、はっはっは」



「……不気味だな」



あのティールちゃんが何もしてこないとは。

待ち伏せ、押し掛け女房と続けている中、何も行動しないなんてあり得るか。



動向を気にした方が良さそうだが、今はそれよりもユウガだ。

どうしたもんか……ミカナが去っていく夢ばかり見るんだよな。

ふむ……よし、やってみるか。



「魔法だけに頼っては解決しないってことだな。俺なりに動いてみるかね」



「大丈夫なんだろうな。我輩、この者の事情は詳しく知らないが、同情してきたぞ」



「まあ、俺に任せれば大丈夫だって。ユウガも悪夢どころか、毎日良い夢を見れるようになるっつーの」



頭の中で大まかな作戦は決まっている、あとは協力者が必要だ。



「ユウガがのんびり寝られるように一肌脱いでやろうじゃないか」



隣で心配そうに見てくるガイにも無理のないレベルで協力してもらわないとな。

……加減しないとティールちゃんが襲来するから、俺のところに。



「……で、どうする」



「とりあえず、ユウガを起こそう」



《ナイトメア・スリープ》がしっかり効いていて、安堵の表情で寝ているところ悪いが、今後の方針もある。

優しく起こしてくれるのは嫁だけだ、俺はスパルタ形式でいこう。



「おら、起きろ」



「むにゃむにゃ……うーん」



「ガイ、飛び起きるような悪夢を頼む」



「良いのか?」



「やってくれ」



ガイがユウガに手をかざして魔法を発動する。

穏やかな表情から一変、青ざめた表情になったと思ったらいきなりベッドから飛び起きやがった。



「はぁーっ、はぁーっ……今のは一体、何?」



「やっと起きたか。起こしても起きないからさ。ガイにちょっと悪い夢を見るように暗示をかけてもらったんだ」



ユウガがげっそりした顔で俺を睨み付けてくる。

いやいや、そこまでひどい夢を見たのか。



「最初は良い夢だったんだ。ミカナとデートしていたんだよ。でも、急に暗い顔になって僕の前からいなくなった。必死に探していたら、見つけることができてデートの続きをしていたのに!」



「……オチはどうなったんだ」



「ヨウキくんがっ、いきなり現れて……ミカナの手を握って走り去っていったんだよぉぉぉぉぉぉ!?」



「知るかぁぁぁぁぁ!」



所詮夢だろ、そんなんで人の胸ぐらを掴んでくるんじゃねーよ。

大体、そんなこと絶対にあり得ないから、俺はセシリア一筋だからな。

ばたばたとガイのベッドで暴れていると、恐れていた事態が……。



「守り神様、昼食をお待ちしま……」



あっ、終わった。

ランチバスケットを持ったティールちゃんがウキウキルンルンな感じで部屋に入ってきたのだ。



俺とユウガの状況、ベッドの上で取っ組み合い中。

女の子なら男同士でそんな……なんて想像することもあったりするだろう。

しかし、ティールちゃんは違う。



「守り神様が普段寝ているベッドの上で何をしているんですか? 私ですら恐れ多いことを平気でやっているんですね。羨ましいですね。ところで、私、偶然、こんな物を持っているんですよね」



ティールちゃんが懐から取り出したもの……メリケン。

いやいやいやいや、なんでそんなものを偶然持ってんの!? 



ちらりと視線をガイに送り、助けを求めてみるも首を横に振っている。

ガイでも止めることは不可能と、仕方ないな。



「ちょっとヨウキくん、早く逃げないと。あの子、魔王並みのオーラを纏ってこっちに迫ってきてるよ!」



「あー、ティールちゃんはああなったら、もう無理だから。諦めるしかないから。安心しろ、永遠にミカナに会えなくなるわけじゃないからさ」



「え、そんなこと言われても全然安心できない。ミカナ、助け……」



泣き言を言うユウガとは対照的に完全に運命を受け入れにいってる俺。

まあ、ガイも現場にいたからな、生還はできたよ……無事にとはいかなかったけど。



ボロボロになった俺だが、一度約束したことを破るわけにはいかない。

俺からユウガに贈るプレゼントのために……協力してもらわないと。



「……ということだから、セシリアにお願いしたいんだけども」



まずは、セシリアに頼み事だ。

屋敷に押し掛け、事情を説明したのだが、あまり良い表情はしていない。



「どうしてもそれが必要なのでしょうか。私はヨウキさんが目当てにしている物が役立つとは思えないんですけど」



「絶対に俺じゃ手に入れられないだろ。だから、セシリアにしか頼めないんだ。……ミカナには悪いことをすると重々、承知している。ただ、どうしてもユウガのためには必要なんだよ」



俺の必死さが伝わったのか、セシリアが渋々といった感じで承諾してくれた。

次はシークに声をかけるかな。



セシリアによろしくと伝えて、シークがいるであろう庭園に向かう。

案の定、鼻唄混じりで土いじりをするシークを発見。



「おう、シーク」



「あ、隊長だ。お久~」



緩い感じは相変わらずだな、へらへらしているように見えるが、シークの薬草の知識はすごい。

俺にはないものを持っている、だから、協力してもらいたいことがあるんだよな。



「心を落ち着かせるような鎮静効果がある薬草ってないか?」



「あるよ~。ちょっと待ってて~」



シークは土いじりを止めて立ち上がると、屋敷の中に入っていった。

薬草を保存しているリュックか何かを取りに行ったんだろう。



シークが来るまで座って気長に待っていると、後ろから足音が聞こえた。

シークが来たかと思い振り返ったら違った。

フィオーラちゃんだった。



「こんにちは、なの」



「あ、ああ。こんにちは」



子どもらしい挨拶……厳つい獣の式神に乗っているんだけど。

ソフィアさんに会いに来たのかね。



「シークくんはいないの?」



「ああ。シークなら、俺が用事を頼んでさ。屋敷に薬草を取りに行っただけだから、すぐに戻ってくるよ」



「じゃあ、待つの」



乗っていた獣が消えて人形の紙に戻り、フィオーラちゃんはその場に座る。



寝るのかと思いきや、足をぷらぷらさせたり、屋敷を何度もみたりとシークが来るのを心待ちにしているようだった。

……もしや、結構遊んでいたりするんだろうか。



「いつもシークと遊んでいるのか」



「シークくんは面白い。私が知らないことを知ってるから、一緒にいて楽しいの」



「そうか。今後もシークをよろしく頼むよ。俺もたまにしか遊んでやれないからさ」



同年代の友達がいるっていうのはシークにとっても良いことだしな。



「隊長~。持ってきたよ~」



フィオーラちゃんと話していたら、シークが戻ってきた。



「ありがとよ、シーク。お礼に今度、何か買ってやろう。そして、お前にお客さんだ」



「僕にお客さんて誰……あっ、フィオーラちゃん」



「こんにちは、なの。シークくん。今日も色々な話をするの」



フィオーラちゃんに腕を絡められたな、逃亡防止か、それとも普段から行っているのか。

まあ、シークからお目当ての物は手に入ったし、次の協力要請交渉に向かうとしますか。

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