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家探しをしてみた

行き交う人々の視線を感じながら、俺とセシリーは堂々と歩いていた。

セシリーには悪いが立地、値段、暮らしやすさ等、家探しには様々なことを考えねばならない。



いくら黒雷の魔剣士とはいえ、住居を簡単に決めることはできないのである。

セシリーの助けがあれば良い家を見つけられるだろう。



「宿暮らしも長いですから、確かにそろそろといった感じですよね。ヨ……魔剣士さんの実力なら、ギルドで充分稼いでいるでしょうし」



「ああ、俺はあまり浪費をしない。何かあった時のために貯めている。その貯金を……解放する時が来た!」



「……使いすぎないように注意して下さいね」



今のところ、セシリーのツッコミ具合は浅い。

黒雷の魔剣士も大分受け入れられてきたのか……いや、俺がまだ本領発揮していないだけ。



真の力を解放するのはまだ先のことだ……しない方がセシリーに負担をかけずに済むのだろうが。

ともかく、セシリーの案内で不動産についたところだ。



「魔剣士さん、店に入ったら普通に受付に向かって下さいね」



「ふん、当たり前だろう。その程度のことは心得ている」



俺は店の扉を普通に開けた。

勢いは普通、閉める力も普通、バックに光属性の魔法も発動していない。



店員も派手さが足りなかったから、普通に客が入ってきたと思っているはずだ。



「セシリー、ここまでは普通だろう」



「すみません、それは周囲の反応を見て判断をして下さい」



周囲の反応か、客も店員もこちらを見てはすぐに視線を反らしている。

そして、自分の日常に戻っている……といったところか。



「店員は客が入ってきた、客は自分以外の客が入ってきたなくらいの認識だろう」



「私には関わるとどうなるかわからないから、視線を合わせないようにしているように見えましたが」



「考えすぎではないか、セシリーよ」



「魔剣士さんは楽観的過ぎですね」



入り口でずっと話しているのも邪魔になるので、空いてる受付に座った。

若そうな男性職員、まだ勤務五年以下といったところか。



俺たちが座ると営業スマイルが少し崩れてしまったらしい、それでは一人前としてまだまだだな。



「い、いらっしゃいませ、お客様。当店をご利用いただきありがとうございます。……どういった家をお探しでしょうか」



家の条件か、あまり考えていなかったな。

まあ、ある程度の希望や考えを言わないと絞りこめんか。

特にないと行ってしまえば空き家をすべて見ることになってしまう。



「ふむ……そうだな。我が眠りを呼び覚ます輝きが遮られないことと……」



「は、はい?」



「すみません。陽当たりの良い家でお願いします。そして、魔剣士さん、お店の方にもわかるように話してください」



どうやら、彼に俺の言葉は理解できなかったらしい。

セシリーにずっと通訳してもらうのは二度手間か。



「すまない、これから言葉を選ぶ。あとはなるべく人通りが多すぎない、一階建てか二階建て、資金については考えなくても良いがあまり高すぎても困るといったところだな」



人通りが多いと夜中うるさくて寝づらい、溜まり場になる可能性大なのでそこそこの広さは欲しい、金はあるけど散財し過ぎるところをセシリーに見られたくない。



必要経費とはいえ、無駄遣いは避けるべきだ。

店員も希望を言うと資料を出して調べ始めた、条件にあった物件を検索しているのだろう。



「セシリー、家探しも大変だな」



「いえ……まだ始まったばかりですが、どういったことから、大変だと思ったんですか」



「顧客の要望を聞いても、その要望通りの家を見つけるのは困難を極めるだろう。きっと、何かしらの条件が噛み合わずキャンセルされて、徒労に終わり。また新しい家を検索して案内を……」



「なるほど、店員さん視点での見解ですか。そういうことは今話すべきではないかと」



セシリーの指摘を受けて、目の前の店員に視線を向ける。

営業スマイルが少し崩れ、苦笑いがにじみ出ていた。

接客も大変な世界らしい、俺には到底無理な領域だ。



店員が資料を調べ終わると早速、何件か候補があるらしく案内してもらえることになった。

込み合っているわけでもないので、すぐに対応してくれるらしい、ラッキーだな。



そういうわけで男性職員案内の元、候補である家を訪問していく……が。



「こちらは……」



「回りに建物が多い、却下だ!」



「こちらですと、値段がですね……」



「屋根が抜けそうだぞ、却下!」



「こちらは、築五年目程で……」



「俺は黒雷の魔剣士……ギルドまで遠すぎることは生活に影響を与えるに等しい……却下」



こんな風に却下ばかりで嘆いていまう。

良い住まいは中々、見つからないらしい。



前を歩く男性職員も肩を落としている、客の希望に答えることができないのだ、落ち込むのも無理はない。



次の家はどんなものかと考えていたら、セシリーに肩を叩かれた、なんだろうか。



「魔剣士さん、ある程度妥協をしなければ決まりませんよ」



「ふむ、確かにそうだが……住居はそうぽんぽんと変えられないだろう。住む場所は重要だ。妥協しては生活に影響が出てしまう。慎重にならねばなるまい。悪いが俺にも譲れないものがある」



