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好きな子の軌跡を見てみた

まず、博物館の受付へと足を運んだわけだが……入るのに必要な入館料。

まあ、無料ってわけにはいかないだろうし、値段も別にバカみたいに高くない。



ただ、自分の何かが展示されている場所に入るために金を払わなければならない、セシリアの心情はいかがなものか。



「セシリアの分は俺が出します」



いきなりの発言に俺の後ろでいそいそと入館料を準備していたセシリアは目を丸くする。



「え、いや、自分の分は自分で払いますよ」



「二人分で」



「ヨウキさん!?」



セシリアの意見は聞かず、二人分の入館料を出す。

博物館の受付の人も入館料を払ってもらえれば良いわけで、客のいざこざにはノータッチ。

払ったなら次々ということで奥に進んだ。



「……二名」



後ろでは俺と同じことを考えたのか、ハピネスがレイヴンの分の入館料を払おうとしている。

セシリア以上に驚いているレイヴンは止めようとするも、メモ書きが追い付かず。 

ハピネスが二人分の入館料を払い、仲良く入館。



「ヨウキさん、入館料ですが」



「いつも紅茶ごちそうになってるし、足りないだろうけど紅茶代ってことでどう?」



「……わかりました。では、また美味しい紅茶を期待していて下さい」



「期待してます!」



自然に会う約束をする俺とセシリア。

一方のレイヴンとハピネスはどうしているのかというと……。



レイヴンが受けとれと書かれたメモと入館料を渡そうとするも、ハピネスは知らんぷり。

そっぽ向いてると思ったら、メモを書いていたらしく、レイヴンにメモ返し。



メモには不要の二文字が書かれていた。



「……お礼」



お礼って……いつのだろうか。

レイヴンも首を傾げているので心当たりはなさそうだけど。



「……いつかの」



いつかっていつだよ。

ツッコミを入れに行きたいところだが、二人の世界を邪魔するのもな。

なんかあの二人の周りに不思議な空間が形成されている気もするし。



「なーにやってんすか、二人とも。入り口の近くで立ってたら、他の人たちの迷惑っすよ。ほらほら、先に進むっす」



先がつっかえていると注意を促し、イレーネさんを引き連れていくデューク。

レイヴンも渋々従い、合流することができた。



「さて、どこから見るか……」



「ヨウキさん、こちらに行きましょう」



「え、ちょ、ここから別行動!?」



セシリアに腕を掴まれるのも悪くないと思ってしまった俺は戸惑いつつも流れに身を任せる。

レイヴンもハピネスを手を引いて移動開始……って随分と積極的な行動にでたな、珍しい。



レイヴンたちを見守るんじゃなかったのかと思うが、まあ、いいか。

俺は普通にデートを楽しむことにしよう。



「……すみません。いきなり」



「いや、別にいいよ。……で、この辺は何があるんだ?」



周りを見渡すと剣やら鎧やら盾やらと武器、防具が展示されている。



「ここは歴代の勇者や仲間たちが使っていた武具の模造品を飾っている区画ですよ」



「へぇ……歴代ね」



昔から勇者と魔王の戦いは続いているということか。

ユウガは第何代目の勇者かな……やっぱどうでもいいな。

まあ、あいつは語り継がれていくと思う……ある意味でだけど。



「セシリアの杖は?」



「ありますよ。奥の方に行けば飾られています」



「よし、行こう」



「ヨウキさん、私が使っている杖を見たことがありますよね、本物の。模造品を見る意味は……」



「ふっ、それは……っといかん、いかん」



厨二は封じていたんだった。

セシリアが頭にはてなを浮かべているぞ、俺の様子がおかしいからか。

しかし、今日の俺はいつもとは違う。



「どうかしましたか」



「いや、大丈夫。……本物は見たことあるけど。飾られているのを直に見てみたい」



「そうですか……?」



「だって、こんな所に飾られているんだぞ。自分の屋敷とかじゃなくてさ。すごいと思わないか」



セシリアの名前は勇者パーティーの一員として語り継がれていって、これが使っていた武具ですって残るんだからな。



「えっと、その……」



「さあ、行こうか」



なんか、セシリアが微妙な反応をしているけど武具くらいならいいだろう。

石像とか見に行くわけじゃあるまいし。



奥に進むに連れて近年の勇者の武具に近づいていく。

そして、ついに勇者ユウガが率いた勇者パーティーの武具が展示されているコーナーにたどり着いた。



「……うん、あの時の装備だ」



魔王城で初めてセシリアと会った時、着ていたローブと杖。

不思議と懐かしさを覚える、あれから結構歳月が過ぎたような気もするが。



「自分の装備の模造品を見る……複雑ですね。何故でしょう」



「まあ、ちゃんとネームプレートもあるから。なお、複雑に感じるだろうね」



ショーケースの中にローブと杖が飾られており、台座にあるネームプレートにはセシリアの名が書かれている。

もちろん、ユウガ、ミカナ、レイヴンのもだ。



「俺は懐かしさを感じるな」



ここにいると勇者パーティーとの戦いを思い出すし。

まあ、ちぎっては投げての戦いを一ヶ月ほど続けたんだっけか。



「ヨウキさんとの出会い……圧倒的な力に為す術なく敗れ、死を覚悟したことを覚えています」



「出会いの思い出、重くない?」



敵同士だったから仕方ないんだろうけど。

普通なら記念すべき出会いなはずなのに、ちょっとショック……。



「こうしてヨウキさんと二人で博物館を見回るなんて、あの時は想像もしていませんでしたね」



「確かに、俺もそう思う」



まず、魔王城から出ることすら考えなかったし。

あの頃の俺は魔王城に引きこもり、何もする気起きなかったからな。



「……行きましょうか」



「そうだね」



模造品たちから離れて、別の物が展示されている場所を回る。

勇者パーティーの伝記ありと書かれたコーナーを見つけ、食いつく。

セシリアたちの冒険も気になるし、どのように書かれているのかね。



「伝記ですか……書かれていることには多少、大袈裟に記録されている部分もあるかと。今度、聞きたければ話しますよ、旅をしていた頃の話」



「うん、わかった。……ん!?」



パラパラっと流し読みして止めようと思ったのだが、最後ら辺の部分が気になった。

詳しく読んでみよう、なになに……旅は順調に進み、魔王城へとたどり着いた勇者ユウガ率いる勇者パーティー。



魔王城での最終局面では激しい戦いが繰り広げられたとされている。

幹部クラスの魔族、そしてそれを束ねる魔王の実力は底知れず、一ヶ月もの戦いの末……勝利を掴み取った。



「……何これ」



「ですから、現実とは少々異なっているんですよ」



実際に苦戦したのは俺だけで、幹部も魔王もストレート勝ちだったじゃねぇか。

まあ、語り継がれるには都合の良い、普通の戦いに感じるけど……本来はな。



「……事情はヨウキさんもご存知かと」



「俺のことは公になってないのね」



まあ、目立つような報告していたら勇者パーティーにも俺にも都合が悪いからな。

利害一致ってことで、むしろ感謝しているくらいだ。



「これが伝わっていくんですね」



「ま、歴史なんてそんなもんだと思うけどな。どこでどうねじ曲がったかなんて、わからなくなっていくさ」



「……そうですね。これで良いのか悪いのか、私には判断できません。ねじ曲げた当事者なのですが」



「だんだん、難しい話になってきたぞ。次だ、次」



これ以上議論していたらデートではなく、勉強会になってしまう。

元々、デートでもないけどさ……って、本来の目的はレイヴンとハピネスだった。

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