好きな子と捜索してみた
「俺は孤高を目指す者。そのような名の知り合いはいないな」
「お前、普通に仲間いんだろーが。あのでかいやつとかよ。何が孤高だ」
「ふん、ガイのことか。あいつはもう一人立ちするだろう。俺の役目は終わったのさ」
「あいつまだ、ランクEだぞ、一人立ちにははえーだろ。……それ以前に後ろにいんじゃーねーか」
「甘いなクレイマン……セシリーは俺の保護者だ!」
「保護者同伴でギルドに来ているやつに孤高もくそもねーだろ。……あぁ、だりぃ。とりあえず、そいつの詳しい情報が欲しいんだな」
「そうだ。それが、本題だ!」
ここでいつもの決めポーズを見せる。
タイミングを見計らっていたが、ここしかないという瞬間を待っていたぞ。
「わりぃが、ねぇな」
無情にも情報は無しという結果に終わる。
……いやいや、なんだこの盛大に滑った空気は!
後ろにいるセシリーの表情を見るのが怖くて振り向けんぞ。
「な、なぜだ。あのクレイマンが情報を持っていないとは」
「二つ名を名乗ってる、妙な格好をしているってことくらいしかねぇよ。……どうもやつは最近、ここらで活動を始めたみたいでな。しかも、いきなり現れたみてーだ」
ちょうどお前みたいになとじと目でにらんでくるクレイマン。
全く、俺には鋼の腕を持ってたり、蒼い炎を操ったりすることが出来る知り合いなどいないぞ。
大体、心当たりがあったらクレイマンの所には来ていない。
まさか、当てにしていたクレイマンも情報を大して持っていないとは予想外だ。
「どうやら、ここにいることは最早、意味を成さないらしいな」
「おー、用が済んだなら行け行け。俺は休憩入るから」
じゃーなと言い残し、クレイマンはカウンターの裏へと引っ込んでいった。
そんなクレイマンを追う女性職員。
あれは注意しに行った感じだな。
「副ギルドマスター。一時間前に休憩とったばかりじゃないですか」
「あー、そうだっけっか? まあ、いいだろ」
「よくはありませんよ。さあ、カウンターに戻ってください。戻らないと奥様に言い付けますよ」
「おい、待て。なんで、ソフィアが出てくんだよ」
「以前、お会いした際に奥様から副ギルドマスターが何かしたら、報告をしてほしいと頼まれました」
「ソフィア……」
カウンターの奥から愛する妻から逃げ場を塞がれた夫の寂しげな声が聞こえた。
仕事は出来るのだから、とっとと終わらせてしまえば良いのに。
何故、そこまでだらけようとするのか。
今は関係ないから深く考えないようにしよう。
「さて、行こうか」
「ソフィアさん、家でも苦労は絶えなさそうですね」
「そういう部分も含めて……という話なのだろう」
なんだかんだであの夫婦はラブラブなのだ。
ただ、ソフィアさんがクレイマンを甘やかし過ぎないようにしているだけ。
「ところで、魔剣士さん。クレイマンさんへのあては外れたようですが、他にあてはあるのでしょうか」
「ふむ……ないな。だが奴はここら一帯で活動をしているという情報は得た。少し町中を歩いてみようか」
「わかりました。……すみません、付き合わせてしまって」
「気にするな。黒雷の魔剣士は大切な者のためなら、いかなる時でも助ける。……そういうものだ」
「今日は素直に黒雷の魔剣士さんに感謝します……」
「さあ、行くぞ!」
俺はセシリーを連れて、ギルドを出る。
二人で町中を歩き回って探してみるわけだが……やけに視線を感じる。
黒雷の魔剣士として歩いていると、目立つことは避けられないが、今日はいつも以上だ。
「まさか、俺の厨二レベルが上がった……? 成る程、これは更なる高みに到達した者へ羨む視線というわけか」
いつの間にか、俺は次なる段階へと進化していたみたいだ。
全く、才能という物は怖いな。
「何を言っているのですか。私たちに向けられている視線はいつも通り、奇異な者を見る目です」
「何だと!? ということは、セシリーもついにこちら側の住人に……」
「なっていませんから!」
「ふっ、冗談だ。セシリーにはセシリーでいてもらわねばな」
「ああ……協力してもらっている身なので、強く出れません」
セシリーの嘆きは神に届いているだろうか。
届いているのならば、彼女の悩みを聞き入れ、解決してほしい。
「……何をしているのですか?」
「セシリーの嘆きが神に届くようにと祈っている」
俺は両手を重ねて片膝を着き、祈るポーズをしている。
そんな俺を見て……セシリーの額に青筋が走ったような気がした。
「魔剣士さん、少し人目につかない場所に移動しましょうか。そこで沢山、祈りましょう」
「ふっ、了解だ」
ずるずるとなすがままに引きずられていく俺。
この後、俺は違った意味合いで神に祈ることになるだろう。
