守り神と少女魔法使いの話を聞いてみた
今回の主旨をぱぱっとガイに説明する。
ずばり愛の重さについて……だ。
「愛の重さ……? 我輩には向いていないのではないか。そういうことは人間に相談しろ。我輩は魔物だぞ。人間の愛についてなど……」
「いやいや、この問題はガイが一番、適材適所。お前以外にぴったりな人材はいない、断言する」
俺の知り合いの中で一番、お互いのことを想い合っているカップルはこの二人かと。
想いと重いをかけて……これを言うのは止めとこう。
「む……まあ、世話になっているのは事実。我輩にできることなら協力は惜しまん。役に立てるかどうかは、我輩自身では思わんが」
「……迷惑をかける、申し訳ない」
「気にするな」
「ま、ガイもこう言ってくれているし、かしこまんないで、楽にしようぜ」
軽く考えているわけではないけど、どんよりな雰囲気する相談内容でもないだろう。
恋話するようなものだし、少しくらい明るい感じでやろうと思う。
「それで小僧、我輩は何を話せば良いのだ。言っておくが、我輩は生きてきた時間のほとんどを暗い遺跡の中と村の社で使ってきたのだ。人との関わりなど、始めたのはつい最近だぞ」
「大丈夫、大丈夫。ガイにはティールちゃんと過ごす日々を語ってくれれば良いから」
「そうか……そうだな。では、話すとしよう」
それはごく普通の……普通ではないか、メイドと働くガーゴイルの話だ。
ガイもギルドで働き、収入を得るようになり、ヒモからの脱却に成功。
魔鉱石を買ってきてはガイに運び給金を使っていたティールちゃんだったが。
「ティール、我輩はもう大丈夫だ。魔鉱石は我輩自身で稼いだ金で買うぞ。ティールも自分のために給金を使うと良い」
後ろめたさがあったガイは内心ほっとしながら、ティールちゃんに説明したらしい。
「えっ……」
その時のティールちゃんはまるでこの世の終わりが来たかのような表情をしていたとか。
ガイは不思議に思った、何故……と。
「いいか、ティールよ。今まで世話になっていたのは我輩が動けなかった……いや、動かなかったせいだ、すまん。これからは……」
言葉を続けようとしたガイだが、ティールちゃんの目の色を見て、やばいと悟ったようだ。
そこでやんわりと譲歩した結果。
「う、うむ。そうだ。今まで世話になっていておいて、急に自立するというのもな。我輩が危機に陥った時はティールの助力を借りよう」
そこで話がまとまった……数日後。
ギルドでの依頼処理を終わらせ、宿へと帰る途中に商会へ寄った。
理由は魔鉱石を買うためだ。
目立つ格好をしているとはいえ、商会は客と金と商品は大事にしている。
常連となりつつあったガイはいつものように魔鉱石を購入しようしたわけだが。
「守り神様、偶然ですね」
「む、ティールか、そうだな」
「買い物ですね、ここは私が払っておきました」
「何!?」
ちょうどガイが買おうとしていた魔鉱石を既に購入していたようだ。
まあ、ガイを見かけて先回りをしていたのだろう。
しかし、それからがガイの頭を悩ませる日々の始まりだった。
魔鉱石を購入しに行く度にティールちゃんに遭遇するガイ。
商会を変えても、買い物に行く時間を変えてもティールちゃんは現れたようだ。
そして、ティールちゃんは言うのだ……偶然ですね、守り神、と。
「いや、これ怖い話だろ」
本当にあったティールちゃんの話だな。
「小僧が話せと言ったのだろう!」
「予想通りで驚いたから、こっちも混乱してるんだよ!」
ティールちゃんは相変わらずなようで、俺よりも探知能力が優れているんじゃないか。
ガイ専用に特化されているよな、絶対。
最早、偶然ではなく必然じゃねぇかと言いたい。
「……ヨウキ、思い返してみると俺は偶然、ハピネスに会った回数が多い気がする。まさか、俺は無意識に……」
「考えすぎだろ!」
ティールちゃんはともかく、レイヴンは違うだろ、狙ってないし、謎の探知能力も発揮していない。
しかし、レイヴンの不安はまだとれていないと見る。
仕方ない、次の協力者の下へ向かおうか。
いつまでも、ガイとティールちゃんの愛の巣にいるのも忍びないしな。
