指名依頼を受けてみた
2/25 内容を一部変更しました
「ふざけんなよ!」
俺は動かなくなった式神を握りしめてギルドへと向かった。
セシリアのこともあって、今は忙しいというのに……面倒臭がりも大概にしろよな。
俺はギルドに着くなり、真っ直ぐにクレイマンのいる受け付けへと走る。
「お、来たか」
「来たかじゃねーよ。呼ぶにしてももう少し、情報をだな」
「取り敢えず、裏口に行くぞ」
ここでは話せない内容なのか、内緒話確定らしく裏口で説明を聞くことなった。
「現在、ヨウキという存在が生きる時間で一位、二位を争うくらいの修羅場真っ最中なんだけど」
「なんだそりゃ、こっち関係か」
小指を立てるクレイマン。
その指を逆方向にへし折ってやりたい。
こいつは奥さんとラブラブだからな、勝ち組だからな、余裕だもんな。
「おいおい、冗談だろーが。なんつー目ぇしてんだお前」
「……そうだな、悪い」
「いや、俺は良いけどよ……で、依頼についてなんだが。依頼人は騎士団長様だ」
「はぁ!? 」
黒雷の魔剣士指名依頼を出したのがレイヴンだと。
「お前、確か騎士団長とも知り合いだったろ。わざわざ依頼って形で頼んでくるんだから、面倒なこと抱えてんだろーな。つーか、正体隠していたんじゃねーのか」
「色々とあってばれたんだよ! ……で、わざわざギルドに依頼する理由はなんなのかね」
別にレイヴンの頼みなら、個人的に引き受けても全然構わないのだけど。
クレイマンから依頼書を受け取り、内容をチェックする。
「何々……王都見回りの手伝い。詳細は直接会って説明する。……なんだこりゃ」
「Aランク任務には情報の漏洩を防ぐために直接会って内容の詳細を話すっていう場合もある。……ま、聞いたら大体、断れねーけどな」
「へー、そうなのか」
「受ける気があるなら話を聞いてこいよ。勿論、あの格好でな」
話は以上だと言われ、クレイマンはギルドへと戻っていった。
依頼書を持った俺だけが取り残される。
今はセシリアがお見合い真っ最中、相手はミネルバ滞在中。
依頼なんて受けている暇はないんだ。
「……でも、レイヴンは俺にしか出来ないようなことだから、わざわざ依頼をしてきたんだよな」
直ぐにやらないと決めるのは早いか。
セシリアのことは心配だ、すごく気になる。
でも、それで騒いだりなんかしたら、セシリアの迷惑になるだけだ。
気にかけつつ、俺は普段通りに生活しないといけない。
また、怒らせてしまう方が駄目だろう。
俺が正座、目の前に仁王立ちしているセシリアという光景を思い出し、何故か笑ってしまった。
「よし、レイヴンの所に行くか」
気合いを入れ直し、俺はレイヴンのいる騎士団本部へと向かった。
……当然、その前にコスチュームチェンジをしてだ。
「黒雷の魔剣士という者だ。騎士団長レイヴンから俺に指名依頼があったと聞いたのだが」
騎士団本部に着くなり、近くの騎士を取っ捕まえて依頼書を見せる。
「依頼……? すまないが確認をしてくるので、少し待っていてもらっても良いだろうか」
「わかった」
「直ぐに戻る」
騎士は依頼書を持って建物の中へと消えていった。
取り残された訳だが、門の前に突っ立っているのもな。
邪魔にならなさそうな場所に移動し、確認を取りに行った騎士を待つ。
「おい、貴様。騎士団に何か用か」
騎士二人が建物の壁に寄りかかっている俺に絡んできた。
「俺の名は黒雷の魔剣士、冒険者だ。用件は別の騎士に伝えて、今は待たされているところだ」
一応ギルドカードも出して騎士に見せる。
確実に身分を証明しておけば、面倒なことにはならないだろう。
「そうか、失礼した」
去っていく騎士を見送ると、すれ違いで確認をしに行った騎士が戻ってきた。
レイヴンの部屋へと案内してくれるようなので、大人しく着いていく。
騎士たちから少しだけ奇異な目で見られているが気にしない。
黒雷の魔剣士は人の目など気にしないのだ。
堂々とした態度で歩き、レイヴンの部屋へ入室する。
「失礼する。依頼書を見てやってきた。黒雷の魔剣士だ」
「……騎士団長レイヴンだ。出向いてもらって感謝する」
お互いにいかにも初対面ですみたいな感じを装う。
ここまで案内してくれた騎士をレイヴンが部屋から退室させたところから話はスタートした。
「さて、本題に入ろうか。この俺を直接指名とはどういった依頼なんだ」
「……二人になってもそういう感じでくるのか」
「今の俺は黒雷の魔剣士、その辺は追及しないでもらおうか」
「……わかった。ちゃんと話を聞いてくれるなら良い」
「任せろ。依頼は完璧にこなす」
レイヴンが微妙な顔をしているが気にしない。
普段との振れ幅があるからついてこれていないだけだ。
