トリプルデートをしてみた
かなり間が空いてしまいました、すみません。
「さて、どうしたもんかね……」
デュークからの連絡によるとまさかのトリプルデート作戦が決行されることに……。
俺の想像ではレイヴン、ハピネスのデートを俺、セシリア、デュークでサポートするもんだと思っていたが。
何故かメンバーにイレーネさんまで入っていた。
いや、別にいいけども……彼女、ドジッ娘属性持ってなかったか?
「果てしなく心配で部屋にいられず、かといって待ち合わせ時間に余裕があるから、適当にぶらぶらしている始末」
ポケットに手を突っ込みとぼとぼと一人ぼっちで歩く様は、リア充から見てどのように映っているのだろうな。
「あ、隊長さん、ですよね」
「ん?」
声が聞こえ振り向くとそこには鎧姿のイレーネさん。
今日来るんだよね、仕事中じゃないのか、これ。
というか、なんで俺のこと隊長さんて。
「やっぱり、隊長さんですね。デュークさんの」
「ああ、まあ。隊長だけど。イレーネさんて今日は仕事?」
「いえ、違いますよ。これは私が勘違いしてしまったのです」
「勘違いって、どういうことかな」
「デュークさんが部屋で大変な戦いになるっすねとか、サポートのタイミングも間違えたら命取りとか、決戦の日は近いっすとか言っていたのを聞いて。私も協力しますと言ったんです」
イレーネさん、色々と間違った捉え方をしてしまったんだな。
勘違いを招くような一人言を呟いていたデュークも悪いけど、早とちりしたまま、突き進んだのも何とも言えない。
「私はてっきり、厄介な魔物の討伐に出かけるものだと思っていたので。戦闘準備万全で待ち合わせ場所に向かうところだったのをデュークさんに止められて。今日は皆さんでお出掛けするだけだと知ったんです」
「まあ、違う意味での修羅場には遭遇すると思うけどな」
「えっ、そ、そうなんですか。やっぱり、装備をかためていった方がいいですよね」
「いや、普通におしゃれしてきなよ」
デュークはともかく、女の子なんだから普通に出かける時ぐらい私服で良いだろ。
堅苦しい感じが出るのも良くないと思う。
「お、おしゃれですか……が、頑張ってみます!」
「まだ待ち合わせまで時間あるから」
「あ、ありがとうございます。隊長さん!」
「ふっ、俺は紳士として当然のことをしたまでのこと……礼など不要!」
女の子に礼を言われると調子にのってしまうのは男の性分。
入れてはいけないスイッチが入るのが俺だ。
「そ、そうなのですね! 隊長さん、器が大きいです!」
「ふははは、そうだろう、そうだろう! 我が手腕にかかれば、今日の集まりを滞りなく進行しようじゃないか」
「そ、そんなことまで可能ですね。すごいです、隊長さん」
「はっはっは。我が作戦は完璧。多少のトラブルがあったとしても最終的に目指していた場所には着地するからな。任せておけ!」
「さ、さすがデュークさんの隊長さんです。私も……がんばります。絶対に、失敗とかしませんから。ドジも踏みません!」
「その心意気やよし! さあ、行くが良い、その格好ではこれから行くべき場所には不向きなのだろう?」
「は、はい。急いで支度を済ませてきます」
何故か敬礼をしてから、後ろ手ばいばいで走り去って行くイレーネさん。
それにしても少し厨二スイッチが入ってしまったな、反省しないと。
まあ、全員集まって行動している最中はレイヴンとハピネスのことで頭がいっぱいで入りはしないだろうけどさ。
厨二スイッチが入って、俺一人が目立ちまくったら目もあてられないからな。
最早、それは暴走と言えるレベルだ。
くっつける気はあるのかとセシリア、デュークから説教をされてしまう。
イレーネさんもドジを踏まないように注意すると言っていたし、デュークがいるからな。
イレーネさんのフォローは慣れているだろうから心配はない。
セシリアとデュークからしたら、俺がやらかさないかも懸念材料だろうけど。
その辺は信用されていると信じたい。
「今日はもう、厨二禁止。集中すべきはレイヴンとハピネスだ」
