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友人に励まされてみた

「変えすぎるなって言われてもな。俺はセシリアの迷惑にならないように自分を抑えようと思ったんだ。俺の行動がセシリアの風聞に直結するなら、俺は……」



「……俺もハピネスのために変わろうと思った。だがな、それはあくまでも二人でいる時の話だ。ヨウキは違うだろう。お前の個性を殺してしまって良いのか?」



俺の個性……厨二のことか、誰彼構わず問題に首を突っ込むところか、セシリアをいつも事件に巻き込んで困らせているところか。

……改善点が多くて絞り込めないな。



「あり過ぎるよ、変わらなきゃならないところが。思ったことを全部逆転させると、真面目で消極的で無難な存在になるのか」



「……そんな変わったヨウキといてセシリアは楽しいのか?」



「それは……セシリアが決めることだろう」



セシリアが困ることもなくなる、頭を悩ます種が減るのは良いことじゃないのか。

そして、いつものようにセシリアの部屋で二人で談笑をするんだ。



俺が正座をしたり、高笑いして窓から飛び降りたり、相談したり……

あの部屋には沢山の思い出がある。

……その思い出は今の俺ではないとできなかったものだ。



「……何か気づいた顔をしているな。悩みはなくなったか?」



「な、悩んでいたわけじゃねーし。そう、俺は平常運転だ。反省するけど、自分の行動には責任を持つ。それでセシリアに迷惑がかからないようにするんだ。……ふっ、この俺が本気になれば容易いことだ」



「……その辺は少し自重した方が良いと思うが」



「善処しよう!」



これがなければ俺ではない、そういうことだろう。

今回、やってしまったことはこれから挽回していく方針でいく。

もし、俺のせいでセシリアに妙な噂がたってしまったら……俺自身が対処する。



「助かったぞ、レイヴン。迷いは消えた。俺は俺を貫くぞ」



「……そうか。力になれたなら何よりだ」



レイヴンに励まされた俺はスイッチが入り、気合い充分。

覚醒が俺に大食いを呼び込んだのか、飯が入る、入る。

おかわりを連発した俺は最後の一皿を食べ終え、膨れた腹を撫でた。



「ぐふっ、ごちそうさん」



「……おい、食べ過ぎじゃないのか」



「迷いが消えた途端、腹が減ってしまった」



「……やはり、ヨウキはそのままが良いんだろうな。無理に変わったらどうなるのが検討がつかん」



「ふっ、この俺は止まることをしらない。そう、それは食欲も……」



「……その割には苦しそうだがな」



レイヴンの言う通り、ちょっと食べ過ぎたかも、いや、食べ過ぎた。

ちょっくら食後の運動でもしたい気分、ギルドの依頼を受けに行こうかね。



その日、レイヴンと別れた俺は何かのストッパーが外れていたのか……ギルドに入る、依頼をこなす、依頼をこなす、依頼をこなす。

クレイマンから俺の仕事が増えると言われようとも関係なし。



俺の持つ力を全て出しきる思いで必死に働いた、ギルドが閉まるぎりぎりまでだ。

クレイマンは途中までは嫌々ながらも付き合ってくれていたが定時が過ぎるとおいこらと口調が悪くなったな。



明日の仕事は書類整理しかやらねーと愚痴をこぼして帰宅したとか。

どっと疲れた俺もその日はぐっすりと眠れた。



「振られて来ました」



翌日、部屋を訪ねてきたのはシケちゃんだった。

屈託のない笑顔で失恋を報告する……後悔も未練も感じさせない姿は輝いているように見える。



「そっか」



「はい。報告するのもどうかなって思ったんですけど。ヨウキさんに後押ししてもらったおかげですから」



「いやいや、決めたのはシケちゃんだろう。俺は話を聞いただけさ。それにシケちゃんのおかげで気づけたこともあったから、感謝してる」



「そうなんですか? 私、ヨウキさんに悪いことしたかなって。ミサキにヨウキさんに励まされたことを言ったら、彼女持ちと平気で二人きりになるなよって怒られちゃって、すみませんでした」



謝られてもな、気がつかない俺が全部悪い。

シケちゃんに申し訳なく思ってもらう必要はないんだ。



「セシリアに配慮がない行動だった。でも、あそこでシケちゃんを見捨てるって選択肢は俺になかったんだよ。お節介な厨二病がヨウキっていうやつだから。そんな、俺を受け入れてくれたセシリアは本当に頭が上がらないんだ。なんせ、セシリアは俺がやらかすと直ぐに飛んで軌道修正を……」



突然始めた惚気話にシケちゃんは嫌な顔をすることなく付き合ってくれた。

この時、俺は早く気づくべきだった、また、やらかしてしまったのだ。



シケちゃんは告白をして玉砕したばかりである。

心中穏やかではない中、彼女の自慢話を聞かされるとは如何なものか。

そう……俺はもっと早くに気づくべきだったんだ。

部屋に上げてお茶とお菓子を出して、熱弁をする前に!



