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少女魔法使いを尾行してみた

「なあ、今、ミカナが居たぞ。何やら真面目そうな感じだった」



「……真面目そう?」



「こう……きりっとしてたな」



それとなく、渋い男の顔を頑張ってしてみたが、ハピネスに鼻で笑われた。

レイヴンは無言で首を横に振っていたので、似合わなかったということだろう。



「……事件の、香り」



「……あ、ハピネス!?」



渋い男の顔から事件を連想させたのか、ハピネスが店の外に出ていってしまった。

代金未払いだぞ、残された俺たちが払っておけということか。



「……ここは俺が払おう」



「いや、自分の分は自分で出すよ」



そそくさと代金を支払い、出ていったハピネスを追う。

だが、店を出るとそこはたくさんの人が往来しており、ハピネスもその中にいる。

普通ならば見失っているだろうが、俺は探すのは得意だ。



「任せろレイヴン、嗅覚、聴覚を強化して……」



「……こっちだ」



「え、何処!?」



レイヴンに着いていくが、俺にはハピネスの姿が見えない。



「……あれだ。今日着ていたハピネスの服、扇もちらちらと見えているだろう」



「あー、確かにそうだけどさ」



行き交う人々の間から時々見えるようなレベルだぞ。

俺がしょぼいのかレイヴンがすごいのか、愛のなせる技なんだろう。

それとも騎士団長の並外れた洞察力を用いたという可能性も……。



「……俺だって、この人混みの中からセシリアを見つけることはできるぞ」



とりあえず、負け惜しみのような台詞をレイヴンに聞こえないような声でぼそっと呟いた。



「……ハピネス、ダメだろ。急に店から飛び出して」



「……観察」



「うん……服屋だな。それも、それも貴族御用達って感じの高級感溢れる」



「……隊長、縁無」



「どうせ俺は庶民派だよ!」



セシリアと一緒に買い物する時は、そりゃあ背伸びして入るけども。

倹約家で将来のことを考えて貯蓄しているわけで、個人でそこまで贅沢はしていないからな。



「……そうか。ハピネスはああいう感じの店が好きなのか」



俺とハピネスのいつもの漫才に幸せ絶頂なレイヴンが入ってくる。

ハピネスが目を見開いて、何度も首を横に振り否定した。

なんだ、彼氏に浪費癖、贅沢大好きっていうイメージをつけたくないのか。



「いてっ!」



俺が普段見せないハピネスの慌てようを見て、にやついていることに気づかれたようだ。

恨めしそうな目で睨まれたと同時に、脛を蹴られた。

地味に痛いところを……しかもレイヴンから見えない位置を攻撃しやがった。



「……報い」



「俺のせいじゃないからな」



「……二人とも、見ろ。ミカナが動いたぞ」



レイヴンに言われて、遠目からミカナの様子を見ると礼服を選んでいるようだった。



「礼服……なんかのパーティーにでも出るのか」



「……パーティー、ドレス」



「あ、そうか。……じゃあ、なんだろ。式典か何かあったっけ」



「……近日中に式典をやる予定はない。あるなら、警備の都合上、騎士団にも連絡がくるからな」



「まさか、お見合いとか」



レイヴンとハピネスが複雑そうな表情に変わり、肯定も否定もせずに黙ってしまった。

発言した張本人の俺も苦笑いしつつ、首を傾げる。

ミカナがユウガ一筋っていうのは、本人からの話やユウガへの目に見えるほどのアピールからして、間違いない。



しかし、ユウガから聞いた話があるからな……愛想を尽かしていてもおかしくない。

幼い頃からの想いが砕け散るには、充分な暴言をはいたからな、あいつ。



「何も見なかったことにして、今日は解散ということで……」



「……不服!」



「……ヨウキ。俺とハピネスは初デートだったんだぞ。こんな空気になって、何もなかったことに……できるわけがないだろう」



初デートが何とも後味の悪い思い出が残ってしまう形になってしまうと。

非常に申し訳ない気持ちになるが……どうしろと。



「話しかけるのも、なあ」



事情を知っているだけに前に進めない。

もし、仮に、ないとは思うけども、お見合いがあるから服を新調しに来たと言われたら。



……ユウガをブライリングに送り出した意味が全くもって無くなる。

今後、恋愛する際に活かしてくれとしか言いようがない。



「……ユウガへの想いが冷めることはないと、俺は思いたい」



「願望になっているぞ、レイヴン」



「……いつから俺は仲間を信用できなくなってしまったんだ」



「パーティーのリーダーである勇者様が盛大にやらかしたからだろ」



「……同意」



いてもいなくても、場に影響を与えるユウガを俺は純粋にすごいとも思う。

あれこれと、三人で悩むも行動に移れるような決定的な案は出ず。



気がつけばミカナは店からいなくなっているという、最悪な展開になった。



「よし、忘れよう」



「……無理」



「……もやもやが消えないんだが」



「別にお見合いをするって決まったわけじゃないし、ユウガに賭けよう。……改心して帰ってくると信じて」



カイウス頼みの完全な人任せ……いや、吸血鬼任せとなるな。

だが、俺には殴っても理解ができていなかったユウガに、これ以上どうしろと、という話。



まあ、見事にレベルアップしてユウガが白馬の王子様に生まれ変わり、ミカナを迎えに来てくれるさ。



「……」



「……ハピネス、変な物を食べたような顔になっているぞ、大丈夫か」



