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勇者を追ってみた

ユウガが何かを起こす……そう思っていたんだが、セシリアからもレイヴンからもこれといった動きがあると連絡は来なかった。

ユウガを監視していたわけではないが……ミカナと会った形跡はない。



セシリアにも接触がなかったらしく、何をしているのやら。

気にはなるが、ユウガなりに答えを見つけ行動をしているのだ。

興味本意でつつくのは良くない。



「それにしたって、もう半月は経つぞ……何をする気なんだ?」



調べるのは駄目だと思ってはいるが、気になって仕方ない。

すぐ行動に移せないわけでもあるのか……または、覚悟が決まらずに一人悩んでいるかだ。

しかし、ユウガと別れた時の目は何かを決意した者の目だった。



ユウガは何かをしようとしている……それがどんな結末を生むのかわからないが。

俺は俺で、セシリアが長期間留守にすると言っていたので……会っておこうと屋敷に向かっている。



道中、歩いてくる人影が見えてきた。

セシリアの屋敷まで一本道、つまり、相手は屋敷から出てきたということになる。



視覚を強化してみると……ユウガだった。

何かをやり遂げた、そんな顔をしている。

距離が近づくとユウガも俺だとわかったのか、手を振りながら駆けてきた。



「やあ、ヨウキくん」



「おう。……セシリアに会いに行ってたのか」



言い方が少し堅かったかもしれない、言い終わった直後に反省した。

つい、手を出したのではないかと頭によぎってしまったのだ。

ユウガの態度を考えたら、そんなことするはずないのにな。



「あはは、心配しなくても大丈夫だよ。僕はけじめをつけに行っただけだから」



「けじめ?」



「うん。ヨウキくんはこれからセシリアの所に行くんでしょ。話はセシリアから聞いて。……僕はミカナに会いに行かなくちゃ」



ごめんねと申し訳なさそうに両手を合わせて、足早に去っていった。

ミカナに会うか……俺の心配は杞憂だったな。

ユウガは答えを見つけたんだ、セシリアにけじめをつけたということは。



「勇者様ですか。つい先程、お帰りになりましたよ。……来て早々、謝罪されました」



「そっか」



「はい。今までごめんと言って」



「土下座したと」



ユウガの言っていたけじめをつけたとはそういうことだったのか。

土下座での謝罪……理由も言ったのかね。



「長い間、迷惑をかけたと。許して欲しいとは言わない。失礼なことをしていたから、謝罪を受け取ってくれと言われましたよ。気にしないで下さいと言ったら、涙を流しながら、お礼を言われました」



