表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
121/420

恋愛相談してきたので、頑張ってみた

「お久し振りですね。いきなり来られたので、驚きました」



「急に連絡もせずに申し訳ない……」



「いえ、今日は予定もなかったので気にしないでください」



ああ、この感じ癒されるなあ、セシリアさんマジで天使。

こんなこと普段は考えないのに、ユウガとの馬車の旅が相当きているんだろう。



元々、俺にとってセシリアは天使みたいな存在だけど。



「旅行に行ってきたんだ。はい、これお土産」



俺は旅行かばんから、セシリア用のお土産が入った包みを渡した。



「ありがとうございます。お茶と……木彫りの天使?」



「なんか、珍しかったし、これは買っていけって現地の人に勧められてさ」



ブライリングにお住みの人たちはほぼ、恋のキューピッド伝説が浸透していたわけで。

土産品に木彫りのキューピッドが売っていたのだ、



店の主人が言うには、おすすめ、効果あり、絶対買うべしとのことだったので……買ってしまった。



「熊は見たことがありますが……木彫りの天使は、初めて見ます」



セシリアは木彫りの天使を手にとり不思議そうに眺めている。

……やっぱり、お土産のチョイスミスったかな。



「い、いらなかった?」



「ヨウキさん。私はお土産をもらって、そんな失礼なことは言いませんよ」



うーん、少し頬を膨らましてむくれているように見える。

指摘したら、どんな反応をするだろうか。

意地悪な考えが浮かび、思わずにやけてしまう。



「何、にやけているんですか。……もしかして、疲れてません? いや、疲れているでしょう」



顔色でばれたのか、セシリアが疑問から確信に変えて断言する。



「へ、あ、いや、違うよ。旅行疲れ、旅行疲れ」



「ほら、疲れているじゃないですか。何が違うんですか」



「あ、しまった」



本音は言わなかったけど、嘘の方もアウトだわ。

結局、俺が疲れていることになる、駄目じゃん。



「疲労回復の効果があるハーブティー、入れましょう」



「お願いします」



これは、これで結果的にいいかな。

椅子に大人しく座って、セシリアがお茶を入れる姿を眺める。



ふと、窓の外に視線をやると仕事中であろう、箒を持ったハピネスと、元気に走り回っているシークの姿が見えた。



「あいつらも、変わらないな……」



「ハピネスちゃんとシークくんですか?」



俺の一人言が聞こえてしまったようだ。

セシリアはティータイムの準備をしながら、俺に話しかけてくる。



「二人とも、来た時と比べたら変わったと思いますよ」



「そうかな」



俺としては、二人とも魔王城時代と大差ない気がするけど。

付き合いが深いはずの俺よりも、セシリアの方が二人の変化に気づいているとか。



「ハピネスちゃんは感情豊かになりました。こういう言い方はハピネスちゃんに失礼かもしれませんが、話すことも増えたと思いますよ。あと、休憩中に窓の外を見ながら鼻唄を歌っていたり。ハピネスちゃんが向いていた方向は……ヨウキさんならわかりますよね」



「まじか。……まあ、ハピネスは言われてみたら変わったか。あいつも、いろいろとあったしな。何より一番の変化は……な」



窓の外、何を見て、何を思って鼻唄を歌っていたのか。

ハピネスはもう、俺よりも答えを出そうとしているのかもしれないな。



「……って、ハピネスはともかく、シークは?」



「シークくんは、ただ、遊ぶだけでなく、自分の知識を高めるために書物を読んだり、一人で戦闘の訓練をしたりしていますよ。シークくん、ヨウキさんやデュークさんに追い付きたいんじゃないでしょうか」



「シークにそんな向上心があったか……? うん、待てよ。あいつの心境が変わるような出来事といえば」



あれは、デュークたち三人がミネルバに来て間もないころ。

ガイとティールちゃんとの出会いにて、遭遇した魔物殺戮勇者、ミラー。



シークはミラーに向かっていったが全く歯が立たず。

役に立てなかったと塞ぎ込むがセリアさんに慰められて現在に至るのだ。

いつものシークに戻ったと思っていたけど、本人は悔しい思いをいまだに引きずっているのかも。



「シークくんも変わりたい、強くなりたいと自分なりに頑張っているんですよ」



「俺が見えてなかっただけか。……俺は? 変わったかな」



自分アピールはあまりしたくないけど、セシリアから見て変わったのか気になる。



「ヨウキさんは……あまり、変わってないかと」



「……そっか」



考える様子も見せず、はっきり言われた。

喜ぶべきなのか……あまり、変わってないっていうのはどうなんだろうな。



「変わってないじゃないですか、出会った時から。妙に優しくて、部下想いで、ちょっと暴走する所も……変わってませんよ」



「あはは……そうかも」



ちょっと暴走する所は直した方が良い気がするけど。

出会った時から変わらないことね、まだ、あるぞ……俺の気持ちとか。



「恥ずかしいわ、これ」



「……何を想像したんですか」



「聞かないで。変なことじゃないから、安心はしてくれ」



「はあ、ヨウキさんがそう言うのでしたら、詳しく詮索はしませんよ。……どうぞ、ハーブティーです」



「ありがと」



「お茶菓子もありますよ」



セシリアがハーブティーとともにクッキーの入ったバスケットを持ってきてくれる。

甘い香りが何とも……疲れているから自然と手が伸びてしまった。



「いただきます。美味しい、勇者疲れが飛んでいくようだ。……でも、俺、いきなり来たのによくあったね」



「前回、また、と言って別れましたから。来るかもって思った日は用意していますよ。来なければ、シークくんのおやつになります」



「前回……はっ!」



ティールちゃんを迎えに行った時、セシリアに会わずに帰っちまったんだ。

前日、セシリアはまた明日と言ってくれていたのに。



「ああ、俺はなんということを……」



「そこまで思い詰めなくても良いですよ」



「女性との約束を破るとか、万死に値する行為だ」



ましてや、好きな子と会う約束だ。

しかも、セシリアからの誘いだったような。

すごく勿体ない、どうしたというんだ、あの時の俺よ!?



