勇者と少女魔法使いの結末を見てみた
「セシリア、馬車じゃ追い付けないぞ。……追い付いたとしても、あの勇者を止められるかどうか」
馬車に乗ってコルティア女学園に向かっているが追い付くどころか、離されていってるから驚きだ。
秘められた聖剣の力……まさに物語の勇者や主人公が用いそうなものだとわかる。
……本当になんで今、解放されたんだろう。
「……ですが、あのまま指をくわえている場合でもなかったはずです」
「やっぱ、俺が魔族になって先回りをするか。直接足止めをするっていう手も……」
「それだけは絶対に駄目です。……お願いですから」
両手を握られ上目遣いで懇願された。
狭い馬車の中で二人きりという状況で恋人からこんな風にお願いされたら。
「ご、ごめん。わかった」
聞くしかないよね、男だったら。
セシリアは俺が魔族化するの、あまり好きじゃないみたいだ。
俺も最終的に角と翼をもがなきゃならないから、極力なりたくないけど。
そんなわけで馬車でユウガを追っているのだが、ユウガが全く失速しない。
あんな速さで飛んでいたら、それなりに疲れが出るはずだ。
俺だって長時間飛び続けたら、肩がこったり、体がだるくなったりするのに。
休憩無し、水分補給無しでユウガはかれこれ三時間近く飛んでいる。
……その力、もっと他に使い道あるだろ。
「セシリア、ユウガの体力ってこんなにあったか?」
「……勇者様はやると決めたら、止まりません」
「そうだった……」
スタミナ切れは狙えそうにない。
コルティア女学園まで付き合うしかなさそうだな、こりゃ。
俺の嫌な予感は的中し、ユウガは休むことなく飛び続けた。
コルティア女学園まで六時間くらいかかったかな、その間ユウガは休み無し……勇者の行動力が末恐ろしく感じる。
「このままだと、女学園に侵入してミカナの名前を叫びまくって大混乱だな。ユウガの行動パターンはそんなもんだろ」
「冷静に分析している場合では……」
「うーん、ここまで来たら好きにさせるしかないような気もするぞ。ほら、光が収まってく」
女学園の門の辺りで飛び続けていたユウガが失速し、止まった。
そして、門に背中を預けたのだ、中に入る気はないらしい。
ミカナが出てくるの待っているのか。
俺とセシリアは馬車から下りて、木の後ろに隠れて様子を伺うことにした。
「何故、隠れる必要が……」
「様子見ってやつ。今のユウガは問題を起こしそうな気配は無いし」
こっそりとユウガを見守っていると、コルティア女学園の女生徒が何人か出てきた。
ユウガに気づいた女生徒が近づいていく、変装してないから丸わかりだからな。
ただのイケメンならまだしも、勇者ユウガだとばれているっぽい。
質問攻めにされている、女に囲まれたら何かトラブルが生まれてしまうぞ。
「あの、良ければこれから食事とかどうですか?」
案の定、食事に誘われてるよ。
他にも買い物やこの辺を案内するという女生徒も出てきている。
これではユウガが生徒に着いていって、何かが起こってミカナが収束させるパターンに……。
「ごめんね、待っている人がいるんだ」
ユウガが全員の誘いを断った。
それはそれで、女生徒たちが声をあげているけどな。
待ち人は誰かと盛り上がっているのがわかる。
「ユウガ、断ったな」
「……私は勇者様が誘いを受けて、あんなにあっさりと断ったところを初めて見ます」
一緒に隠れているセシリアも目を点にして、驚いている。
ユウガの心配、しなくても良さそうだぞ。
危なげなく、女生徒たちの誘いを断っていると、ユウガお目当ての人物が歩いてきた。
まだ、ユウガが来ていることに気づいておらず、人が集まっている程度の認識だろう。
「ミカナ、気づいてませんね」
「騒がしいなって思っているくらいだろうな。ユウガが中心にいるなんて思ってもいないさ」
「私も同意見です。明日も特別講師の仕事がありますから。準備等のことしか考えていないかと」
ミカナの顔を良く見たら少し疲れが見える。
頭の中では明日のことを考えていると……そこにユウガが入っていくわけだ。
「ユウガはミカナが出てきたことに気づいたな。生徒を掻き分けてる」
ユウガを中心に形成されていた生徒たちの輪が徐々に崩れ始めた。
ミカナも誰かが自分に向かってきていると気づいたようだ、立ち止まって、首を傾げている。
「ちょ……通してお願い!」
「えっ……」
「ユウガの声にミカナが反応したな」
「はい……」
ミカナは嘘でしょ、とか考えているに違いない。
生徒たちの中からようやくユウガが出てくると、一直線にミカナへと突撃した。