「ユウガがそんなことをね……」



ミカナのところに行くと言っていたし、もう、この件は解決したも同然か。



「そういえば、留守にするって言ってたけど、仕事?」



「はい、二週間、学園の特別講師として呼ばれているんですよ」



「学園!?」



異世界と言えば鉄板みたいなものである、学園。

魔法や技を習得して、力をつけて青春を謳歌する場所だな。



「……私が行くのは女学園ですよ。男子生徒はいません」



「まじか。青春はどうなるんだよ!」



「主に貴族が娘を勉強させるために入れる学園ですから。作法やダンスなど……そちらがメインになります」



俺の思い描いていた学園像とは違うらしい。

こう……イケメンがハーレム作って仲間と成長していくのが学園だと思ってた。



そして、世界に危険が迫ってイケメンの力が覚醒して、平和になるみたいな。

俺が想像力豊か過ぎたのだろう、現実はそんなものか。



「じゃあ、セシリアは貴族の女性としての生き方的なものを教えに行くってことだな」



「私はまだまだ、貴族としての在り方を教えられるほどの立場ではありませんよ。普通に魔法や護身術を教えていますから。そっち方面の講師ですよ」



「セシリアなら交渉術も教えられるんじゃないか。あとは、子どもの対応とか」



「前者はともかく、後者はそういう意味だと捉えてもよろしいですか?」



「あっ、やべ……」



セシリアの地雷を踏んでしまった。

思い切り踏んだわけではないので、まだ、不発で済んでいる。

なんとか、話の流れを変えねば……。



「そ、そうだ。ユウガがミカナに会いに行くって言ってたな。もう、ミカナと会ってる頃だろ。上手くいってたら良いな」



「ミカナはいませんよ。私と同様、特別講師として呼ばれていますから」



「え、いや、でも、セシリアはまだいるし」



「ミカナは私よりも先行しているだけです」



だから、礼服を買っていたのか、見合いではなかったんだな。

……ユウガはどうするんだろう、あの様子じゃミカナのことは知らなさそうだし。

ふと、会いに行かなくちゃと言っていたユウガを思い出す。



決意に満ちた目が別の意味に聞こえてくるぞ……いや、こんなこと考えては駄目だ。

ユウガの覚悟は本物だ、待つ道を選ぶはず。



「はぁーっ、ぜぇーっ……セシリアぁ、ミカナの居場所知らない!?」



扉越しに聞こえるユウガの声、ノックはしてないが勝手に入ってきてはいないな。

息づかいが荒い、全力で休まずに走ってきたのだろう。

セシリアが承諾し部屋に入ってきたユウガは全身汗だくの状態だった。



「ゆ、勇者様……」



「大丈夫か?」



「はぁっ、はぁっ、だ、大丈夫……み、ミカナは……何処?」



ここまで必死になっているユウガにミカナのいる場所を教えてよいものか。

教えたら向かう気がする、女学園に乗り込むのはいくら勇者でも……問題になる。



「お願いだ、教えてくれっ!」



「……っ、ミカナは、コルティア女学園に……」



教えない方が良い、セシリアに目配せをしたのだが、ユウガの鬼気迫る勢いに押されてしまったようだ。

セシリアがミカナの向かった女学園の名前を言ってしまったのだ。



「コルティア女学園……よし!」



「よしじゃねぇぇぇ!」



俺はユウガに飛び付いて、押し倒した。

おせっかいかもしれないが、向かわせたら大惨事はほぼ確定している。



「離してヨウキくん! 僕は……」



「落ち着けって、行ったら結局、いつもと同じ結末じゃねーかよ」



ミカナに怒られて終了、これがユウガのお決まりパターンだ。

しかも、ミカナだけじゃなく女学園の生徒や講師にも迷惑がかかるぞ。



じたばた暴れるユウガをセシリアが持ってきた縄で縛る。

これで動けまい、あとは、説得するしかないな。



「というかセシリア。縄なんてどこから……」



「昔使っていた道具ですよ」



「昔使っていた……道具?」



「旅をしていたら、こういった物が役立つ場合があるんですよ」



勇者パーティーの旅は過酷な場所を通ったりもしたようだ。

山を登り、谷を下り、川や海を渡ってと……壮絶だな。



「うぐぐぐぐ……」



セシリアと会話をしつつ安心していたのも束の間。

なんと、ユウガが力づくで縄から脱出しようとしていたのだ。

おいおい……セシリアが渡してきた縄はサバイバル用の頑丈なやつだぞ。



それがミチミチと悲鳴を上げ始めているのだ、俺もセシリアも信じられないと顔が凍りつく。

思わず、《セイント・チェーン》を発動して本格的に拘束してしまった。



「やっべ」



「ヨウキさん、やり過ぎです。早く魔法の解除を……」



「うおぉぉぉお!」



セシリアに言われ、魔法の解除をしようとした矢先。

ユウガの咆哮と共に、縄と《セイント・チェーン》が弾けた。



衝撃によって生まれた煙から神々しい光に包まれたユウガが姿を現す。

何が起こっているのかわからず呆然と立ち尽くしてしまった。



秘められた力が解き放たれるとか、さっき妄想をしていたけども。

ユウガの覚醒は理由もタイミングも絶対におかしい。

当の本人は極めて冷静に自分の状態を分析している。



「聖剣が……力を貸してくれてるみたいだ」



「貸すの今か!? もっと貸さなきゃならない場面あっただろ」



主に魔王城で俺と戦った時とか、魔王との最終決戦時とかさ。



「本当にごめん、ヨウキくん、セシリア。僕、行くから」



窓から飛び下りたユウガは光を纏い、駆けていった。

……気のせいかな、少しだけ飛んでるように見える。

地面に足着いてるかな、あれ。



「た、大変です。ヨウキさん、すぐに追いかけましょう!」



「よし、翼を生やすか」



「駄目ですよ。馬車で行きましょう。荷物は整えているので大丈夫ですから」



セシリアに手を引かれ、馬車に乗り込む。

そのまま、ユウガを追ってコルティア女学園へと向かった。




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