「そうですか。それでも、このままだと決まらない気がしますので、今から妥協点を考えておいて下さい。全ての希望が通ることなんて、中々ありませんからね」



「……わかった。セシリーがそう言うのならば決断しよう。我が居城となる場所を!」



「我が居城……あっ!?」



セシリーが何か気づいたのか、驚いた声を出し、口を押さえる。

一体、どうしたというのか。



「大変なことに気づいてしまいました。こんなことに気がつかなかったなんて……今回は私にも落ち度があります。すみません、不覚です」



「どうした、何があった」



「……魔剣士さんは家探しをしているんですよね」



「その通りだ。我が居城となる場所を……」



「……ヨウキさんの家を探しているわけで、魔剣士さんの家を探しているわけではないですよね。正体を隠しているのなら、このまま家を買ってしまうと」



「あっ……」



素に戻ってしまった俺。

そうだ、このまま契約したら黒雷の魔剣士の家になっちまう。

それじゃあ、正体がばれたり、関係性を疑われたりとやばいことになるな……うん。



俺は歩きながら資料とにらめっこしている男性職員に声をかける。



「あー、済まない。ちょっと、良いか」



「あ、いかがなさいましたか。申し訳ないのですが、次の物件のご案内まで、もう少々お時間を……」



「いや、そのことなんだがな。俺としても条件が厳しすぎたと思ってな。もう一度じっくり考えたいので、日を改めてもらって良いだろうか」



本当の理由は話せないので、誤魔化すしかない。

日を改めるといっても黒雷の魔剣士としては来ないので、非常に申し訳ないのだが。



「はい、かしこまりました」



男性職員はあっさりと承諾してくれた。

内心ほっとしているのではないだろうか、面倒で目立つ客だっただろうしな。

またのご利用をお待ちしておりますと言い残し、男性職員は店へと帰っていった。



セシリーともその場で解散し、俺も宿に帰る。

ヨウキに戻ると誰もいないのに正座をして、一人で反省した……次はちゃんとしよう。



後日、今度こそヨウキとして不動産に向かった。

セシリアも一緒、二回目だし一人で大丈夫だと思うんだけど。



「そもそも、ばれないかな」



セシリアの変装がな、町を歩くくらいなら問題ないと思うけど。

受付で顔をじっくり見られたら気づく人は気づくんじゃないだろうか。



「……ばれてしまったら、それはそれで良いのではないでしょうか」



「へっ?」



「冗談ですよ」



悪戯っぽく笑うセシリア、そんなのずるいと思う。

ドキッとしたことは顔に出さないようにしないと。



やたらと挙動不審になりながらも、目的地の不動産に着いたので、気持ちを切り替える。



先日の失敗はしない、今の俺は黒雷の魔剣士ではない、ヨウキなのだ。

運命的な何かか、先日の男性職員が空いているので、声をかける。



「すみません、家を探しているんですけど」



「いらっしゃいませ、お客様。当店をご利用ありがとうございます。どういった家をお探しでしょうか」



先日とは全く対応が違う……なんか、普通だ。

黒雷の魔剣士はやはり威圧感のようなものを与えていたのだろうか。



まあ、相手が普通に接客してくれるなら、こちらとしても助かる。

今日はスムーズに家探しができそうだ。



「ええと……ギルドで冒険者をやっているから、ギルドから近い場所で。あとは……」



黒雷の魔剣士が提示した条件と全く同じだと怪しまれる可能性があるので、陽当たりについては何も言わない。

資金も潤沢ではないが、そこまで貧乏でもないという中間を提示。



あと、先日言わなかった重要な条件を付け加えた。

それはセシリアの屋敷から離れ過ぎていないこと。



もちろん、直で言うわけにもいかないので、それとなくエリアを示しただけだ。

あとは先日と同じように男性職員に案内してもらう。



いくつか紹介してもらい、家の中を確認していき、候補を絞った。

もちろん、セシリアにも相談しながら。



「やはり、ここが良いのではないでしょうか。ギルドもそこまで遠くありませんし。広さもちょうど良いと思いますよ」



「そ、そうかな」



「はい。あ……上の階が気になるので見てきますね」



セシリアは階段を上がり二階へと向かった。

一人暮らしで二階建てってどうなんだろう、部屋を持て余すかな。

どうせ、溜まり場になることを考えたら、部屋は多いにこしたことはないけども。



「こちらの物件はおすすめですよ。先日、キャンセルになったばかりでして。契約されるなら、今しかありませんよ」



「あ、そうなんですね」



この前に紹介してもらった記憶がないからな。

運が良かったってことになるのかね。



「治安も騎士団の方々が見回りをしっかりとやってくれていますし、彼女さんが一人で買い物に出掛けても大丈夫かと」



「ぶふっ!?」



思わず吹き出してしまった、彼女さんて……セシリアのことか。



「どうかされましたか、お客様」



「い、いや……ちょっと」



「そうですか。実は私にも妻がおりまして、子どもも昨年産まれたばかり。……私がこんなことを言うのも差し出がましいですが、冒険者は危険と隣り合わせな仕事かと思います。どうか、彼女さんを大切に……」



「……」



この人は俺とセシリアが一緒に住むと考えているらしい。

いや、こんな二人で意見出しあって物件を選んでたら勘違いされるのも当然か。



「二階も特に問題はなさそうです。……何かありましたか?」



「いや、何もない。……ここにしようか」



「私も良いと思います」



「はい、かしこまりました。では、手続きを……」



不動産に戻って金を払ったり、書類を書いたりと手続きを行った。

帰る際、男性職員がこれからも頑張って下さいと俺に激励をくれた。



……俺たちは同棲を始めるわけではないんだよな。



「さて、引っ越しですね。家具も足りないから買わないといけません。行きますよ、ヨウキさん」



セシリアが俺の手を引っ張り、つられて走る。

こうしてセシリアの協力の下、引っ越しは無事に終わった。

俺よりもセシリアの方が楽しんでいたのではないだろうか。



俺も二人で買い物したり家具の設置を決めたりと楽しかったが。

あと、後日に黒雷の魔剣士がマイホームを求めてミネルバの不動産に立ち寄り、姿を消したという噂が広まる。



そこからどうねじまがったのか、黒雷の魔剣士は家を持たず、帰る場所も作らぬまま、依頼を受け、人助けしているという噂になった。

……まあ、大丈夫だろう、噂だし。

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