好きな子とさらに捜索してみた
「魔剣士さん、見回りをしている騎士団の方々にお話を伺うというのはどうでしょうか」
「確かに毎日、ミネルバを駆け回っているわけだからな。そういった情報を持っていそうだ。よし、早速声をかけてみようか」
見回り中の騎士なんてすぐに見つかる。
片っ端から声をかけていけばやつを見かけたという情報にたどり着けるさ。
「あの、大丈夫でしょうか。騎士団の方々に声をかけるのであれば、着替えた方が良い気がしますが」
「何を言うか。今日の俺は黒雷の魔剣士。自分を偽ることはあれども、己を恥じたことはない。ここは堂々と胸を張って行くぞ!」
「私は魔剣士さんのために助言をしたんですよ。……いつも、最後に後悔しているではないですか」
「ああ、しているな」
「しているなって……自分でちゃんと理解しているんですね」
「それも含めて黒雷の魔剣士だ!」
「私は忠告しましたよ……」
セシリーが何かを諦めたところで捜索を再開しよう。
次のターゲットは見回り中の騎士団の方々だ。
人の往来が多い場所は問題が起きやすい分、騎士団の見回りも多いはず。
「よし、騎士発見、突撃!」
勢いをつけて、取材開始だ。
「普通に行きますよ。突撃してどうするんですか」
呆れ気味のセシリーと共に、騎士二人組に聞き込みをする。
「すまない、少し聞きたいことがあるのだが」
「わかりました。どういったご用件ですか」
「聞いてくれるか。忙しいところ、時間をとらせてすまない」
「いえ、困っている国民の話を聞くのも騎士の務めですから」
兜を被っているので表情はわからないが、この騎士は絶対にもてるな。
そんな空気を感じる、今は関係ないが。
相方の騎士は大丈夫なのかと耳打ちをしている。
今の俺は黒雷の魔剣士だからだろう、セシリーの言う通りになりそうだ。
「すまないが、身分を確認して良いだろうか、怪しんでいるわけではないがこれも仕事でな」
「これで良いか? 」
一悶着を覚悟していたが、身分の確認だけで良いのか。
こういう時に使えるのは便利なギルドカードだ。
ポケットの中を探って、騎士に渡す。
出したのは当然、黒雷の魔剣士のギルドカードだ。
「Aランク冒険者、黒雷の魔剣士か。確認できたぞ。失礼した」
「Aランク冒険者……かなりの実力を持った方だったんですね」
ギルドカードを返されてしまっていると中身は絶対にイケメンな騎士から驚かれた。
Aランク冒険者というのは一般の騎士から見れば一目おく存在らしい。
「まあ、それなりにな。それで、聞きたいことがある。この辺で俺に似た格好をした者をみかけなかっただろうか」
「似た格好……ですか。そういえばここ数日、何度か見かけましたよ。酔っぱらいやスリを捕まえたりしていたようですね。本来、我々がやるべき仕事なのですが」
「ああ、別に捕まえてくれるのは良いのだが、その後、見物人を煽ったりするのは止めて欲しかったな。その行動のせいで、新たな騒動が起こり、各地で同じようなことをされ、鎮圧するのに人員を割くことになった。結果、我々が最初から動いていた方が無駄な騒動も起こらず、労力もかからなかった」
淡々と結果だけを話す騎士からはかなりの疲労が見える。
ここ数日、走り回っていたのだろう。
話のもって行き方を間違えれば、愚痴を聞かせられることにもなりそうな予感がする。
隣の絶対にもてる騎士も予定とかあっただろうよ。
レイヴンも苦労しているだろうな、せっかく付き合って間もないのに一緒にいれる時間が取れないとか。
「そうですか、あの方は色々な方々に影響を及ぼしていたのですね」
セシリーが何とも言えないような表情をしている。
これは見つけたら謝罪するか、さらに説教するべきか悩んでいるのかもな。
「お二人はあの蒼炎の鋼腕と名のる方と知り合いなのですか? 」
「そんなわけなかろう。事情があって探しているだけだ。それで、今日は見かけていないのか? 」
「我々が見回りをする担当区域では見ていませんね」
「そうだな。ここ数日では、日に何度も見かけていたのだが、今日は不思議なことに一度も見ていない」
「もしかしたら、我々の担当区域に現れていないだけかもしれません」