情熱的といえば聞こえは良いが……ミカナはなんでここにいるのと言いたげだ。
「話したいことがあって来たんだ!」
「話したいことって……そのために来たの!? わざわざミネルバから」
「飛んできた。聖剣が力を……って、それよりも、聞いて欲しいことがある」
ユウガは逃がさないと言わんばかりにミカナの両肩を掴む。
女生徒たちから黄色い声援が飛んでいる、こういった恋愛の場面は……もえるんだろう。
女学園だから尚更かもしれない。
「ここで言うのか、ユウガは」
「勇者様、どうするんでしょうか」
「うーん……」
今までのことに対する謝罪か……または告白か。
ユウガの心はミカナに向いている、聖剣が覚醒したぐらいの覚悟もあるようだし。
生半可なことではないはずだ。
「今までずっと迷惑をミカナにはかけた。……今も迷惑をかけているかもしれないけど……ごめん」
「ああ、アタシもこの前は言い過ぎたわね……その、悪かったわ」
しんみりした空気になっているが、これはこれで仲直りできたみたいだし解決で良いんじゃないか。
女生徒たちはがっかりしている。
安心しろ、俺の予想ではユウガはここで終わらないから。
「僕はこれからもたくさん、ミカナに迷惑をかけると思う。具体的な回数はわからないけど、確実に」
「……あんた、反省してるのかしら。開き直ってない」
「自分を見つめ直したけど、一人じゃ駄目そうなんだ。だから、ミカナに協力して欲しい。僕が九十九回、迷惑をかけたら百回叱って欲しい。九百九十九回だったら千回……」
「ちょっ、アタシ、ユウガにどれだけ付き合えば良いのよ!?」
「ずっと……ずっと、側で」
ユウガの真剣な眼差しを受けて、ミカナはようやく気づいたようだ。
幼馴染みの勇者が出したことのない雰囲気を纏っていると。
内容はともかく、あれは告白している……ように見える。
「側でって……ユウガ」
「ミカナ……」
ミカナも察したようで、ユウガも自分の気持ちを具体的に言う決心がついたみたいだ。
ごくり唾を飲み込む、ギャラリーの女生徒たちも二人に釘付けだ。
俺とセシリアはそこそこ落ち着いていたりする。
想定はしていたからな、セシリアも安堵した表情を見せている。
ユウガとミカナのことを心配していたのだろう。
俺もユウガのために奔走していたので、良い結果になって良かったと思っていたり。
ここにいないレイヴンも二人の話を聞いたら祝福してくれるはずだしな。
さて、あとはユウガとミカナの問題だし立ち去るか……。
「僕と、結婚しよう」
きゃーっ、と女生徒たちからの悲鳴が聞こえた。
「セシリア……ユウガが過程をすっ飛ばしたぞ」
「結婚、という形を取ることは珍しくありません。ただ、勇者様とミカナの間柄ならば、もっと親交を深めてからでも良いと思いますが」
「まあ、言うほど間違った発言はしていないと」
しかし、ここからユウガのターンが始まった。
ミカナの返事がまだだからか、ユウガががんがん攻めだしたのだ。
「僕に好意を持ってくれてた女の子たちとは決着をつけたよ」
女生徒たちがざわついた。
「僕たちが結婚するにあたって生じる外交的な問題については、王様に頼んだ」
女生徒たちがさらにざわついた。
「ミカナの両親にも頭を下げてきたよ」
女生徒たちがまたまたざわついた。
「式場とかはミカナと決めたかったからまだだけど……これ」
ユウガが懐から出したのは小さな箱。
まさかなと思っていたら……開けたら指輪が収まっているではないか。
ユウガの話したことも相まって、俺とセシリアは絶句。
半月も行動に移さなかった理由が今、わかった。
ユウガは……外堀を埋めていたのだ、完璧に。
「もちろん、まだかもしれないっていうことで……あとはミカナの返事だけなんだ」
かもしれない、ユウガなりに取り返しのつく範囲内で踏みとどまった状態だと。
……セシリアの意見を聞いてみよう。
「セシリア……どう思う」
「あそこまでことを進めているとなると……勇者様の中では」
「ギリギリ戻れるって考えなんだろうな。実際のところ、もしミカナが拒否したらどうなるの?」
あの王様なら許してくれそうな気もするけど。
「……勇者様を慕っていた娘はたくさんいましたから、報復が怖いですね。これでは、噂になることは確実ですし」
「どうすんだ、これ?」
ミカナの返事によって変わるのだが、本人はうつむいたままだ。
表情は見えない、ただ、ぶつぶつと何か言っているな。
ユウガは返事を静かに待っているが、待つのにも限界があるぞ。
中途半端でごめんなさい。




