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恋人から依頼の話を聞いてみた

ユウガの予想外の成長を見てから月日は流れ……いや、そこまで流れてないか。

旅行とかその他諸々で励ましに行った俺たちが悩みを抱えてしまう結果になったわけで……。



それで行動に移さない俺はセシリアの彼氏と名乗れるものかと。

旅行について考えつつ、家のことも考えないとならない。

身の回りのことでひーひー状態な俺に追い打ちをかけるような事態も発生するしさ……。



「セシリア、今の話をもう一度頼む」



いきなりセシリアが来てテンションが上がったんだけど、持ってきた話の内容聞いて唖然とした。

セシリアも疲れた表情をしている……そりゃそうか、話の内容がなぁ。



「はい、王様からの依頼です。内容は……無事に勇者様とミカナの結婚式を終わらせること、です」



「なんで、王様から直々に依頼が来るんだよ。しかも、内容!」



あの二人の結婚式に何かが起こると言うのだろうか。



「ヨウキさんは覚えていませんか……勇者様がミカナに求婚しに行った時のことを」



「あー、あれだろ。ユウガの想いに聖剣の力が解放されて翼で飛び去って、女学院まで行き、プロポーズをしたやつ」



あの時は二人にすれ違いが生まれて大変だった。

それでユウガの後押しをしたら、外堀を埋め尽くしてからプロポーズに行ったからセシリアと一緒に驚いたんだよな。



「あの時、勇者様は入念に下準備をしてからミカナに婚約を迫りました。……その結果」



「その結果?」



「各国に勇者様とミカナの結婚はクラリネス王国が二人を囲うために仕組んだ政略結婚ではないか、という疑いが持たれてしまったのです」



「いや、何でそうなるんだよ!」



話の流れがおかしい、ユウガの怖いくらいの行動力の話からどうして国家間の問題に繋がるんだ。



「勇者様がミカナと婚約する以前……その、私に好意を抱いていました、よね」



「あ、ああ、そうだな」



片言になるのは仕方ないな、セシリアはこういうことをはっきり言うのは苦手だし。



「私に好意があっても勇者様は自分に向けられる好意を無下に扱うことはせず、笑顔を振り撒いていました」



「ハーレム状態だろ。アクセサリー買いに行ってあいつのファンが店に押し寄せたのは今となっては良い思い出だな。確かこの国の王女様もユウガが好きだって話を聞いたような気もするけど……」



「はい、王族、貴族……といった方々からも婚約を迫られていたようですから。その全てを何の前触れもなくふいにしたのです。それに王様の助力も頂いていますから。あと……ミカナと交際する可能性は低いという声が前々から上がっていたので」



幼馴染みは幼馴染みの関係でそれ以上には発展しないと皆思っていたんだろう。



むしろセシリアの方が可能性高いとか言われてたんじゃないかね。

多分そうだ、きっと、セシリアに確認はしないけど絶対そうだよ。



「誰もが予想しない結婚になった、勇者様の異常なほどのやる気、王様の助力等が重なった結果……この結婚には裏があるのではないかと疑う者たちが出てきたわけです」



「裏も何も、ただの円滑に進んだ恋愛結婚なのにな」



どうしたこうなったかっていうと、まあ……ユウガが頑張りすぎた感じかね。

立場的な問題もあるからな、仕方ないと言えばそうなんだけど。



「勇者様とミカナの結婚式は大々的に行われるらしく、各国の王族、皇族、貴族が招待される予定です。何事もなく結婚式が終われば良いのですが、万が一ということもあるので……」