「わかった、レイヴン、次の場所に行くぞ。次こそお前の不安を取り除けるはずだ。それじゃあ、ガイ。邪魔したな。ティールちゃんと幸せに。捕まらないように気を付けてくれ」
「一言多いぞ!」
「一言なんだな」
部屋を出る瞬間、にやりと笑いながら言うと明らかに動揺しているのが、見受けられた。
「……で、何か参考になったか、レイヴン」
「あ、ああ。まあ、人にはそれぞれのつきあい方があるよな」
それを言ったら、お前だってそうだろーが。
突っ込みを入れてやりたいが、うんうんと頷いているレイヴンに否定の言葉はぶつけづらい。
……本当に疲れていて迷走しているだけなのではないだろうか。
いや、俺も迷走している可能性もあるけど。
「よし、次に行ってみるぞ」
「次!?」
「安心しろ。次に会いに行く人物はお前も知っているやつだ。そいつは幸せオーラ全快なはずだからな。世間話するだけで、相手がどれだけ愛しているかがわかる。それを見極めろ」
「……そう言われてもな」
「よし、行くぞ!」
引きずるようにしてレイヴンを連れていき、俺は目当ての人物の下へと向かった。
「急に訪ねて来て……何の用事かしら」
「……おい、ヨウキ。訪ねると言うのはミカナだったのか」
「ああ、適任だろう?」
アポ無しだったが、奇跡的に家に居てくれたので、ラッキーだな。
しかし、予想とは違いミカナはこう……幸せ浮き浮きモードになっていると思ったのだが。
よれよれの部屋着に目の隈、疲れきった表情……仕事が大変なのだろうか。
「……まあ、良いわ。入って。何か話があるんでしょう」
「おお、助かる。ほら、行くぞレイヴン」
「あ。ああ……」
家に入るとソファーに座るように促されたので、レイヴンと並ぶようにして座る。
部屋着はよれよれだったのに、家の中はすっきりしているな。
掃除は綺麗にされていて、家具も綺麗に無くて……ん?
「お、おい。なんだこの、いかにも近々引っ越しますって感じの部屋は」
「……引っ越すのよ、アタシ」
「へ、へー。随分とまあ、急だな。まさか、ユウガのファンから嫌がらせを受けてとかじゃないよな」
ユウガは自分の周りの女性問題は解決したと言っていたが、やつは勇者だ、魔王を倒したヒーロー。
あんな感じだけど、女の子からの人気はかなりあったはずだ。
可能性としては充分考えられる。
「違うわ。ユウガと一緒に住むことになったの」
「同棲、だと」
「……本当なのか、ミカナ」
俺よりもレイヴンの方が詰め寄っている、こういう話に敏感になっているなぁ。
ミカナはもう疲れがにじみ出ているようだが。
「ええ、昨日決まったわ」
「え、昨日!?」
「ユウガがアタシの家に訪ねて来たのよ。仕事が終わり帰宅。ゆっくりしていた矢先だったわね。扉を開けて、開口一番に」
ミカナ、一緒に住もう、だったらしい、突拍子の無さがすごい。
俺もレイヴンも口あんぐり……。
「アタシも嬉しかったわよ、不覚にも顔を真っ赤にして、小さく縦に頷いたわ。そしたら」
じゃあ、行こう、と前々から目をつけていた家の契約に行ったらしいのだ。
いや、計画してんじゃねぇかよ。
「アタシはまだまだ先の話だと思っていたのよ。……それで昨日は睡眠時間を削って部屋の片付けをしていたわけ。家具は持っていけるものは全部、ユウガが運んでいったわ」
「あいつの行動力、凄まじいな」
「ま、まあ、アタシも一緒に住むことは嬉しいし、昔みたいに一緒に寝たり、ご飯食べたり……」
昔みたいな感覚にはならないと思うけどな、そこは。
そういえば、ミカナは料理に自信がないと言っていたような……今は関係ない、触れないでおこう。
それよりも、隣で同棲、同棲と繰り返しているレイヴンの方が心配だ。
「……なあ、ヨウキ。もう、帰らないか?」
「はえーよ」
来たばかりなのに、何を言っているのか。
「あら、そういえば、剣士。最近、アンタって色々と頑張っているらしいじゃない。噂で聞いたわ。騎士団の面々の信頼も厚くて……何よりもこうして普通に話しているしね」
「……あ、ああ、まあ、な」
「それでこんな噂話を聞いたのよ。剣士が休みの日、決まって同じ女の子と会ってるって」
おい、レイヴン、目を逸らすな……って、逸らしてない。
「真実だ。隠すことではなかったが、余計な騒ぎを起こしたくなかったから、黙っていただけだ」




