勇者様と少女魔法使いの……を聞いてみた
「……場所を移しましょう」
ミカナからか細い声が放たれた。
前方にいた女生徒には聞こえる音量だ。
俺は聴覚強化しているから、ばっちり聞こえるけどな。
ミカナの心情としては、こんな大切な決断を大勢の前で聞かれたくないといったところか。
「わかった、行こう!」
「え……ちょっ」
ユウガはミカナを抱き上げると聖剣の力を解放する。
神々しい光に包まれ浮上していく二人を見て、女生徒のテンションは最高値まで跳ね上がった。
ミカナはユウガの聖剣覚醒を知らないからな、何が起きているのかと困惑気味。
だが、ユウガは待たず状況整理ができていないミカナを連れ、人気のない場所を目指して飛んでいった。
「うーむ、ここは放っておくべきかな。これ以上は踏み入れてはいけない領域っぽい」
「今、飛んでいく最中、ミカナと目が合ったような」
「俺らの姿を見られたと」
「はい。……どのような結果になろうと、後日説明を求められますよ」
後々、会って何かを問われることは確定している。
……そっと、二人の邪魔にならない程度の距離まで接近してみよう。
女生徒たちもユウガとミカナが飛んでいった方向へ走り出してるし。
……あの光は目立つからな、二人きりになんてなれるのか。
俺たちが協力した方が手っ取り早く二人きりになれそうだ。
俺はセシリアに相談して、馬車を走らせる。
目標はもちろん、ユウガとミカナだ。
見失うことはない、空を見上げれば光を纏ったユウガがいる。
あれじゃあ、追いかける女生徒たちを撒くことなんてできない。
勝負はユウガが外れの森に入ってからだ、
光がだんだん下降していく、地面に下り走って二人きりになれる場所を探す気なのだろう。
タイミングを見計らって、ユウガにこっちへこいと手招きすると、迷いもなく馬車の中へ飛び込んできた。
ユウガの背中に押し潰される俺、ミカナを庇うようにしたらしい。
「ぐふっ!」
その心意気は良いが、代わりになんで俺がクッションにならねばならんのだ。
「ミカナ、怪我はない!?」
「まず、俺の上からどけ!」
ラブラブするのは後回しでも良いだろう。
セシリアがミカナの手を引いて、ユウガが起き上がり俺は解放された。
「ここなら大丈夫だろう」
「私たちは……退室しますね」
俺はセシリアと共に馬車から飛び下りた。
ユウガに負けじとお姫様抱っこをしてだ。
地面に下りると走って……少しずつ減速する。
御者には話をしてあるので大丈夫だ、何処を目指すかもわかっている。
……セシリアが下ろしてくださいと言っているが、このまま向かおう。
「ダッシュ!」
「ヨウキさん、枝や木に気をつけてくださいね……」
「任せて……っと」
「危険な香りがしますよ」
通ったことのない慣れない森だからな、よそ見はできない。
セシリアに怪我をさせる気なんてさらさらないが。
馬車へゆっくりと近づいていくとちょうど、二人が見つめあっていた。
馬車から降りたようだ、狭いの馬車の中でプロポーズの返事を聞くのもな、当然か。
「僕じゃ駄目……かな」
ユウガがイケメンボイスをフル活用し、血を吐きそうになりかねない台詞をぶちかました。
平然している……さすが勇者だな。
「もしかして……僕のこと本気で嫌いになった?」
ユウガの更なる追撃、あいつ狙っているわけではないだろうから、素で聞いてるのか、すごいな。
ユウガの勇者っぷりを垣間見た気がする。
「そんなわけないじゃない、嫌いなわけ……あー、もう!」
ミカナが感情が高ぶったのか、腕を大きく振り上げる。
二人のいつものパターン、殴られてぶっ飛ぶだな。
しかし、ユウガは全く焦っておらず静かに目を閉じた、殴られる気満々らしい。
ミカナの強烈な拳が……ユウガに当たることはなかった、手をぶらぶらさせながら、腕をそっと下ろしたのだ。
「……はあ、全くもう」
「ミ、ミカナ?」
「怒ろうと思ったんだけど……自分でなんで怒ってるのか、わからなくなったわ」
「え?」
「だってそうじゃない。こっちは小さい頃から好きで、相手は気づいてくれなくて。…自分じゃない娘を好きになったって知って……それでも好きで。そんな相手が拒絶した半月後にプロポーズをしてきた。……しっかり外堀も埋めてね」
「……ミカナ、やっぱり怒ってる?」
「だから、怒ってないってば! ……本当にアタシで良いの、貴族の令嬢やお姫様からも声かかってたでしょ?」
「ミカナが良いんだ。ミカナじゃないと」
「アタシはあんたのなんなのよ……」
ミカナが頭を押さえ考えている。
ミカナが良いという理由はさんざんユウガが話してきたと思うが、ユウガの口から改めて聞くと。
「僕の大切な幼馴染みだよ」
「……そうだったわね」
「でも、僕としてはお嫁さんになってほしいな」
ユウガがここぞとばかりに懐から指輪を取り出した。
あいつ狙ってやってないのか、本当に。
セシリアが口を押さえ、顔を赤くし食い入るように二人を見ている。
気になるよな、俺もセシリアの気持ちがわかる。
ユウガとは思えないほど、言葉選びやタイミングが完璧なのだ。
ミカナは何も言わずそっぽ向き下唇を噛みしめて……小さく首を縦に振った。
思わずやったーと両手を上げて喜びそうになったが、隠れている身だと思い出しぐっとこらえる。
「ミカナ……」
「そ、そこまで準備されたら断れないし、指輪もアタシが好きそうなやつじゃない。式場のこととか、気を遣ってくれた部分もあるし……アタシもユウガが好きだから」
急にミカナが饒舌になり、言い訳やら自分の本心やらをさらけ出した。
顔を真っ赤にしている、自分が何を喋っているかわからないまま話しているようだ。
冷静になったら、さらに顔を赤くすることだろう。
そんなあまり見せないミカナを見て、ユウガが黙っているわけがない。
両手を広げて抱きしめ……うん?
「セシリア、あの二人……」
「行きましょう、ヨウキさん。ここから先は私たちが見てはいけないものです」
セシリアに手を引かれ、こそこそとこの場を離れる。
まあ、見ていられないよな。
立ち去る前にそっと後ろを振り返る。
逃がさないためか、両手でミカナの顔をがっちりとホールドして……ユウガはキスをしたのだ。
二人はまだ、その最中……俺は前を向く。
二人の世界に俺とセシリアがいるのは無粋というものだろうからな。
ただ、後ろから大声が聞こえてくるので、それは仕方ない。
「ミカナ、式場とドレス見に行こう!」
「アタシ、明日も講師として仕事が……」
「じゃあ、僕も手伝うから」
「男子禁制よ、馬鹿!」
「そっか……じゃあ、宿まで送っていくね」
「いや、目立つから……ちょっと、ユウガ!」
俺とセシリアの頭上を神々しい光が軌跡を作りながら過ぎていく。
ミカナの苦労は続きそうだな。
「幸せそうだからな。問題ないか」
「大有り……と言いたいところですが、そうですね」
俺とセシリアは顔を見合わせて笑う。
ここにミカナとユウガがいたらなんと言うだろうか。
ユウガはもちろんと言いそうだがミカナは……。
「大有りよー!!」
ミカナの怒号が聞こえた。
ユウガが何かを言ったのか……偶々こちらの考えていることとシンクロしたな。
「これから大変だな、ミカナも」
「そのようです」
俺とセシリアは再び笑いあった。