ハピネスが不快感を感じたのか、眉間にしわを寄せている。

……ユウガとハピネスって接点があまりないはずなんだけど……ここまで嫌悪感を出すとか。



レイヴンが心配そう背中をさすっている、勇者だからな、すごい攻撃力を持っているな、本当に。



「じゃあ、お疲れさん……情報に進展があったら連絡するよ」



二人でごゆっくりデートを楽しんでくれ、と心の中でエールを送りその場を離れた。



それから、十日ほど経ったがミカナがお見合いをしたなんていう情報はなく。

ユウガはまだ帰ってこず、ミカナもこれといった動きは見せなかったので、平和な時が流れた。



「そろそろ、ユウガが帰ってきてもおかしくないんだけどな」



長期間、滞在する理由もないし、カイウスは修行というよりもアドバイスをして終わりって感じだし。

移動時間を考えると順調に事が進んだのならば、近日中に帰ってきてもおかしくない。



「ま、のんびり待つことにしよう」



お茶を飲み、出かける準備をしている、コンコンコンと三回扉をノックする音が聞こえた。



「噂をすればってやつかね。……ちょっと、待ってくれ」



どうせユウガだろうと、急いで身支度をして扉を開ける。

……扉を開けて気づいた、ユウガは三回も礼儀正しくノックなんてしないと。



「はっはっは、久しぶりだな」



扉を開けると案の定、ユウガではなく……カイウスが立っていた。



「なんで、カイウスがここに……」



「説明は部屋の中で……っと、失礼」



とりあえず、部屋の中へと思ったようだが……背中に背負っている物が邪魔で苦戦している。

何を持っているかというと、木製の棺桶。



ごとごとと中で動く音が聞こえるので、中身があることは確定している。



「おっ、お前。それなんだよ!?」



「ん、ああ。これには絶対に触らないでくれよ。私の命と同等……いや、それ以上の物と考えてくれて良い」



そっと壁に立て掛けると、まだ微妙に中で動いている

……深くツッコミたいのだけれども、どうしたもんかね。

ユウガがどうなったのか知りたいし、ユウガの友人のショットくんの件もある。



棺桶を愛しそうに眺めている辺り、中身が何か想像出来るけどもまさか、遠出時にも一緒に連れてくるとかさ。



「えっと、恋人は元気?」



「はっはっは。いやあ、実はまだ目覚めなくてね。本当に寝坊助なことなんだが」



ガタガタと棺桶の揺れる音が激しくなり始めた。

確実に恋人起きてるだろ、明らかに棺桶から出たがっているだろ。

カイウスと話しているのだが、どうしても棺桶が気になり視線が逸れる。



しかし、俺があからさまに棺桶をガン見しているのにカイウスは全く気にしていない。



「いつ目覚めるかわからないからね。彼女が起きた時、私がそばにいなかったらと考えると……一緒に連れて来たくなるのだよ」



いやいや、恋人絶対もう起きてるよ、超元気だよ。

あれだけ揺れてるし、しまいには中から棺桶の扉を叩く音まで聞こえ始めたし、最早軽いホラーなんだが。



「あ、ああ、そうなのか。それで、彼女さんは声とか出せなかったっけ」



「うん、彼女は健康そのものさ。ただ、町中を歩いている間に彼女が起きてパニックを起こしてしまったら、ちょっとした騒ぎになるからね。相応の処置はしたよ」



「相応の処置って……」



聴覚を強化してみると微かにうめき声が聞こえる。

音がどこから聞こえるかは言うまでもない。



「カイウス、彼女さんと何かあったのか」



「何も変わらないさ。私は彼女を愛している」



「いやいやいや……」



だったら、あのうめき声が聞こえて、ガタガタ揺れてる棺桶はどう説明するんだよ。



「ふむ、何やら納得がいっていない顔をしているな。……日差しは彼女にとって毒みたいなものだ。長い間、眠っていたままの彼女には特に効くだろう」



ガタガタと揺れていた棺桶が急に静かになった。



「夜の間ならば陽も出ていないから普通に歩ける。それに何か起きても夜なら私の力が存分に使える」



「ミネルバの中で問題を起こすのは止めてくれよ」



「……なあに、問題は起こさないさ。認知されなければ良いということだろう」



「よくねーよ!」



ばれなければ良いなんていうことは許されないぞ。

棺桶もまた揺れ出したし、彼女さんも今の発言は許せないみたいだ。

カイウスは棺桶を一瞥すると、優しげな笑みを浮かべ冗談さと呟く。



「全く……町中で騒ぎは起こさないようにしてくれよ。はしゃぐのはわかるけどさ」



「はっはっは。安心してくれよ、迷惑はかけんさ。年甲斐もなく暴れたりはせんさ」



「なら、良いけどさ。そういや、ユウガは? そっちに送ったはずなんだけど」



「彼か……ふむ。実はだな」



神妙な表情、先ほど恋人の話をしていた時とはうって変わってのこの空気。

ユウガに何か起きたのか、あの勇者のことだから本人にではなく、本人がの方が正しいか。



あいつ、また何かトラブルに見舞われたんじゃないだろうな。

ここにユウガが来ておらず、カイウスだけが来ているだけに可能性が高い。



俺の不安が募る中、カイウスが口を開いた。



「話を聞くだけではどうも解決できそうになくてな。だが、ここで諦めてしまっては恋のキューピッドの名が泣いてしまう。従って……特別に出張しにきたというわけさ」



どうやら、勇者は恋のキューピッドに特例の出張をしてもらわなくてはならない程、重症のようだ。

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