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好きな子から相談を受けてみた

「ああ……どうしましょう。私がしっかりしていればこんなことにはならなかったのですが」



「いやいや、大丈夫だって。そこまで気にするようなことでもないって!」



己の失敗を悔いて正座をし、反省の意を示しているセシリアが涙目で狼狽えている。

セシリアのこんな姿は見たことがない、しっかり者のセシリアというイメージが強いからな。



しかし、今のセシリアからはそんなイメージを全く感じられないわけで。

そもそも、なんでこんなにセシリアがパニックになっているのかっていうと、半分くらいは俺のせいでもあるわけで。



「普段の俺の行いが勘違いを招く原因を作ったもんだし、俺も悪いんだよ、うん」



「そんなことはありません! これは勝手に先走った私個人のミスです」



「いや……でも、まさかなぁ」



厨二全開な格好をした人と俺を間違えたなんて、セシリアらしくないっちゃ、らしくないミスだよな。



「どんな人物だったの」



「……ヨウキさんがつけている物と同じ仮面を着けていました。首もとには藍色のスカーフ、黒色の革鎧に両手には鋼のガントレットを着けていました」



「俺が好きそうな格好だな、おい」



厨二心くすぐる、良いチョイスだと思う。



「私もヨウキさんだと思い込み……変装した姿ではありましたがいつもの様に話しかけてしまったのです」



「俺の正体についてわかるようなことは言っていないんだよな」



「はい。ただ、目立ち過ぎるのは良くないと……」



「……ちなみにそいつはどんなことをやったんだ?」



セシリアが直々に注意をしなければいけないレベルのこととなるとな。

尚且つ、俺だと錯覚してしまうような行動ね。



「喧嘩していた酔っ払いの仲裁に入り、素早い動きで制圧していました。そして、我が名は……と言い出したので」



「それ、俺だったんじゃないの?」



いや、そんなわけないんだけども。

ポーズも決めていたみたいだし、格好も酷似しているし。



「私もヨウキさんだと思い、腕を掴み、急ぎその場から離れたんです」



「いや、賢明な判断だと思うよ」



町中でそんな騒ぎになることをやっていたら、セシリア的には止めるしかなかっただろうし。



「人気のない場所に行き、悪目立ちし過ぎるとどのようなデメリットが生じるかということを議題にして、三十分程、お話しました」



「随分とまあ、長いお話を……」



馬鹿やっていたのが俺だったら、その説教は俺が受けることになっていたんだよな。



「反省している素振りがなかったので……その時点で気づくべきだったのですが」



「本当にね。何で間違えたんだろう」



セシリアならそんなうっかりミスはしないはずなのに。

まあ、この狼狽えっぷりを見ると完全にセシリアのミスっぽいんだよな。



「……最終的には自分の立場を考えて下さい。心配する人だっているんですよと言ってしまいました」



「うわうわうわ……」



言い切っちゃったか、俺が言われたらすごく反省するパターンのやつじゃん。

セシリアも正座したままで頭を抱えているし……頼りになるセシリアが……皆のお母さんなセシリアが。



「初対面で失礼な態度を……ああ、どうしましょう」



俺が変なことを考えたらいつもツッコミを入れてくれるのに、今日はそれがない!

