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好きな子の母親に想いをぶつけてみた

「身分、称号、職業。セリアさん、俺はどうすれば……」



「あら、ヨウキくんはそんなに弱い子だったかしら。私に答えを求められても困るわ。こういう時は自分の率直な想いをぶつければ良いのよ」



「……俺はセシリアが好きです」



自分の気持ちに嘘はない。

セリアさんの前でもはっきりと断言出来る。

しかし、セリアさんは静かに首を振った。



「それは私に言うべき言葉なのかしら? 」



先程までの柔らかな微笑みは無く、真っ正面から重い言葉がのしかかる。

セリアさんの言う通り、これはセシリア本人に言うべきなのだ。



「……そうですよね。なんだかんだ理由をつけてうやむやにしていました。セシリアが好きなのに、心のどこかで一緒にいるだけで満足していたんです」



「そういえば、ヨウキくんに聞いたことなかったわね。どうしてセシリアが好きになったの? 」



まさかの質問に体が固まる。

好きになった子の何処が好きと、母親に聞かれて狼狽えない男なんているのか。

いや、いるっちゃいるな、どこかの勇者とかは平気で言うだろう。

まあ、あいつはともかく……俺は自分なりに答えを持っている。



「……手を差しのべてくれたんです」



「あら、ヨウキくんもセシリアに助けられて……っていう感じで出会ったのね」



「はい。当時の俺は流れに身を任せる感じで生きていまして。そんな中、セシリアに会って一目惚れしました」



「あらあら、素敵じゃない」



「それで告白して、玉砕しました。今、考えたら当然ですよね」



頭をかきながら、当時を振り返って反省する。

あの時はもう勢いで告白したからな。

魔王様倒されて終了、俺はもう生きる場所無しみたいな感じで。



「それでも諦められずにミネルバに来て、今に至ります」



「……つまり、一目惚れだからってことなのかしら」



「最初はそうでしたけど、ミネルバに来て依頼に行ったり、紅茶飲みながら話したり……困らせたりもしてきました。今は一緒に過ごして……それで、えっと……」



なんか段々恥ずかしくなってきた。

でも、ここで止まったら駄目だ。

自分なりに出している答えを言わないと。



「ふふふ……ありがとう、ヨウキくん。もう良いわ」



「へ? 」



「ちょっと意地悪しちゃったわね。さっきも言ったけど、そこから先の想いは胸の中にしまっておいて。最初に知るべきなのは私じゃないわ」



「あ、は、はい。わかりました……? 」



何と返せばわからないので、返事が疑問系になってしまう。

これは試されたということなのか。



「これからもセシリアをよろしくね、ヨウキくん。あと、あの子、肩の力を抜くのが下手だから、適度に抜いてあげると助かるわ。今回のお見合いで疲れちゃうと思うから」



「……わかりました。今回は俺がセシリアを癒す番ということですね」



回復魔法はお手の物、どんな傷だって癒す……じゃ駄目なんだよな。

ふむ、ここは捻らずに直球でいくべきだ。

疲れを癒す効果があるハーブをシークから聞いて採集してハーブティーの準備。

お茶菓子にマッチョパティシエのいるケーキ屋でケーキを買おう。



俺が必死に計画を立てている姿を見てかセリアさんが微笑んだ。



「お見合いは一週間後の昼過ぎに家で行われるわ。顔合わせ程度だから、時間もそこまでかからないでしょうけど」



「随分と急な話ですよね」



「そうなのよ。確かにセシリアと接点はあるのだけれど、会ったのは数回程度。時期もおかしいのよね。もっと早い時期に話が来ても良いのに」



「最近好きになったから、急いで縁を結びたいって感じがしますよね」



「……セシリアはこの頃、隣国に向かうような仕事はしていないわ。神殿に行って、孤児院に顔を出していたぐらいね。ヨウキくんと度々出掛けていたみたいだけれど、遠出はしていないでしょう」



