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恋人と子どもたちと出掛けてみた

今日はセシリアとシークたちとピクニックに行く日だ。

天気は快晴、雨の降る心配はなさそうだが、一応傘を持っていこう。

集合場所は町の門の前、セシリアが馬車を手配してくれたのだ。



山の近くに着いたら、徒歩で山を登り景色の良さげな場所があるらしいので、そこを目指す。

景色を楽しみつつ、弁当を食べて帰ってくる予定だ。

弁当もセシリアが作ってきてくれるのだが、何から何まで頼りっぱなし……というのはいかがなものか。



考えた俺は少し大きめのリュックを背負っていく、中身は飲料水、シート、ハンカチ、タオル、マッスルパティシエ特製の日保ちするお菓子、その他諸々。

準備は整ったので、集合場所へと向かった。



俺が早すぎたのか、集合場所には誰もおらず待つことになった。

門の壁を背にして寄りかかり、セシリアたちを待つ。

門の前を通る通行人をぼんやりと眺めていると、見慣れた馬車が視界に入ってきた。



馬車は俺の前で停車し、中からセシリアが降りてくる。

自然に笑顔になるのは仕方ないよな……ごまかしはなしで駆け寄った。



「あ、ヨウキさん。もう来ていたんですね。すみません、待ちましたか?」



「いや、今来たとこ。集合時間ぴったし」



「そうでしたか、では、行きましょう。……しっかりお弁当も作ってきてあるので、楽しみにしていて下さいね」



馬車に乗ろうしたところ、笑みを浮かべながらセシリアに言われ、ドキッとする。

ああ、恋人っていいなあ。



「あ、隊長だ~」



「おはようございます。今日、一日よろしくお願いします」



馬車に乗るとテンションの高いシークとおとなしく椅子に座り読書するクインくん。

そして、座ったまま寝入るフィオーラちゃんがいた。

うん、二人きりではないんだよ、子ども同伴なんだよ。



「……よろしくな」



無事にピクニックのメンバーも揃ったところで目的地へ向けて、馬車は出発した。



「しかし、フィオーラちゃんはよく寝てるな。家でもずっとこんな感じなのか?」



猫耳を着けたまま気持ち良さそうに眠るフィオーラちゃんを尻目にクインくんに尋ねる。



「はい、家でも寝ていることが多いんですよ」



アクアレイン家の所有する馬車とはいえ、多少揺れたりもするんだが、眠りの妨げになっていないらしい。

この娘、クレイマン以上の強者かもしれない、色んな意味で。



「夢中になれることがあればやる気になるんですけど。……ああ、あと母が帰宅する気配を感じたら起きますね」



「何だ、その野性的な勘の鋭さは。ちなみにクレイマンの場合はどうなんだ?」



「そのまま、眠ることを続行します」



娘相手に嘗められているのではないか、クレイマンよ。

隣で会話を聞いているセシリアも微妙な表情。

家庭での父の威厳とやらは存在しないのだろうか。



「でも、父が帰ってきてゆっくりし始めるとフィオーラは起きますね。そして、遊ぶようにせがんできます」



「クレイマン、愛されているじゃないか」



ソファーに寝転がったところでフィオーラちゃんに遊ぼうと誘われるクレイマンを想像すると、何とも微笑ましい。

一般的な家庭の一時という光景が目に浮かぶ。



「式神に相手をさせている場面も見ますが」



「あいつ何やってんだよ」



下手したら育児放棄……いや、クレイマン流の子どもとのスキンシップの取り方なのか。




「フィオーラはそれでも良いみたいでして。それに父も全く構わないわけではないんです。ただ、そこに母が介入することもありますよ。ご飯が出来て呼んだのに来なかったら、第一ラウンドが始まったりと……父と母のやり取りをしている間に僕とフィオーラが先に食べ始めることもあるので」