このままでは駄目だ、セシリアは鋭いツッコミの持ち主でいてくれないと。



「まずはそいつを探そう。セシリアか失礼な態度を取ったって悔いているなら謝罪すれば良いんじゃないかな」



爽やかな感じで手をさしのべる。

普段なら逆なこの状況……だからこそ、俺は全力でセシリアをフォローする。



「……すみません。ヨウキさんの力をお借りします」



「任せてくれ。俺のパチもんを絶対に見つけてやる」



ヘルメットに厨二衣装スタイル、黒雷の魔剣士として黙っているわけにはいかないしな。



「よし、俺の感覚強化で発見してやる。そいつの声は……わかんねぇな。臭い……知らないし……どうすっかな」



早くも挫折しかける俺。

俺が会ったことないんじゃ、聴覚嗅覚強化しても意味がない。



「私が最後にその方と別れた場所に行きませんか? 何か手がかりがあるかもしれません」



「……そういえば、この話っていつの話?」



俺は最近、リア充まっしぐらな元部下メイドにいきなり呼び出されて、ここに来たらセシリアが正座状態。

そこから説明に入ったから、時間軸のことはまだ聞いてないんだよ。



「……昨日の夕方です。帰宅して、ハピネスちゃんにこの話をすると、ヨウキさんは昨日、ガイさんと依頼に出ていたと」



「ああ、黒雷の魔剣士としてガイと近くの村に行っていて、帰ってきたのは夜だったな」



ガイはまだ低いランクの依頼しか受けられないからな。

受けた依頼は魔物ではなく、野犬から飼育している動物たちを守って欲しいというもの。



柵が壊れてしまい、夜中に野犬が侵入してしまうので、柵が直るまで夜通し護衛をする簡単な依頼だったな。

まあ、俺とガイに怯えて野犬は全く来なかった、飼育していた動物も寄ってこなかったけど。



村の人たちからすら、遠巻きから接する感じという……寄ってきたのは数人の怖いもの知らずな子どもたちだけだ。



「ふっ、厨二は色々と苦労するぜ」



「……それでも、止めないのですね」



「当たり前だ! ……勿論、自重もするけど。よし、普段のセシリアが出てきた所で、捜索開始だ」



セシリアのために、全力でその厨二野郎を探そうじゃないか。



「すみません。よろしくお願いします」



「早速、準備してくる」



「準備……?」



セシリアはわかっていないみたいだったが、重要な準備があるのだ。

会ったことがなく、名前もわからないのであれば類は友を呼ぶ作戦

が一番有効なはず。



「ギルド前に集合で!」



集まる場所も伝えたし、後は準備をするだけだ。

宿に戻り、素早く変身し、姿を消して窓から脱出。

後は屋根上を飛び交い、目的地へと着地。



「黒雷の魔剣士、参上!」



「……自重するのではなかったのですか」



「良いかセシリーよ。俺と奴は引かれ会う可能性が高い。俺の厨二が奴を引き寄せ、奴の厨二が俺を引き寄せるのだ!」



「……同族嫌悪という言葉をご存じですか?」



セシリーが冷めた目で見つめてくる。

よし、完全に戻ってきたみたいだな。

これでペースを乱すことなく、集中して行動出来そうだ。



「さあ、我が持つ最大の情報網を使おうではないか……クレイマン!」



「クレイマンさんが黒雷の魔剣士さんの最大の情報網なのですね」



ため息混じりのセシリーを連れ、ギルドに入る。

頬杖をついて、書類をまとめているクレイマンを発見。

やる気はなさそうなのに、書類を片付けるスピードは他の職員と変わらないから不思議だ。



「なんだ、どうした」



「我が最大の情報網であるクレイマンに聞きたいことがあって来た!」



「俺は情報屋じゃねーぞ。それにここは冒険者ギルドだ」



「ふっ、そんなことはなかろう。確かにここは冒険者ギルドでクレイマンは副ギルドマスターだ。だが、クレイマンなら王都の情報を掴むことなど容易いだろう。この俺が言うのだ、間違いないな、断言する」



「ああ、面倒臭ぇ。用件言え。わかる範囲で対応してやる」



「流石だ。それでこそ、クレイマン」



「クレイマンさんは断るよりも、早急に頼みを聞いた方が早く終わると思っているのでしょうか……」



セシリーの疑問が聞こえたが、クレイマンがどう考えているのかは本人しかわかるまい。

ソフィアさんなら或いは……夫のだらけスタイルまで熟知しているだろうか。



この夫婦はいまだに謎が多い部分があるからな、油断出来ない。

だが、今は夫婦事情は関係ない、欲しいのは情報だ。



「聞きたいことは、俺に似た輩がこの辺に出没していないかだ」



「あぁん。……ああ、そういえば最近、ギルドに登録していないくせに盗賊や魔物を勝手に退治する妙な格好をしたやつが出没するって話を聞いたな」



「未登録ということか。完全に慈善事業でということだな」



「ああ、変な……特徴的な格好をしているって話だ。お前と似た格好だな」



「おい、今、変なと言ったろ!」



「勝手に二つ名も名乗っているみたいだぞ」



俺の苦情は普通にスルーされて話は進んでいく。

まあ、黒雷の魔剣士は寛大な心も持つべきだな。

俺の目指す場所はまだまだ遠い。



「しかし、二つ名まで名乗っているとは」



「ああ。なんでも『蒼炎の鋼腕』と名乗っているらしいぞ。……お前の知り合いじゃねぇのか」

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