「まあ、わかるけど。それってレイヴンの仕事じゃないのか」



王国騎士団なんだから警備してくれよ。



「もちろん、当日はレイヴンさんを中心に騎士団が式場の警備にあたるという話です。ですが、保険という形で私たちには秘密裏に動いて欲しいと」



「ふーむ。セシリアだけでなく俺も……か」



「ヨウキさんは王様に気に入られているのかもしれませんね」



会ったの一度だけなんだけど、そこまで目をかけてもらえるようなことをしたかね。



とても馬鹿なことをした記憶はある、本当に申し訳なかった、二度とああいった軽はずみな言動はしないと誓う。



目の前で微笑んでいるセシリアは俺の黒歴史に関しては触れてこない。

話題には出さずにいよう、それが正解だ。



「……だけど、そんなお偉いさん方が沢山来る結婚式に俺みたいなのが出席して良いもんかね」



セシリアは元勇者パーティーの一人で二人の仲間だし、貴族だし、かわいいから良いだろう。

俺はギルド通いのBランク冒険者だ、友人枠で行ったとしても浮くような気がする。



見下すような視線、明らかにこちらに聞こえるような声で話すひそひそ話、わざとぶつかって来てからのいちゃもん等々。

そういったことが多発して、依頼どころじゃなくなると思う。



「そうですね……私の付き人として参加するのはどうでしょうか」



「いや、それも嫉妬の視線が飛んできそうだし、男が付き人っていうのも目立つだろう。……仕方ない、俺は不参加ってことにしよう」



「えっ、依頼を断るということですか」



「まあ、俺は用事があって出掛けたってことにしようか。だから、信用の置ける代理が来たって話そうか」



俺はタンスを漁って必要な物を取り出し、素早い動きで着替える。

そう……二人の結婚式にヨウキは出席しない。



「セシリアは結婚式に出席して式場で怪しい動きをしている者がいないか調べてくれ。俺はそれ以外の場所を担当しようじゃないか。ギルドAランクの黒雷の魔剣士ならば、騎士団の信用もある。裏で動いても大丈夫なはずだ」



「……本気ですか」



「ああ、そうとも。俺はいつだって本気だ。黒雷の魔剣士は依頼を確実に遂行する。……あの二人がくっつくまでに散々付き合ったんだ。ゴール目前に余計な茶々は入れさせん」



「確かにそちらの方が動きやすいかもしれませんが……大丈夫なんですよね」



どうやら、俺の恋人はかなりの心配性らしい。

黒雷の魔剣士に敗北、失敗、撤退の言葉はない。

全力で二人の結婚式を陰からサポートする。



「安心するが良い……この俺が出るからには問題など起こさせん」



「出ることによって問題が起きないか心配です……」



無事に問題は解決する、絶対にだ。



「さて、セシリアよ。依頼については今の計画で決定で良いか?」



「もう、この状態になったヨウキさんは止まりませんからね……案も悪くありませんし。王様には私とレイヴンさんで上手く話しておきますよ」



「ふっ、無事に決定か。それで、今日の予定は空いているだろうか」



「ええと、はい。今の話はレイヴンさんと連携しないといけませんし、今日もう……」



「よし、出かけるぞ」



セシリアの腕をがしっと掴む。

少し強引かもしれないが、付き合って欲しい場所があるのだ。

俺の問題も少しは解決せねばなるまい。



俺だけでは判断を誤る可能性が出てくる。

セシリアの助力が欲しい。



「ま、待って下さい。ヨウキさんがその格好でも私は軽めにしか変装してきていないんですよ」



確かに今日は眼鏡と帽子だけでラフな格好だ、これでは正体がばれてしまうかもしれん。

公に黒雷の魔剣士とセシリアの関係を知られるわけにはいかんな……だが!



「これがあれば安心だろう」



タンスから取り出したのはセシリー変装セットだ。

以前、セシリーとして着ていた服、眼鏡、魔法書と取り揃えてある。



「なんでこんな物を用意しているんですか!?」



「黒雷の魔剣士は一歩二歩先を見ているということだ」



いつか必要になるかもと思い、買っておいて正解だったな。

これで黒雷の魔剣士と慈愛の導き手セシリーのコンビ復活である。



「私が着るよりもヨウキさんが脱いだ方が早くないですか?」



「それはもっともな意見だ。だが、一度この格好になったからには何かを成し遂げねば!」



このまま脱いでしまっては不完全燃焼で調子を落としてしまいそうだ。

俺の押しの強さを感じたセシリアが折れる形でセシリアはセシリーになることを了承してくれた。



もちろん、着替えを覗くわけにはいかないので目隠しをして自分に《ナイトメアスリープ》をかけて夢の世界へと旅立つ。

高笑いをしながら、無数の敵を切り刻む夢を見ていると現実へと引き戻された。



「準備できましたが……どういう夢を見ていたんですか。この俺に敵はいない、全ては俺の手の中に、永久の夢を見るが良い……起きているのではないかと疑ってしまいましたよ」



「くっくっく、夢の中でも俺は最強だったということだ」



「……ところで、今日はどんな依頼を受けるんでしょうか」



さりげなくスルー、さすがセシリーだ、俺の扱いをわかっている。



「すまないが……今日は依頼を受けに行くのではない」



「では、何をしに行くのですか?」



「家探しだ!」

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