だが、これでいい。
セシリーのためならば、喜んで俺はセシリーの糧になる。
まずは完全な本調子になってくれるのが、俺の願いだ。
まあ、少し悪ふざけが過ぎたかもしれない。
やはり、厨二に加減は出来ないな。
この後、俺はたっぷりと神……いや、セシリーに祈りを捧げるはめになった。
「さあ、改めて捜索を開始しようか!」
「はい、頼りにしていますね、魔剣士さん。……ですが、程々にしてくださいね?」
「わ、わかっている。黒雷の魔剣士は目的を果たすため、迅速に行動する」
無駄なことはしないと約束した所で情報収集だ。
目撃情報がないか、町を歩く冒険者に狙いをつける。
依頼をこなすため、奔走している内に見かけたパターンがありそうだからな。
早速、俺は剣士と魔法使いの風貌をした男女二人組に近づく。
「失礼。少し聞きたいことがあるのだが、時間を頂いてもいいだろうか」
「えっ、は、はい。な、何でしょうか」
剣士な男子はどもりながらも快く応じてくれた。
まだ、若いな……魔法使いの少女も同じくらいの年齢だろう。
オーラ的な物も感じないし、新米冒険者かもしれない。
だが、新米だからこそ、最初は町中でこなせるような依頼を受けまくっている可能性大だ。
これは良い情報に期待出来る、
「この辺りで……俺を見かけなかっただろうか? 」
「へっ!? 」
「質問の内容がおかしいです!」
セシリーから鋭いツッコミが入った。
確かに、男女二人組は意味不明だといった感じで固まっている。
ふむ、どうやらつけなければならない言葉が抜けてしまったようだ。
「失礼した。この王都、ミネルバで俺と酷似した格好の者を見かけてはいないだろうか」
「えっと、ここ最近、同じような格好をした方を何度か見かけていましたが。今日は一度も……ナズハは見かけた? 」
「ううん。今日は見てないよ」
「そうか、時間を取ってしまったな。すまない」
「あ、待って下さい!」
有力な情報を得られず、これ以上時間を取らせるのも悪いので足早と去ろうとしたのだが、呼び止められてしまった。
「どうかしましたか? 」
「あの、その人なんですけど。無償で色々な頼み事を片っ端から受けているみたいなんです。僕も彼女も恥ずかしながら、冒険者としてはまだひよっこで。僕らが出来そうな仕事も片付けてしまって……その、なんていうか」
「このままじゃ、やれる仕事が狭まるし生活も出来なくなっちゃいます」
新米冒険者な二人にとって、蒼炎の鋼腕の存在は死活問題らしい。
仕事を盗られないように頑張れというのも難しいよな。
だからといって、このままやつは任せろというのも俺的には良くない。
ここは冒険者の先輩として力になってやるか。
「ふっ、そういう時は……」
「安心して下さい。私たちがその方にお会いしてみます。そして、あなた方の声を必ず届けましょう」
「ほ、本当ですか!? 」
「ありがとうございます!」
見せ場をセシリーに横取りされてしまった。
新米冒険者二人はセシリーに羨望の視線を向けている。
「ですが、このような状況でもあなたたちにやれることはあるはずです。時間を有効に使って下さいね。あと……あなたたちがいずれ一人前の冒険者になった時。困っている新米冒険者がいたら……手を差しのべるのも悪くないと思いますよ」
先輩としてのアドバイスも欠かさない。
これがセシリー、いや、セシリアの誰かを救う優しさだ。
「今の言葉、僕は絶対に忘れません!」
「わ、私も。……あ、あの、すみません。もしかして、あなた様は……」
「魔剣士さん、情報収集の続きをしましょう!」
セシリーに引っ張られ、人混みの中へと突っ込んでゆく。
あの反応、セシリーの正体に気づいたような感じだったな。
それを察して、セシリーも急いで離れたのだろう。
まあ、騒ぎを起こしていたら、今日はもう完全に動けなくなるからな。
もっと地道に情報収集をしないとやつを捕まえることは出来なさそうだし。
「最初はセシリーが勘違いしたため、その謝罪という名目で捜索をしていたが、目的が増えてしまったな」
「そうですね。ギルドを通さず、しかも無償で人々から依頼を受けて解決する。これが続いてしまうと、ギルドの必要性、利用率が低くなります。まだ、Cランクぐらいになると、最悪、遠出する依頼も受けられますので、生活は大丈夫でしょうが」
「ランクが低い冒険者からしたらたまったものではないな」
「適度な慈善事業ならば問題ないと思います。ですが、今回の件は」
「完全に混乱を招いているな。この俺と引かれ合うことが出来ると思っていたが……無理かもしれん」
「魔剣士さんも充分、混乱を招いていますよ」
セシリーの冷たいツッコミを受け、俺は何も反論することが出来なかった。




