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さらに子守りをしてみた

「はあ、セシリア今日、大丈夫かな」



いきなり押し掛けても迷惑にならないだろうか……子ども二人を引き連れて。

クインくんもフィオーラちゃんも手間がかかりそうな子ではなさそうだけど。

その辺はしっかりとソフィアさんが教育しているんだろう。



「ヨウキさん、手合わせ楽しみにしています」



「ああ、怪我しない程度に手合わせするよ」



クインくんは俺に鍛えてもらいたくてうずうずしている。

冷静で無表情が多いと思ったが、年相応の反応をしてくれてほっとした。



「ねむねむ」



フィオーラちゃんなのだが、歩いているのに寝ているのでないかと思う程の表情。

口は無造作に開いていて、目は閉じているようにしか見えない。

だが、ちゃんと俺とクインくんにしっかり付いてきているし、話しかければ返答が返ってくる、どういうことだ。



「フィオーラは気にしないでください」



「気にするなって言われてもな」



「今、母がこの癖を直そうと試行錯誤しているので」



「そうか、ソフィアさんなら何とかするだろうな」



メイドだけでなく、屋敷の兵士も教育しているソフィアさんなら、子どもの教育もばっちりだろう。



「ヨウキさんは母とも知り合いなんですよね。フィオーラは父と遊ぶのが大好きでして、気をつけていたのに現在の状況になってしまったことを母は一生の不覚だと言っていました」



「……まあ、子どもの内は自由にさせてあげても良いんじゃないかと思うが」



一生の不覚って……ソフィアさん、オーバー過ぎる。

まだまだ、クインくんやフィオーラちゃんは未来の可能性があるからな。

二人共、年はシークと変わらなさそうだし。



……シークは自由にさせ過ぎている気がする。

でも、修業はちゃんとしているってセシリアが前に言ってたし、薬にも詳しい。

薬草関係の本を読んでいて、理解ができているのなら、頭も良いんだろう。



ティールちゃんのガイ自慢にも何だかんだで付き合っているようだし、優しさもある。

うん……でも、シークはまだ子どもだな。



クインくんと話をしつつ、セシリアの屋敷へとたどり着いた俺たちだったが、最初の関門はもちろん……。



「ヨウキ様、今日はお嬢様とお会いする予定はなかったかと。そして、何故、私の息子と娘が一緒なのでしょうか」



「旦那さんからの依頼です」



「そうですか。……少々、用事ができました故、失礼させて頂きます。お嬢様は自室にいらっしゃいますので……ハピネスが庭の掃除に出ていてちょうど終わる頃ですね、案内をお願いしてきます」