「……クインくんも大変だな」



人様の家庭事情って複雑なんだと学ぶことができたな。

……で、シークがやたらと静かなのが不気味なんだよ、以前は馬車の中でもえらい騒いでいた記憶があるのに。



「セシリア、シークはどうしたんだ。寝てるみたいだけど、具合が悪いのか?」



「昨日、薬を調合していたところにティールちゃんがやって来たみたいでして、作業が遅れてしまい寝るのが遅くなってしまったようです」



「あー……」



どれくらいの時間、話を聞かされていたのやら、馬車の揺れにシンクロして首が揺れているので、完全に寝ているな。

ガイも一冒険者として働いており、個人で宿を借りて生活しているため、遠慮なくいちゃつくことができるようになったからなぁ。



俺の部屋に住んでいた時も遠慮はなかったと思うが……まあ、完全に気を抜けるというわけで。

シークは前々からティールちゃんの主治医兼、話相手みたいな立場だから。



起きたら労いの言葉でもかけてやろうか、いや、今度何か買ってやろう。

お兄さん奮発するぞー……ダメだ、俺のキャラじゃない。

デュークに全部丸投げするのが俺だ……最低だな。

まあ、サプライズみたいな感じでデュークとハピネスを誘ってみるか、久々に四人で集まるのも良いだろう。



「ヨウキさん。何か楽しそうな顔をしていますね」



「うん、ああ、ちょっと考え事してた。今日はゆったり、のんびりできそうだからかな。心に余裕がある」



「最近は何か目的があって出掛けていましたから、依頼だったり、仲介に入ったりと。今回はヨウキさんの言う通り、のんびりできそうですから……私もうきうきしているんですよ?」



笑顔で窓の景色を眺めているセシリア、風で髪がなびいている感じが美しいと思う。

俺としても今日は楽しみにしていたので、気持ちは同じである。

シークたちがいなかったら、手とか握りにいっていたかもしれない。



少しもやもやした気分になりながらも、景色を見たり、クインくんから家庭内での愚痴を聞いたり、セシリアと話したりしていると、目的地に到着した。



山の麓にある休憩所に馬車を預ける、御者さんはそこで留守番だ。

さて、準備も整ったので山登り開始……。



「結局、シークのやつ起きねぇ!」



揺さぶってもあと五分を繰り返すばかりで実際に起きる気配は皆無。

そして寝坊助はシークだけではなく。



「フィオーラ、起きなさい」



「ぐうぐう」



「ぐうぐうではないです。ほら、立って、歩きますよ」



フィオーラちゃんも爆睡中であり、どうしようか、これという状況。

日帰りなので時間が押すとその分、山の景色を楽しむ時間が減ってしまう。

甘やかすのは良くないのだが……仕方ない。



「俺が背負っていくか」



よっこらせとシークを米俵を担ぐような形で持ち上げる。

これならば二人を担いで山上りができるという素敵な考えだ。



「ヨウキさん、それだと人拐いに間違われてしまいますよ。……怪しいです」



「まじか、それだと抱っことおんぶでいくか? 体勢的に結構きつい……いや、リュックがあるから無理だ。人拐いスタイルでいくしかないぞ。それか、どっちかをなんとかして起こすかだな。シークならどんなことをしても良いなら起こせるぞ」



「止めてください。シークくんに何をするつもりですか!?」



魔王城で聞き分けが悪かった時は無茶をしていたけどな、俺だけでなくデュークも。

無茶と言っても、半分はシークのやつも喜んでいたけど。



「今回は風の中級魔法、《トルネード》と水の中級魔法、《アクアプレッシャー》で水の竜巻を発生させてシークが起きるまで体を洗ってやろうかと」



「却下です」



昔にこれやった時、シークは喜んでいたんだけどな、俺もアトラクションみたいなものをイメージして魔法を使ったし。

ハピネスも加わって遊んでいたら、部屋の中が水浸しになって、仲良くデュークから説教を受けたのは懐かしい思い出だ。



「……ああ、もうっ! フィオーラ、せめて自分の力を使って歩きなさい」



「むにゃむにゃ……ぽい」



フィオーラちゃんが服のポケットから取り出したのは見覚えの紙。

クレイマンが使っている式神だ。

寝ぼけ気味に投げ捨てられたそれはボフンという音と煙を上げる。



石造りの武骨なゴーレムがいた。

顔がなく、シンプルなゴーレムなんだけども……猫耳が着いている。

意味がわからなくて俺もセシリアも固まった。

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