そして、頭が冷えた理由は更なる来客が現れたからだ。

俺がセシリアへの想いを語っていると、扉がノックされたので開けると。



「ヨウキさん、おはようございます。……今、大丈夫でしょうか」



そこにはセシリアがいたのである、中にはシケちゃんがいるわけで、話は昨日今日なわけで、なんかもう色々アウトなわけで……。



「すみませんでしたっ」



その場で土下座した。



「えっと、忙しいということでしょうか」



「……ちょっと、今来客がいる感じで」



「そうなんですね。それでは時間を改めて来ます。今日は空いていますか?」



俺が土下座したまま、セシリアと話していると、足音が聞こえてきた。



「ヨウキさん、お客さんが来たなら私、そろそろ帰りますよ……?」



シケちゃんが様子を窺いに来た、うん、どうしようかこれ。



「ヨウキさん、話を聞きたいので、やっぱり上がらせてもらってもよろしいですか」



俺の返事ははいの選択以外なかった。

そして、シケちゃんも帰ることなく、部屋の中へ。



「……」



「……」



「……」



誰も口を開かない、何を話せば良いのかがわからん。

セシリアの用事はまあ……あれだよな、絶対。

当事者がそろっている中で話すのか、どうなのか。



「ヨウキさん、事情はお母様から聞いています」



口火を切ったのはセシリアだった。



「セシリア、俺は……」



「あの、私が悪いんです。私の正体は人魚で水がない陸地で行動することに慣れていなくて。通りかかったヨウキさんに親切にしてもらっただけなんです。誤解を招く行動をしてすみません」



俺が説明する前にシケちゃんが代わりに全部言ってしまった。

セシリアに正体まで……俺が話しているからそのことについては知っているんだけど。

シケちゃんは悪くないんだ、俺が決めたことをセシリアに伝えないと。



「セシリア、俺……」



「安心して下さい、その、セシ……リアさんをヨウキさんは心の底から好きなんです。今もセシリアさんが来るまでセシリアさんの話ばかりしていました。ずっとです、すごく楽しそうな顔で本当に……幸せなんだなぁってひしひしと伝わってきました。ヨウキさんのことを嫌いにならないで下さい。この人は……セシリアさんが大好きだから」



「うわぁぁぁぁぁあ!?」



俺は椅子から転げ落ちた、何これ、何の羞恥プレイだよ。

シリアスから一転して、俺の処刑が始まったみたいじゃねーか。

シケちゃん、本当に悪いんだけど、今すぐ口を閉じてくれないかな。

セシリアの反応は……満更でもないって余計に恥ずかしい。

……ん、満更でもない?



「何故、きょとんとした表情をしているんですか、ヨウキさん」



「え、いや、だってさ」



「恋人に想われて喜ばない彼女はいないと思いますよ」



セシリア、照れ臭そうにそんなこと言わないでくれ、悶え死ぬ。

きもいとか思われても構わない、でも、セシリアに伝えたいと思う。



「セシリア、好きです」



「私もですよ」



よし、これで解決だ、自然に手も握っているし誤解も解けたしな。



「あ、あの……私、帰った方が良いですよね。今すぐにここからいなくなった方が、絶対にそうですよね」



気まずそうにしているシケちゃん、配慮が足りなかった。

俺とセシリアは顔を真っ赤にしながらも、握っていた手を離して距離をとる。

でも、きっかけを作ったのはシケちゃんだからね……?



「い、いや、失礼した。それで、シケちゃんのことはさっきの説明通りだからさ」



「は、はい。わかりました」



俺もセシリアも落ち着きがない、そんな簡単に気持ちを切り替えられねぇよ。



「良いなぁ」



「何が?」



この状況の何に好感を持ったのだろうか、俺もセシリアも見当がつかない。

仲良く首を傾げていると、シケちゃんは少しだけ笑顔を見せて話し始めた。



「ヨウキさんとセシリアさんを見ていたら、羨ましく思ってしまったんです。私にも……こんな素敵な未来が作れるかなって」



「シケちゃん……」



「私、メモ剣士さんを好きになって後悔してません。失恋しましたけど……色々なことを知れました。だから、私……悔しくなんてないんですよ」



笑顔を見せているのは強がりだ。

俺には見えてしまった、シケちゃんの目から流れている涙を。



ぽろぽろと涙が流れ、声が掠れていても……シケちゃんに後悔はない。



俺はセシリアに目配せをしてから、部屋を出た。

あの場に男はいらないからな。

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