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恋人と山を登ってみた

俺たちは山を登っている。

勿論歩いているのだけれど、一人は俺が背負っていて、一人はゴーレムの手の上に乗っていて。



「普通に出掛けることは俺たちってできないのかな。この異様な光景は何なの、決まっているの?」



「ヨウキさん、人生は自分の想像していないことの連続です。ほら、山の景色や空気を楽しみましょう。今日は依頼ではなく普通のお出かけなんですから、肩の力を抜きましょう」



「今、俺が肩の力を抜いたら、呑気にぐーすか寝てるこいつが地面の上に落ちちゃうからな……」



俺の肩の上ですやすやと眠るシーク、起きる気配がない。

狸寝入りで実は起きているなんてオチだったら、弁当抜きにしてやる。



俺は少しだけ黒い感情が芽生えてきているのに、セシリアは俺とシークを見て、すごく微笑んでいる、何故。



「シークくんとヨウキさん、デュークさんやハピネスちゃんもそうですが……全員とても仲が良いですよね」



「んー、まあ、腐れ縁ってやつ。いや、感覚は家族的な」



「えっ、ヨウキさんてハピネスさんと家族だったんですか。シークくんもってことは……兄弟!?」



「違う、違う、違う! 昔からの知り合いってだけだ」



クインくんが変な勘違いをし始めたので全力で否定する。

シークはデュークを兄、ハピネスを姉扱いしているけどな、俺は隊長で変わらない。

過去話とかセシリアにしても良いけど……面白い話でもないからな。



デュークは昔冷徹だったのがチャラくなって、今は頼れる兄貴的な存在。

ハピネスは出会った時は全く心を開いてなかったけど、徐々に口数が増え、今では立派にメイドとして働き、理解のある彼氏もいる。



この二人に関してはもう何の心配もしていない。

上から目線で申し訳ないが、一応元上司だからな、俺。

シークはなぁ……こいつも複雑な事情を抱えているけど、セリアさんがなんとかね、してくれているから。



それにしてもクインくんはハピネスへの食い付きがすごい、あいつモテ期ってやつが来ているんじゃないか。

……恋愛すると女性は綺麗になるって聞いたことがあるけども、それが原因?



あの二人はラブラブだから……ラブラブだよな、どんなデートをしているのかは知らないけど。

レイヴンも変わったから、リードしているのだろう、昔のレイヴンがなつかしい。



クインくんも憧れ的なものだろうから……うーむ、正直に言うべきなのか。



「昔ながらの付き合い……差し支えなければどんな関係なのか聞いても良いですか?」



「お、おう……まあ、ちょっとだけな」



歩きながらクインくんに事実と嘘を混ぜながら話した。

元々寄せ集めの冒険者としてパーティーを組んでいて、ミネルバに着き、各々知り合いが増えて現在に至ると。



横で聞いていたセシリアは気づかれないように笑いながら、俺の話にボロが出ないか確認していたみたいだ。

ぐーすか二人組は相変わらずぐーすかしていた、何しに山に来たんだよ。



空気も美味いし、景色も良いのに……全く堪能していないぞ。

結局、起きないまま山の中腹地点、目的地に到達。

生い茂る天然の草ベッドにシークを寝かせて、持ってきていたシートを広げる。



「いや~、やっと着いたな」



軽くを伸びをして、一息つく。

セシリアは持参してきたティーポットと弁当箱を出して、着々と準備を進める。



「ふぁ~あ」



「お、やっと起きたか、寝坊助」



目を擦りながら、シークがのそっと起き上がる。



「あ~、良く寝た。寝心地は良くなかったけど、あれ、ここはどこ? 森? あ、隊長だ~」



「お前はなぁ……出掛けるってこの前に話しただろ。寝たままのお前を俺がここまで担いできたんだよ! 寝心地悪かったのは、当たり前だ」



人拐いスタイルで肩に担ぎ、山道を歩いたのだから、寝心地が良いわけがない。



「む~……ダーッシュッ!」



「おいおいおい……寝起きなのに元気だな、あいつ」



シークは俺との会話に飽きたのか、森の中へと走っていった。

木々を足場にして跳び回る姿は最早野生児で、シークの陽気な声は段々と遠くなっていった。



「シークくんは一体、普段何をしているんでしょうか。いや、あんな動き普通の環境で生活をして身に付くものでは……まるで、以前は森の中で暮らしていたようですね。森の中で暮らす部族という線が濃厚……」