目標、ではなく誓いを立てた俺は待ち合わせの場所へ向かった。
「で、十分前集合をしたのに、ビリッケツが俺とか」
宿は早めに出て、待ち合わせ場所の近くをぶらぶらしていたというのに。
皆はもっと早くに来ていたというオチである。
「私はハピネスちゃんと馬車できたので早めに着いたんです」
「俺はいつもギリギリの行動はしないようにしているっすからね。レイヴンはまあ……時間をミスっただけっすよね。一緒に行こうと思ってたのに、部屋に行ったらいないんすもん」
愚痴をこぼすデュークの隣には一時間早く出てしまった、すまないと書かれたメモを見せるレイヴンの姿がある。
この前に会った時より大分、顔色がましになっているな。
ハピネスのおかげだ、絶対。
「……遅刻、期待」
「なんでだよ!?」
まあ、レイヴンの癒しなハピネスは俺を弄って遊んでいるわけだが。
さっき会って、一度騎士寮に戻ったはずのイレーネさんもちゃっかりいる辺りが不思議なのだが。
「はいはい。いつもの件もやった所で出発するっす」
「これいつもの件になるのか!? 俺、すげぇ疲れるから、交代制にしてくれよ」
「じゃ、じゃあ私が代わりに」
「ならなくていいっすよ、イレーネ。スルーしていいっすから」
「おい、ちょっと待て」
いつから俺はそんな雑に扱われるようになったんだ。
セシリアにレイヴン、笑ってないで弁明してくれよ。
ハピネスに至っては諦めろと目で訴えて来てるからな。
「え、デュークさんが言うなら……わかりました」
「わかんないで、お願いだから!」
俺の悲痛な思いのこもった嘆きがミネルバ某所の集合地点にて響く。
人はそんなにいないし、小声だから問題はないだろう。
「よし、近所迷惑確定っすね。隊長はしばらく口を閉じることが決定したっす。さ、行くっすよー」
デュークの中では俺との絡みは終了したことになっているらしい。
案内すると言われ、ぞろぞろと移動を始め出すわけだが……納得出来るか!
「おい、理不尽過ぎるだろ……って、え!?」
「だめですよ。口を閉じていないと」
先頭を歩くデュークに文句の一つでも言おうとしたのだが……セシリアに人指し指を口に当てられてしまう。
これはしゃべるなという意味での行動なのだろうか。
別に人差し指で口を塞ぐ以外でも方法はあったと思う。
よりにもよってなんでこんな……上目遣いだし普通にドキドキするんですけど。
「さ、行きましょうか。急がないと皆さんとはぐれてしまいますよ」
遠くなっていくデュークたちに追い付くため、小走りになる。
いや、そんな手首を掴んで引っ張らなくても急ぐからさ。
さっきのことも相まって心臓の高まりが抑えられなくなるんで、一度離してもらっていいでしょうか。
「あれ、なんか……これって」
「ヨウキさん、口が開いてますよ」
セシリアに注意されて、直ぐに言いかけた言葉を止める。
まさか、まじでしばらく口にチャックとは。
まあ、危うく本音が飛び出しそうになったから、止めてもらって良かったか。
「すみません、はぐれそうになりました」
「だ、大丈夫です。はぐれたら隊長さんが頑張ってくれるってデュークさんが言っていたので」
俺の肉体強化の魔法があるからと知っていての発言だな。
まあ、確かにこのメンバーなら全員ばらばらになっても追えるから、心配はないけど。
レイヴンが口を開けないなら貸すぞと書かれたメモと共にペンと紙を渡してくる。
「いや、俺は別に……なあ?」
「そうですね。それはレイヴンさんに必要な物ですから。ヨウキさんは口を閉じるというのもデュークさんの冗談でしょうし」
「あれぇ?」
「そうっすね。過度に騒がないなら許すっす」
「ちょいちょいちょいちょい!」
二人ともさっき言ってたことと違うだろ。
セシリアとの絡みも本格的に何だったんだと思ってしまうレベルだ。
まさか、この二人は不調なのか。
だとしたら、今日どうなるかわからんぞ……。
楽しげな雰囲気の中に見つけた暗雲に俺は少しだけ不安を募らせた。




