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好きな子ともっと捜索してみた

「……ヨウキにセシリアか。来客の予定はなかったから、部下に客が来たと言われ、誰かと思ったぞ」



「お忙しいところ、いきなり訪ねて、すみませんでした」



「……別にそろそろ、小休止しようとしていたから問題はない。それより……ヨウキは何かあったのか? 」



レイヴンから見たら俺は苦笑いを浮かべながら、顔に紅葉がついている状態。

セシリアが紅葉をつけた訳ではなく、気合いを入れるために道中自分でやった。

セシリアにやりすぎではないですかと心配されたが、これくらいやらねば。



忠告を聞かなかった俺が悪いのに、羞恥で動けなくなるなど情けない。

しっかりしてくださいという言葉の下、立ち直らないとならなかった。

そしたら、歩きながら顔を何度も叩いていたためか、悪目立ちし、注目を浴びた結果、セシリアの変装がばれかけるというハプニング。

物理的ではなかったが、セシリアからさらに叱責を受けることになった。




「まあ、自業自得」



本当に言葉の通り、これ以上は何も言うまい。



「……セシリアも大変だな」



「いえ、今回は私がヨウキさんに手伝ってもらっている身なので。……ある程度は大目に見ようかと」



「今後は出来るだけ自重します……」



この優しさを忘れてはいけない。

黒雷の魔剣士、自我を残さなければ恐ろしいことになる。

今後の課題として考えておこう。

俺のことは置いといて、レイヴンは少し驚いている様子だ。



「セシリアがヨウキに? 珍しいな、何かあったのか」



「はい、実は人を探していまして。騎士団の方々なら、普段見回りをしていますので、情報があるのではないかと」



「……人探しか」



「最近、王都を騒がしている蒼炎の鋼腕という奴を探しているんだ」



「……奴か」



レイヴンの顔が少々、険しくなった気がする。

……何かあったのか。



「そうだ。……騎士団も頭を悩ませているみたいだな」



「ああ、王都中で騒ぎを起こしている。奴は慈善活動のつもりらしいが……。何の見返りもなく、理由も調べずに力だけで物事を解決している。それでは、駄目だ」



「そうだよなぁ」



「過剰な武力行使で壊された物品、遺恨が残ったままの酔っぱらいの仲裁、対価無しの施しに慣れてしまい、冒険者ギルドへ無茶なクレームをする者への説得。……やることは山積みだ」



ため息をつきながら、机の上の山のような書類を一瞥するレイヴン。

蒼炎の鋼腕には相当困っているようだ。



「ちゃんと休んでいるのか」



「……ここ数日は忙しくてな。あれから、ハピネスとも会えていない。そんな中、二人が来た」



「なんか、その……すまん」



「すみません、レイヴンさん」



「……さっき言ったろ。小休止しようとしていたと。気にするな。それで奴の情報だが、この地図に奴が目撃された日時と地域が記されている。確認してくれ」



「ありがとうございます、レイヴンさん」



机の上にある地図に目を通すセシリア。

その隙にレイヴンが俺にだけ見えるようにメモを見せてきた。

久しぶりの筆談だ、しかし、何故今……? 



メモには二人はデートじゃないんだよなと書かれていた。

俺はちらりとレイヴンの表情を窺う。

疲労が溜まり気味な顔には、少し疑うような眼差しが向けられていた。



……多分、せっかく恋人同士になれたのに二人の時間が作れなくて思うことがあるのだろう。

後でハピネスに差し入れ持っていってくれと頼んでおこうか。



とりあえず、レイヴンには今度沢山イチャイチャすれば良いだろう、さりげなく手を握ったりしたら甘えてくると思うぞと書いたメモを渡した。



「……今日は何処にも現れていないようですね。レイヴンさん、今日の情報はもう、この地図には書かれているのでしょうか。……レイヴンさん、顔が赤いようですが……体調が優れないのでは」



「い、いや、大丈夫だ。その地図は随時更新している。俺の所にも報告に来た者はいなかった。今日はまだ現れていないんじゃないか」



「このまま、ずっと現れなければ良いのにな。そしたら、レイヴンも休めるよな」



「ヨ、ヨウキ……」



顔がどんどん赤くなるレイヴン。

これからティールちゃん、ガイの上を行くバカップルに成長することを期待している。



「ずっと現れなければ、私の目的が果たせなくなります」



「そうだった、すまん」



第一優先はセシリアの頼み、つまり、蒼炎の鋼腕とやらを見つけることだ。



「探しているのなら、目撃情報が出たら直ぐに連絡しよう」



「すみませんがよろしくお願いします」



「ああ、任せてくれ。ああ、あと、ヨウキ。騒動が収まるまではあまり目立った行動は控えるように頼む」



「……俺? 」



「……ハピネスから聞いた。部下たちには似た格好の者がうろついている可能性があるので、間違って取り押さえないようにと注意はしたが、念のために言っておく」



「まじか、悪い。気を遣わせたな」



騎士たちの対応が柔らかかったのはそれが原因か。

レイヴンが先に手を回してくれていたとはな。

……厨二が厨二を呼ぶ作戦は下手したら、完全に裏目に出ていた可能性がある。

今度、何かレイヴンにおごらないと。



「まあ、ヨウキはちゃんとギルドに登録している。悪目立ちもしてはいるが、そこまで問題になるほどではない。ただ、状況を考えると関係者と思われ、有らぬ疑いをかけられる可能性もなくはない。……気を付けてくれ」