クインくんがぶつぶつとシークについての考察を呟いている。

あいつが言わない限りばれはしない……だろう。

ソフィアさんの勘の鋭さを継承しているようで、内心ドキドキだけどな。



シークは森の中へ消え、クインくんはしっかりとセシリアの準備を手伝っている。

そして、フィオーラちゃんはというと、走り回って遊んでいた。

違う、走り回っているのは式神の猫耳ゴーレムだ。



この美しい山の景色にズシン、ズシンと重そうな巨体の走り回る姿がなんとも……。

楽しそうだから良いのかね。



「隊長ー、たくさん見つけたー」



「おお、良かったな」



腕を振りながら、収穫であろう薬草を握りしめ、こちらへと走ってくるシーク。

先程、森へと入っていったばかりなのに、早いな。



「どんな薬草を見つけてきたんだ?」



「色んな種類の見つけたー。これは隊長用」



はいと手渡された薬草を受取り、観察する。

見た目は普通の草、変な色をしているわけでもなければ、葉っぱや茎に特徴があるわけでもない。

俺用……癒し効果か何かあるのか。



「精神を落ち着かせる効果があるんだー」



「おい、お前は俺をどう思っているんだ!?」



「まあまあ、ヨウキさん。普段、私が出しているハーブティーと似たような物ですよ。煎じてお茶にするんでしょう、そうですよね、シークくん」



「ううんー、この薬草はねー、暴れだした家畜を大人しくさせるのに使われてる強力な薬の材料だよ」



「そ、そうなんですか。そこまで強力な効果がありますと、煎じて飲むのは厳しいかもしれませんね……」



セシリアの表情がひきつっている、フォローのしようがないよな、

俺、怒って良いよね。



「こっちはハピネス姉にあげるんだ~」



「ハピネスに?」



シークは俺で遊びはするが、ハピネスにはそういったおふざけはやらない。

二人で協力して俺をちゃかしてくることはあれど、お互いに悪ふざけをするっていうのは、あまり見たことがないような。



「どんな効果がある薬草なんだ?」



「解熱作用だよ。ハピネス姉、休みの日に出掛けて、帰ってくると、不思議と顔が赤いから。熱があって無理しているのかなーって」



「ぶっ!?」



思わず吹いた。

そういえば、シークはハピネスがレイヴンと付き合う……恋人ができたことを知らないんだ。



ハピネスが羽を伸ばすために森に行った時、見送りはしたけど、理由は言ってなかったもんな。

顔が赤いってのはまあ……今度レイヴンに聞いてみよう。



「熱があるわけではないから、解熱効果はいらん」



「ええー、なんでー?」



「シークにもわかる時が来るさ……」



少しかっこつけて大人の男を演じてみた。

恋愛なんて、シークにはまだ早いし、こいつが恋愛に興味を持つというビジョンが思い浮かばん。

いつまでも弟分……なんてことにはならないんだろうけども。



「ヨウキさん、あの……」



「どうした、セシリア」



「クインくんが……」



「あっ……」



シークよりも大人なクインくんは、ハピネスの顔が赤かったことが何なのか、察してしまったようで……複雑な表情をしていた。



「むにゃ……良い香りがする。ゴー、行こう」



弁当と紅茶の香りに釣られたのか、フィオーラちゃんが空気を読まずに突撃。

呆然としていたクインくんが危うく式神に轢かれるところだった。

無事だったのは、正気に戻ったクインくんがとっさに回避したし、式神もギリギリの位置で止まったからだ。



「……僕を殺す気ですか、フィオーラ」



轢かれてたら、俺とセシリア、シークの三人で治療に当たっていただろうな、クインくんが文句を言うのも無理ない。



「いつもなら、クイン避けるもの。怒った?」



「いえ、別に……」



「嘘だ、苛ついてるの。珍しく」



「……はぁ、普段より少々取り乱していますね。全く、お恥ずかしい限りです」



ハピネスのことかね、クインくんには何かとてつもなく申し訳ない。

シークは二人を交互に見て成り行きを見守っているようだが、一回、落ち着け。



「じゃあ、発散するの」



「そうですね、フィオーラがやる気になるとは……珍しい。母さんが聞いたら喜びますよ」



「お互いに珍しいの。何か変」



そうして二人は戦いを始めた……フィオーラちゃんがクインくんに付き合ってあげている感じか。

あの式神相手に格闘術で対応している、師匠はソフィアさんだろうな。



「隊長、僕も混ざってくるね~」



「おい、シーク」



俺が止めたにも関わらず、参入して三つ巴の戦いになった。

怪我をしたらまあ、自分で薬塗って治療するんだろう。



「止めなくて良いよな」



「そうですね。三人とも楽しそうですし、大怪我しない程度に遊んでくれれば」



「危ないと思ったら止めに入るさ。必要ないだろうけど」



横にはセシリアがいて、少し離れた場所には三人の子どもの姿。

雲一つない空を見上げて平和だなと感じる。



「……今度は二人で来ようか」



「子どもたちには内緒ですね」



見えないように手を繋ぎ、三人が疲れて戻ってくるまで待つことにした。

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