「ああ。他の区域で騒動があって人員が必要になったら、まず、騎士団本部から応援が行くからな。こちらに情報が入ってきていないのかもしれん」
これは騎士団本部に行って情報がないか確認しに行くべきだな。
見回りをしている騎士たち全員から話を聞くよりも効率が良いだろう。
「そうか。時間をとらせて済まなかったな。行くぞ、セシリー」
「……わかりました」
騎士二人に別れを告げ、騎士団本部に向かう。
「それで、どこに行くのですか? 」
「ああ、騎士団本部だ。レイヴンから直接情報を聞こう。指揮しているのはレイヴンだろうしな」
「レイヴンさんにですか。ならば、着替えねばなりませんね。この格好で訪ねても取り次いでもらえないかもしれませんから」
「……なに? 」
「当たり前ではないですか。レイヴンさんは魔剣士さんのことを知りませんし、事情を説明するくらいなら着替えて会いに行く方が早いですよ」
セシリーのもっともな言い分に何も返せなくなる。
久々な黒雷の魔剣士がもう終了とは。
厨二が厨二を呼ぶ作戦の下、黒雷の魔剣士だったのだが、今のところ効果も表れていない。
蒼炎の鋼腕とやらが騒ぎを起こしているせいか、歩いていると冷たい視線を感じることもしばしば。
黒雷の魔剣士を同じような扱いにされては困る。
この借りは必ず、見つけたら返させてもらおう。
それまで首を洗って待っているが良い!
「決意表明は済んだ。着替えよう」
「一体、何の決意表明を……? 」
ツッコミはあえてスルーし、セシリーを抱えて人気のない場所へと向かう。
以前に使った古い教会はもう改装作業中、さて、どこで着替えようか。
「魔剣士さん、この移動はもう少し何とかならなかったのでしょうか」
現在、セシリーを抱えて屋根の上を疾走中。
周りから姿が見えなくなった瞬間を見計らって、バニッシュ・ウェイブで完全に姿を消したので、騒ぎが広がる問題はない。
「普段通りではないか。あと、話すタイミングが悪いと舌を噛むぞ」
「これが普段なのは良くない気がします……」
「抱え方が問題なのか? 」
「もう、良いですから……早く着替えましょう」
何かを諦めた感じがセシリーから感じたぞ。
次回があれば別のバリエーションも考えておくか。
「よし、使われていなさそうな空き家を発見した」
中に誰もいないことを嗅覚、聴覚で確認住み。
さらに、他の建造物と少し距離があるという好条件。
早速、侵入して抱えていたセシリーを下ろす。
「俺が常に警戒しているから、安心して着替えてくれ。まあ、俺の方が着替えが早く終わるだろうからな。入口付近で見張っていよう」
「完全に不法侵入になっていますから、素早く着替えますね」
俺は一階、セシリーは二階の部屋で着替えをする。
ちなみに俺は着替えするからといって、特別なラブコメとかには発展しない。
そういうのはどこかのトラブルメイカーブレイバーだけで充分だ。
着替えをするだけで問題など起こるわけがない。
そんな考えを抱きながら、俺は黒雷の魔剣士装備を外していった。
そして、十数分後……。
「だから後悔しますよと忠告したではありませんか」
着替え終わったセシリアが一階に下りてくると、羞恥で床を転げ回る俺がいた。
俺はセシリアに慈悲を求める。
「お願い、傷口抉らないで。あと、五分くらい時間をくれれば回復するから」
「それも含めて……と言っていましたね、高らかに」
「ち、治療法はないかな……? 」
「残念ながら、私は持ち合わせていません」
自分から聞いておいて何だよと思われるかもしれないが、やっぱりないよなと思う。
だが、この自業自得とはいえ、俺は何らかの安らぎが欲しい。
「セシリア、いや、聖女様。あわれな我が身をお救い下さい……」
「……まったく、仕方ありませんね」
しぶしぶながらもセシリアは協力してくれるみたいだ。
床に座り込む俺の目の前にセシリアはしゃがみこむ。
そして、おもむろに両手を握り締めて……って、何をする気だ。
別の意味で動悸が激しくなってきた俺は、これから起こることを前にし、唾を飲み込む。
セシリアの顔が近くなり、そして。
「しっかりしてください!」
叱責されました。
自分が完全に悪いのできょどりながら、はい……と答えることしか出来なかった。
若干、スローペースですね




