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勇者の悩みを聞いてみた

「ヨウキくん、悪いけど相談があるんだ……」



「……は?」



誰か来たと思ったら、幸せ絶頂中なはずのユウガがいた。

新居で荷物を整理していたというのに……そもそもなんで引っ越したのに住んでる家を知っているのか。



まだ、セシリアしか知らないはずだぞ……荷物を整理してから言いに行こうと思っていたからな。



「なんで俺ん家知ってんの?」



「宿に行ったらさ、家を買ったから引っ越したって聞いてね。引っ越し先までは知らないって言われたから、セシリアに聞きにいったんだよ。ヨウキくんがセシリアに知らせてないわけがないからさ」



セシリアに直接聞きにいったのか、まあ、知らせるというか一緒に行ってたからな。



「ふーん、なるほどね。……で、相談って何だよ。もう、お前は結婚式まで爆走しろよ。悩みなんてないだろうよ。あれか、引き出物か。引き出物を何にすれば良いかの相談か?」



「ち、違うよ! 引き出物はミカナとしっかり相談して決めるから。そんなことヨウキくんには相談しないよ」



「そうか、ユウガにはミカナがいるもんな。だったら、男にしか相談できない内容か。さすがに俺もそこまで詳しくは……」



「もっと違うよ! 何を想像してるのさ」



「何って、結婚したら夫婦になるんだ。それ相応のものを背負うことになる。その心構えとか、そういうことじゃないのか?」



俺は結婚してないから、その方面の知識はないぞ。



「ヨウキくん……嘘だよね。まさか、僕でも知ってることなのに」



「いや、まあ、おちょくっただけだ」



わざと意味深な言い方をしただけだ。

ただ、悪ふざけを真面目に受け止めていることを考えると、相談内容は重い話かもな。



「僕は真剣なんだよ……?」



「わかったよ。結婚式近いもんな。聞いてやるよ。……何があった?」



「……最近ね」



「ああ……」



「怖い夢を見るようになって、眠れないんだ」



俺は扉を閉めた。



「ちょ、聞いてくれるって言ったじゃない。僕の話を最後まで聞いてよ!」



「ここに来て何だよ、それ。怖い夢で寝付き悪いだけだろ。お母さんに相談しろよ。または、嫁確定のミカナに聞いてもらえや」



俺もそこまで優しくはなれない。

新居の整理で忙しい中、夢が怖くて寝れない、どうしよう……じゃねーよ。



家具も充分に揃えてないから買いに行かないとならんし、デュークたちに引っ越しの連絡も必要だ。

貯金も崩したわけだから、遊んでいられない。



こんな状況の俺に怖い夢で寝れないから、どうにかしてくれって言われてもな。

しかし、相談を諦めないようで、ユウガは扉越しに夢の話を始めた。



「……あの日の夢を見るんだ。大雨が降っていて、ミカナがすごく悲しそうな顔で僕を見て去っていく。追いかけても追い付けない。手を伸ばしても届かない。……そんな夢を、毎晩見るんだ」



「……夢だろ。現実ではもう結婚するんだ。気にすんなよ」



「気にするよ! ……こんな夢を毎晩見るなんて、変じゃないか。まるで、ミカナが遠くへ行ってしまうことを暗示しているみたいだ。考えすぎかもしれない、幼稚な相談だってことも分かってる。でも……」