「あの……用事って」



「昼休憩のついでに少し町まで。直ぐに戻りますよ」



これ以上は聞かない方が良いんだろうなと思ったので、黙ってソフィアさんを見送った。

クインくんもフィオーラちゃんも大人しいものである。

ソフィアさんもあまり二人にはふれていなかったな。



「父と母の仲が良いことは嬉しいのですが……ほどほどにして欲しいなと思う時もあります」



「……クインくん、大変だな、君も」



将来的に苦労人になりそうな予感がしてしまい、思わずぽんと肩を叩く俺であった。

ほどなくして、風のような速さで屋敷から出ていったソフィアさん。

同時にメイドなハピネスがやってきた。



「……メイド長の子ども」



「おう、ハピネス。男の子がクインくん、女の子がフィオーラちゃんだ」



ハピネスとの会話には少し慣れが必要なので、俺が二人の自己紹介を済ませた。

歩きながら話していれば慣れる……ことはないか。



「はじめまして、クインです」



「フィオーラです……ぐーぐー」



「……よろ」



三人の軽い挨拶が終わり、ハピネスの後ろを着いていく。

目指すはセシリアの部屋……なはずだったのに。



「なんで、庭園?」



「……箒」



どうやら掃除に使っていた箒を片付け忘れていたらしい。

放置するのも良くないと思ったため、片付けに来たということか。

ハピネスは箒を持って足早に物置へ走っていった。



「ハピネスさんてどことなく、不思議な魅力を感じますね」



ハピネスの後ろ姿を眺め、ぽつりとクインくんが呟いた。

まだ、会って数分も経っていないのにそういう風に感じてしまうのか。

……雰囲気や話し方のことだよな、少しだけ不安になる。



一応、ハピネスを追っているクインくんの目を見てみると疑惑はこもっていなかった。

何だろう……近所のお姉さんに憧れる少年、かな。



ハピネスにモテ期が到来しているのかもしれない、恋をすると綺麗になるって聞いたことあるし。

レイヴン危うし、いや、万が一にもあり得ないだろうけど。

とりあえず、クインくんに立ちそうなフラグは早めに折っておこう、可哀想だが。



「クインくん、ハピネスはな。俺みたいな成人男性を容易に吹き飛ばせるくらいの力を……ぐふっ!?」



脇腹に一撃が入る、ハピネスは箒をしまいに行ったはず、誰だ。



「隊長隙あり~」



シークがしてやったりといった表情で俺を見ていた。

タイミング良く拳をめり込ませてきやがって、クインくんは誰ですかって言ってるぞ。



フィオーラちゃんは興味がないのか、欠伸をしている、マイペースな娘だな。

しかし、やられっぱなしは性に合わない。



最近、鍛えているとセシリアが言っていたな、どれ程までのレベルになったのか見てやろうではないか。

俺は脇腹にめり込んだままの腕を払い、シークに殴りかかった。



「わ~い。隊長が怒った~」



「怒ってねぇよ。久々に付き合ってやろうと思ってな。今日はお客さんも一緒だから、出し惜しみ無しコースだ」



以前のシークならぎりぎり反応できなかった程度の速さで組手を始める。

余裕まではいかないがついてこれている、強くなったじゃないか。



そこから段々と速さを上げていき、きつそうなレベルになった所で上げるのを止めた。

さて、限界の速さをどこまで保っていられるかな。



「ほっ、はっ、とっ。頑張れ、お前はできる子だ。もっとだ、もっと」



「う、うう~、はぁっ」



シークの息があがってきた、限界そうだな。

足払いをかけて、体勢を崩したシークの片足を持ち上げて終了。



「離せ~」



「ま、大分鍛練したと見る。頑張ったじゃないか。今度、何か奢ってやるよ」



「本当に! 隊長、太っ腹~」



ご褒美に機嫌を良くしたシークを下ろす。

クインくんとフィオーラちゃんは俺たちの組手を見ていたようだ。

そこそこ、良い感じの組手をしたと思うが、どう感じたかな。



「ヨウキさん、彼は一体何者でしょうか。最初はフィオーラと似たのんびりした印象を持ったのですが。……驚きました。同年代でここまでの動きができるなんて。いえ、僕も負けていないはず」



クインくんがシークを食い入るように見ている。

俺よりシークと手合わせをしたそうだ。

フィオーラちゃんは組手を見ていたが、やはり、そこまでの興味は持っていないらしい。

庭に設置されている椅子に座り、テーブルに突っ伏してしまった。



「隊長~、この子たちは誰」



「ああ。屋敷のメイド長、ソフィアさんの子どもだよ」



「ふーん」



聞いておいてあまり興味がなさそうな返事をするシーク。

お前な、それ癖なのは知っているけど、初対面の相手にその態度は失礼だぞ。



クインくんもあまり、面白くなさそうな顔をしてる、だが、そこはソフィアさんの息子。

すぐに切り変えて自ら自己紹介を始めた。



「初めまして、クインです。シークくん、でしたね。先程のヨウキさんとの手合わせ見事でした。そこでお願いなのですが、是非僕とも一戦、交えてくれませんか」



やっぱりか、そうなるよな。

手合わせを頼まれたシークはというと……。



「良いよ~」



軽い感じで承諾した。

シークもさっきの手合わせだけでは消化不良だったのかもしれない。

暴れても良いような広い場所に移動した二人は軽く跳んだり、腕を回した後、拳で語り合いを始めた。



「……何事」



箒をしまいに行っていたハピネスが戻ってきた。

まあ、そうなるわな。

ちょっと目を離していたら、何故かバトル勃発しているんだから、状況が読めまい。



「シークと手合わせをしたいって、クインくんが言ってな。シークもいつもの調子で承諾した。んで、ああいうことになっている」



「……理解」



「シークも大分強くなったな。俺と組手をしたんだが、以前とはまるで違うぞ。屋敷で相当鍛練を積んでいるな」



「……私、たまに、付き合う」



ハピネスもシークの組手相手をしてやっているようだ。

メイドの仕事ではないが、ハピネスはシークの姉さんみたいなもんだからな。

仕事に支障が出ない範囲で付き合っているんだろう。



「……怪我して、ばれた」



「レイヴンだな……それで」



「……私の代わりに、付き合うって、今度」



良かったなシーク、騎士団長が直々に鍛えてくれるらしいぞ。

レイヴンからは俺が言っておこう、本人はとても強くなりたいのでスパルタコースで頼むってな。



「な、何をしているんですか!」



「あ、セシリア」



たまたまか、誰かが報告したのか。

困り顔のセシリアが走ってきた。

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