セシリア同様、いずれ慣れてくれるだろう。
「……なら良いが。じゃあ、仕事の話に入るぞ。今回、ヨウ……黒雷の魔剣士殿を呼んだのは、蒼炎の鋼腕により起こったミネルバの混乱を回復する手伝いをしてもらいたいからだ」
レイヴンが真面目な表情で何を頼んでくるのかと思ったら……蒼炎の鋼腕が起こした混乱の後始末。
何故……という話だが、黒雷の魔剣士である俺は察することが出来た。
「なるほど……俺が呼ばれたのは似た格好の俺が率先して作業に貢献することで蒼炎の鋼腕のイメージを消すためだな」
「……ああ。姿は現さなくなったが未だに何人かの騎士たちはピリピリしている。見回りをしていると国民の声が聞こえるんだが……まだ噂も消えていないんだ」
「そこで俺の出番というわけか。黒雷の魔剣士は問題を掻き回すことも偽善行為も中途半端な仕事もせん。もらうものはもらい、その分、完璧に依頼を遂行する」
クールに言い切る俺を見て、レイヴンは苦笑。
まだ、俺についてくることが出来ないようだ。
セシリアならついてくるどころか、強制終了からの落ち着きましょうが始まるぞ。
黒雷の魔剣士な俺と絡むのは初めてだろうし、仕方がないか。
「あ、ああ。俺としては今回は良い意味で目立ってもらいたいと思っている。勿論、暴走することも考慮して俺が付くことになるが……」
「目立つことか。……あまり、目立つなとセシリアに止められてはいるのだが」
「……事情はある程度聞いている。だから、ギルドに依頼を出したんだ。俺が個人的に黒雷の魔剣士に手伝いを頼めば怪しまれる。ギルドへの直接指名という形にすれば、黒雷の魔剣士とヨウキの関連性は疑われないと思ってな」
「俺自体が目立つことが問題なのだが……もう、今更という感じもする。それに……全力を尽くさないのは黒雷の魔剣士として許せないな」
「……引き受けてくれるのか? 」
「ふっ、当たり前だ。今の俺は黒雷の魔剣士だが……真の俺はレイヴンの友だ。友の頼みを断る理由がどこにある」
「……ヨウキ」
「……まあ、今は理由があるといえばあるがな」
「そういえば、セシリアはお見合い中だったか。……本当に良いのか依頼を頼んで。相手が帰るまでずっとセシリアのそばにいたいんじゃないのか」
付き合ってもいないのに、そこまでやったら完全に病んでいるだろ、俺。
「ふっ、まあ、違うと言ったら嘘になるな」
「……否定はしないのか」
実際にはやらないけど、内心はそれぐらいの行動がしたいくらい焦ってはいる。
レイヴンは俺を呆れた感じで見てくるが、こいつだって人のことは言えないはずだ。
「では、貴様は愛しの彼女が男に無理矢理、腕を絡められていたらどうする。答えは決まっているだろう」
「……当たり前だ。男の腕を切り飛ばす」
「そこまでするのか!? 」
予想よりも遥か彼方な答えを出され声を荒げてしまった。
「……それくらいの気持ちにはなるということだ」
「俺のことをとやかく言えないじゃないか。……心配なのは認める。だが、それで必要以上に張り付くのは不味いだろう。セシリアとはそういった関係ではないのだから」
口に出すと少しだけ空しくなった。
今、黒雷の魔剣士の格好をしていて良かったと思う。
ヘルメットを被っているのでレイヴンに顔を見られずに済んだ。
……おそらく、俺に似合わない表情をしていただろうから。
「……そうか」
「だから、安心しろ。依頼は受諾だ。この俺、黒雷の魔剣士が全て解決してやる。喧嘩の仲裁、スリの逮捕、迷子の捜索……迅速に確実にだ!」
ここでピークを持ってくるのが黒雷の魔剣士だ。
さっきまで出していた焦燥感はどこへ行ったとレイヴンの目が語っているのがわかった。
しかし、俺は俺の道を進み続ける。
俺が俺として日常を過ごす方が……良い気がするから。
……やり過ぎたらセシリアが飛んでくるけどな。
「それで、契約期間はどうするんだ」
「……そうだな。取り敢えず、三日間行動を共にしよう。効果があれば延長ということで頼めるか」
「よし、交渉成立だな。善は急げだ。明日からがんがん見回りをしよう」
行動を起こすのは早い方が良い。
後はギルドに戻ってクレイマンに受注することを伝えるだけだ。
準備もこれといってないからな。
「あ、明日からか。……わかった、じゃあ、朝一で騎士団本部に来てくれ」
「ふっ、明日から忙しくなるな」
「ああ……ハピネスが遠い……」
レイヴンのため息混じりの愚痴はばっちり聞こえていたが、敢えてスルーした。
彼女が恋しくなった騎士団長にお別れを告げて、ギルドに戻りクレイマンに依頼について報告。
受けることにしたと言ったら、了解と言われ会話終了。
やることもないので、宿に戻り今日を終えた。