「いやいや、そこまで重大なことでも……」



「重大なんだよ、俺にとっては! 毎回、楽しみにしてるんだ」



「……えっと」



「あ……」



言った後に冷静になる俺、つまり時、既に遅し。

俺が今何を言ったのか、丁寧に言うとしたらこんな感じだろう。

あなたと一緒に過ごすのが重大です、毎回楽しみにしています。



……俺、ちょっとどころじゃないよね、大分暴走しているよね。

セシリアも返す言葉が見つからないようで、固まっているし。

ここは、俺がいつもの厨二でカバーすれば良いだろう。



「ふ、ふははは! 今の言葉は……その、あれだ! 一緒にいると楽しいというか、安心するというか……最近、一人になったからな。余計に」



恋しくなりました、なんて言えねぇぇぇぇ。

厨二スイッチを入れても中途半端な感じになってしまい、空気の改善は望めなかった。

さりげなく、一緒にいると楽しいとか、爆弾をさらに投下したし。



「えっと、その……ありがとうございます」



「お、ふ……ふはははは! 俺は、あれだ。こう、なんだったかな」



とりあえず、壊れてみた。

セシリアも俺も気まずくならないような路線で行こう。

このまま、いつものようにふざけよう、なんなら、窓から飛び降りるという手もある。



しかし、それで良いのだろうか。

カイウスの言葉を思い出せ、俺。

このままじゃ、何も変われない。



変わらなくても良い、変わってほしくないものだってある。

でも、現状からの変化を望まないっていうのは停滞なんだ



少しでも良いから先に進まないと後悔する。

カイウスに恋愛相談した成果を今、見せねば。



壊れるのを止めて、セシリアの元へ一直線。

顔が近いからか、俺の行動のせいか心臓の鼓動がやばい。



「ヨウキさん……?」



「お、」


言え



「俺」



言うんだ!



「俺、絶対にもう一回、セシリアに告白するから!!」



言いました、告白もう一回します発言。

今しろよという話なのは、わかる。

もうこれ、半分告白じゃねぇかというのもわかる。



ただ、今の俺にはまだ、何か足りない気がするんだ、

あと、もう一個、理由はあるんだけれども。



「……私は」



「お願い、今、返事言わないで!」



あくまで告白するって言っただけだから、告白じゃないから。



「……ふふふ、ヨウキさんはやっぱり、変わりませんね」



「へ?」



「待っていますから。返事は保留……ですね」



「お、おう。そういうことで、お願いします」



ぺこりとお辞儀してお願いすると、セシリアも返してくれた。

これって何の礼儀だ?



「隊長~。甘い匂いがしたから来たよ~」



「……休憩」



空気を読んだのか読んでいないのか。

部屋の扉が開かれて、ハピネスとシークが入ってきた。



「よっ、久しぶりだな。旅行に行ってきたんだ。お前らにもお土産な。シークには干し野菜、ハピネスには編み物セット」



「え~?」



「編み物?」



せっかく買ってきたのに、微妙な反応をする二人。

干し野菜は栄養があり、薬にも使われている物を買ってきた。

調理してもらって食うもよし、薬にするもよしだ。



編み物セットは恋がさかんなブライリングの女性が今、流行っているとのことだったので買ってきた。

何か編んで、レイヴンにあげれば良いと思う。



「……隊長」



「ん、なんだ」



俺が買ってきた編み物セットを弄りながら、ハピネスは俺に尋ねてきた。



「……一人旅?」



「たまには、いいかと思ってな」



結果的に一人ではなくなったけど。



「……ぼっち」



「誘う相手がいなかったわけじゃないからな!? つーか、ぼっちだったらお土産なんて買って来ねぇよ。」



一人寂しく買ってきたお土産に囲まれるくらいなら、買ってこない。

ハピネスといつもの攻防を繰り広げていると、早くも干し野菜に興味を無くしたシークがクッキーへとターゲットを変更していた。



「僕はクッキーを食べる~」



「これは俺のだ!」



「……大人気なし」



「うるせー、悪いか」



俺にだって守り抜きたい物がある。

なんか、この台詞使いどころ間違ってねぇか。



「あの、ヨウキさん。ティータイムは皆で楽しみましょうか」



「はい、すみません」



セシリアには低姿勢な俺も健在である。

結局、セシリアのクッキーの半分はシークの胃袋に収まってしまった。



「ヨウキさん、そういえば先程、勇者疲れと聞こえたような」



「旅行先でユウガとばったり、掴まってとばっちり……」



「だ、大丈夫でしたか。周りに迷惑とか、被害はさすがにないですよね」



「あいつ、どんだけ信用度低いんだよ」



真面目に旅をしていた時に何をやらかしたのか。

セシリアの心配具合からして、相当なものと思われる。



「安心してくれ、俺が全部押さえ込んだから。むしろきつかったのは帰りだよ。勇者と過ごす乗り合い馬車の旅……」



頼むから休憩地点で泊まる村で騒動を起こさないで欲しかった。

キャンプでは、キャンプで問題起こしたりと……疲れました、語りたくありません。



「……ハーブティー、おかわりいかがですか」



「ありがとう、助かる」



遠慮なくおかわりをもらい、身体を休める俺であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