どうやら、相当悩んでいるようだ。

これで寝不足が続いて、結婚式に影響か出たら、それはそれで面倒臭い。



まだまだ作業は残っているんだが……仕方ない。

俺は扉を開けた。



「要はぐっすりと寝れれば良いんだろ。怖い夢を見ない感じでさ。俺の知り合いに相談してやる」



「ほ、本当!?」



「ああ、あいつなら何とかできるはずだ」



いつまでもしょぼくれた顔をされていては困る。

これから夫になるのだから、しゃきっとしてもらわないとな。

俺はユウガとある場所へと向かった。



「……というわけだから、ガイ、何とかしてくれ」



「……突然訪ねてきたと思ったら、何を言っているのだ、小僧」



俺が訪ねたのはガイのところだった。

何故かってそれは……。



「眠りまくっていたガイなら、安眠方法に詳しいと思って」



「それは我輩への挑発と受け取っていいのか?」



急に来ておいてなんだそれはとご立腹な様子。

うーん、馬鹿にしているわけではないんだが……半分くらい。



「いやいや、違う違う。真面目な話」



「……真面目にそう思っているのならば、やはり、挑発だろう!」



「怒んなって。相談主はもう部屋の外に待機しているんだ。ガイは俺の知り合いの冒険者。副業で催眠療法をやってるってことにするから。《ナイトメア・スリープ》をかけてそこそこ良い夢を見せてやれば解決するって」



ベッドに寝かせ、目を閉じたり、力を抜いたりとリラックスさせたら、あとは魔法で夢の世界へ行ってもらう。

ガイならある程度、夢の操作ができるからな、悪い夢を見させなければ良いんだろ。



「そう上手くいくかわからんが……仕方ない。小僧には借りがある。受けてやろう」



「よし、頼むぞ」



軽い打ち合わせをしてから、俺は部屋の外で待機していたユウガを招き入れる。



「ユウガです。今日はお願いします。あれ……以前、会ったことありますよね」



全身を隠すためにモコモコした装備に鬼の仮面。

一度見たら忘れることなんてできないだろう。

あの時は誤魔化したが、今回はガイのエピソードを語ってやろうじゃないか。



「わかっているさ。いくら勇者のお前でもこいつの格好にはツッコミたくもなるだろう。……深い理由があるんだよ、聞いてくれ」



俺はガイの身の上話をユウガに話した。

もちろん、本当の話ではなく、ギルドで冒険者登録した時に話した嘘話。



最初は疑り深く聞いていたが、話を聞いてく内にガイに同情してきたのか、少し涙ぐんでいた。

そして、俺の話が終わるとガイの肩を優しく叩き。



「大変だったんですね……僕、見かけでガイさんを怪しい人かと思っていました。この身体、相当鍛えていますよね、苦労、したんですよね。すみません、僕」



「いや、我輩はそこまで気にしていないのだが」



ガイが俺を見てくる、俺だってユウガがこんな反応するなんて思ってなかったよ。



本題に入らないでこのまま無駄話をして帰らせたら、悪夢なんて見ないんじゃないのか。



「すみませんけど、僕、悪夢なんて見ずにぐっすりと眠りたいんです。今日はよろしくお願いします」



礼儀正しく頭を下げてお願いしてきた。

これはね、あれだ、ガイに頑張ってもらうしかないね。



取り合えず、ベッドに横になってもらい、目を閉じさせる。

あとはどうするか……。



「よし、ガイ。《ナイトメア・スリープ》だ。ただ、いきなり良い夢を見せるのはあまりにもできすぎている感が出るからな。悪夢ではないけど、楽しすぎない。普通の夢を見せてやってくれ」



「うむ、わかった。……というか、小僧も《ナイトメア・スリープ》は使えるだろう。何故、我輩が……」



「知り合いの俺がいきなり催眠療法なんて、怪しまれるだろう。いいか、ガイ。普通のやつが怪しいことをしたら、変だろう。だがな。元々、怪しい格好をしているやつが怪しいことをしても、そこまで目立たない。説得力の問題だ」



「我輩からしてみれば、小僧も充分奇っ怪な格好しているから、変わらんと思うがな……」



ガイの呟きはさておき、《ナイトメア・スリープ》によって眠りについたユウガ。

苦しそうな顔はしておらず、穏やかな表情ですやすや寝ている、成功だな。



「よし、これで良いな」



「うむ。あとは……そうだな。快適な空間で寝れるようにすれば良いのではないか? 寝苦しかったりしても良くないだろう。騒音にも気を付けねばな」



「おう。ユウガが起きたら伝えよう」



ガイと相談して、起床したユウガにどんな助言をするかも決めた。

こんな簡単に解決できる……わけがなかったんだよな。

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