「……だそうです。ヨウキさん」



「自重します……」



二人から注意を促されるわけだが、これも全て蒼炎の鋼腕とやらのせいだ。

絶対に見つけてやる、そして、クレームをつけてやろう。

真の厨二とは何かということを奴の身体に染み込ませてやる。



「何か企んでいませんか? 」



「まあ、ぼちぼち……いや、どうやって捜索しようかっていうことだから! 決して変なことは考えてないよ」



「……そうですか、すみません、私がヨウキさんに協力をしてもらっている立場なのに疑ってしまって」



「ま、まあ、普段の行いがあるしさ……」



自分で言うのがすごく苦しい。

セシリアの目を真っ直ぐ見てられなくなり、視線が泳ぐ。



「……はぁ、ハピネスに会いたい」



俺とセシリアとのやり取りを見て、何かを感じたのか。

レイヴンは切なそうに窓の外をぼんやりと見つめている。

自分で入れた茶を飲みながら。



机の上にある膨大な量の書類を見た感じだと、ハピネスが会いに来ない限り無理だろうな。



「これ以上は仕事の邪魔になりそうだし、帰ろう」



「そうですね。レイヴンさん、お忙しいところ、ありがとうございました」



「……いや、良いんだ。何か情報が入ったら連絡しよう」



かなりお疲れ気味なレイヴンに別れを告げて、俺たちは騎士団本部を出た。



「ハピネスって……」



「一ヶ月の休暇を申し出て、翌日に蒸発。ここしばらく、ソフィアさんの指導は終わらないかと」



「そりゃ、そうなるよな」



あの二人も付き合い始めて早々、お互いに忙しい身になるとは。

すれ違う期間が長く続いて、自然消滅しないだろうな。

……いや、そんなことは杞憂か。



「レイヴンとハピネスの心配はともかく、これでもう、情報の当てがない」



「今日になって、ぱったりと姿を現さなくなるなんて、どうしたのでしょうか」



「うーん、疲労による休日か、はたまた、本人の都合か。……仮面の下には何が隠れているかわからないからな」



俺みたいな冒険者、実は農家、いや、騎士かもしれない。

または、この国ではなく別の国の放浪者とか。

可能性を上げたらきりがない。



「表の生活もあるということですか」



「そう考えると今日は切り上げても良いかもな。聞き込みもしたし、レイヴン待ちで」



「頼りきりというのは申し訳ないのですが」



「セシリアも僧侶としての仕事があるしさ。捜索は引き続き俺が受け持つ」



「……すみません。私が誤った判断をしたばかりに。ご迷惑をおかけします」



好きな子が落ち込んでいる姿なんて見たくない。

セシリアには平常運転でいてもらわないと。



「……任せっきりっていうのも、確かに良い気持ちにはならないだろうから、時間を見つけて捜索を続けよう」



「はい。……お願いします」



という感じで約束を交わし、二週間程の期間、俺が単独、またはセシリアも一緒という形で捜索を行ったが捕まらず。

レイヴンからも情報はなしで、蒼炎の鋼腕はミネルバから完全に姿を消してしまった。



しかし、そんなことよりも、もっと重大な事件が起こる。

セシリアにお見合いの話が来たのだ。



「すみません、セリアさん。俺は現実を受け入れたくありません」



セリアさんに呼ばれて屋敷に来たら、予想だにしていなかった報せだ。

普通にソファーに座っているだけなはずなのに、俺からは尋常じゃないくらいのオーラ的な何かが出ている気がする。



「落ち着いてヨウキくん。別にお見合いをするからといって、イコール結婚にはならないのよ」



セリアさんも必死に宥めてくれるが、俺の中の何かは収まらない。

頭の中を占めるのは後悔の念ばかり。

セシリアの立場上こうなることはわかっていたのではないか。



先伸ばしにしていた俺の弱さが原因だ。

いつまでもこのままでいられると、そんな甘い考えを持っていたのかも……。



「しっかりしなさい。セシリアのことが好きならお見合いの話が来たぐらいで自分を見失わないの!」



「うっ、す、すみません……」



セリアさんに喝を入れられて、我に返る。

そうだ、そんな簡単に諦められる程、俺の想いは軽くない。



「今まで来ていたお見合い話は会う前の段階で断っていたのだけど、今回はどうしても無理だったのよ。相手は隣国の領主のご令息でね。次期領主でもあり、勇者パーティーのメンバー、セシリアも何度か顔を合わせている相手なの」



次期領主、勇者パーティーのメンバー、セシリアと顔見知り。

……俺、勝てる要素少なくないか。

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