「ミネルバ中を走り回っていたくらいです。道中、何か面倒事に巻き込まれてもいません」



初日以来、レイヴンの忠告を聞き入れて厨二は完全に封印。

ソフトな変装をして聞き込みして、騒動が起こった場所をしらみ潰しに回っただけだ。



騒動は大体、見回りの騎士や止めに入った冒険者によって鎮圧されていたけど。



「うーん、わからないわねぇ。……あら? 」



二人で考えていると扉をノックする音が聞こえた。

失礼しますという言葉の後に扉が開けられる。

声の主はセシリアだ、何か用事があるだろう。



「お母様……ヨウキさんではないですか」



「まあ、セリアさんに呼ばれて来たんだけど……。その格好は」



入ってきたセシリアだが、普段着ではなくドレス姿。

髪もセットされていて、メイクもしている。



「顔合わせとはいえ、お見合いだからねぇ。衣装合わせをしているのよ」



セリアさんからのフォローが聞こえる。

可愛いとか、綺麗だとか口に出そうになるが、これは後日控えているお見合いのための準備だと思うと複雑な気持ちになる。



「……似合ってるよ、すごく」



それでも好意を寄せている相手がおめかしをした状態で現れたら、何も言わないわけがない。

シンプルな言葉しか言えないが思ったことを率直に口にする。



「あ、ありがとうございます……」



セシリアも満更でもないのか、照れているみたいだ。



「お嬢様、ヨウキ様からもお墨付きをいただきましたし、当日はこちらに致しましょう」



後ろに控えていたソフィアさんが控え目に耳打ちしている。

衣装合わせをしていて、決めかねていたのか。

まてよ、服装に悩むってことはお見合いについてガチで挑むと、推測出来るぞ。



「相手方に失礼にならないように、こちらもあらかじめ準備をしなければなりません。当日に決めるなどもっての他です。たとえ、お見合いの結果がどうあれ、お嬢様の品位を下に見られては私としては我慢なりません」



俺の思考を見透かしたかのようにソフィアさんが細く説明をしてくれた。

適当な感じで見合いに挑んだら、セシリアが良く思われないことになると。



我慢ならないとはソフィアさんも言い切るなあ。

……現状、一番のライバルはソフィアさんかもしれない。



「ソフィアの言う通りよ。セシリアも仕事ばかりで普段着飾ったりしないんだから、今日はソフィアに身体を預けるのね」



「かしこまりました、奥様。では、部屋に戻りましょう、お嬢様。まだまだ、試着していないドレスがあります。装飾品も考えてなければなりません」



「わかりました。お母様、失礼します。ヨウキさんもごゆっくり……」



少し疲れた表情のセシリアに対して、ソフィアさんはどこか嬉しそうだった。

セシリアってこういうことあまり得意ではないのかな。

二人が部屋から去り、セリアさんと二人きりの状況に戻る。



「結局、二人の用事は何だったんでしょうか」



「あら、わからないの? 」



「俺には部屋に来た用件を言わずに出ていった気がしました」



「私は多分、ヨウキくんが来ていることを察したソフィアが、おめかし中のセシリアのお披露目に来たって感じだと思うわよ」



うーむ、そんなことをソフィアさんがするだろうか。

ただ、俺が居たら言えないような案件だったから出直しただけではないか。



「その顔は疑っているって感じね。私は長い付き合いだから。旦那さん程ではないけど、ソフィアのことは理解しているわ」



「……と、言いますと」



「ソフィアもヨウキくんのこと気に入っているみたいだから……あと、セシリアも仕事ばかりで……普段、着飾ることが少ないから嬉しいのかもしれないわね」



ソフィアさんがセシリアを誘導して、部屋に連れてきたということか。

……ただ単に気合いが入っているだけかもしれないが。

どういった事情にせよ、セシリアのドレスアップした姿を見れたのは良かったけどさ。



「……セリアさん、もう少しいても良いですか」



「あら、私から招待したのだから、かまわないわよ」



「ありがとうございます。では、セシリアのお見合い相手についてですが……」



時間とセリアさんが許す限り、俺はお見合い相手について情報を集めた。

……途中から完全に雑談になっていたけど。

時折、ソフィアさんとドレスアップしたセシリアが部屋に来た。

来る度にセシリアのドレスや髪型が変わっていたので、完全にお披露目に来ていたようだ。



ちなみに翌日、クレイマンにソフィアさんについて聞いてみたのだが。



「帰ってきたらやけにご機嫌だったな。思わず抱き締めちまったくらいだ」



「……その後は」



「そいつを聞くのは野暮ってもんだ。ま、強いて言うなら俺がケガなく出勤しているのが答えだな」



「嫌な証明方法だな」



クレイマンは無事ということは普通にイチャイチャしたのだろう。

先日、ソフィアさんの機嫌が良かったのは事実だったらしい。

そこから、俺の嫁自慢の話が始まり、しばらくカウンターに座っていた俺だった。

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