勇者と吸血鬼と協力してみた
「れ、恋愛相談?」
「ああ、ショットくんは多分、恋愛に悩んでる」
「どういうこと、ショットくんはそんな素振りなかったけど」
「ショットくんの周りにいた女の子たちは全員彼氏持ちだったんだろ。そんな簡単にぽんぽんとハーレムっていうのは、無くならないもんなんだ。これ、世界の常識」
前世にもいたわ、女の子囲っているやつ。
なんか、特別な力が働いているとしか思えないぐらい、そいつから離れないんだよな。
彼女いない俺からしたらもう……ただの嫉妬だけどさ。
「ヨウキくんが言ってることがよくわからないんだけど」
「ま、ようは何でショットくんの周りの女の子たちが彼氏持ちになったかってことだよ」
「うーん……」
悩む余地などないだろうに。
こいつは推理とか苦手なのか。
「カイウスの恋愛相談だよ。多分だけど、ショットくんの周りにいた女の子のことを好きだったやつがいたんだろ。それで、恋愛相談しにいって、告白して成功みたいな」
それで、周りの女の子たちがいなくなった。
告白した男たちもそうだが、恋愛相談にのり背中押したカイウスに逆恨み。
吸血鬼扱いしたことについてはわからん。
正体がばれたっていうのは、二百年以上もごまかし続けたカイウスからして考えづらい。
おそらく、でっちあげだろう。
推測でしかないが、これが今回の依頼騒動の真相だとみるが。
「ショットくんがそんなことを……? で、でも、カイウスさんにそんなことをして、ばれたら問題になるよ。ショットくんも貴族だし。カイウスさんが吸血鬼じゃなく、人間だったら大変なことになるんだよ。……実際、人間だったしさ」
いや、実際は吸血鬼だったけどな。
まあ、確かに人間でした、間違えましたー、じゃすまない話だ。
「大変なことにならないように、お前への個人依頼にしたんだろう。ギルドへ依頼を通したら、ギルド側から嘘の依頼を出したってことで、問題沙汰になる。お前への個人依頼なら、お前が黙っていれば終わりだ」
「そ、そんな。僕は危うくショットくんに利用されるところだったなんて……」
かなり落胆しているのか、手が震えているな。
つーか、阿呆に見られているから利用されそうになるんだと思うぞ、しっかりしろ。
「良かったな、俺がたまたま、この町に来て」
「うん、本当にね」
「そこは自分一人でも解決出来たって言うべきじゃないのか」
安心して、笑顔を見せるところじゃないだろ。
俺と一緒じゃなかったら、問答無用でカイウスを切り捨てていたのだろうか。
そこまで阿呆ではないと信じたい。
「ぼ、僕だって事実確認もしないままにカイウスさんを倒したりは」
「会った瞬間、剣を向けていたよな」
「うぐぐ……」
何も言えなくなるのが、早すぎだろ。
旅をしていた時、こいつ以外の三人の苦労は計り知れないな。
成長はしているはずだ。
頑張れ、ほんのちょっとは応援しているぞ。
「ま、終わり良ければ全て良しだ。とっととけりをつけるぞ。悔しがってる暇あんなら、前を向け」
「うん……ありがとう。ヨウキくんて優しいね」
落ち込んだ顔から一転、柔らかい笑顔に変わった。
こういう流れって、恋が芽生えた瞬間だった……ってことがあるよーな。
「止めろ。それは、ダメだ!」
「え、な、何が……」
「何でもない。いや、何でもなくない」
「ど、どっち!?」
そういう世界を知らないのか、それともこういう流れを知らないのか。
お互いに焦っているが理由は全く違うという。
同じ話題でパニクっているのに、妙な話だ。
「ええい、面倒くさい! とりあえず、明日だ、明日。明日で全部終わらせるぞ」
「わ、わかったよ」
「よし、決まりだな。じゃ、解散」
一方的に活動を終了させ、俺は宿に帰って寝た。
ま、明日には全てが終わっているだろう。
つーか、俺の用事はもう終わっているし、ミネルバに帰りたい。
翌日、早速ショットくんの屋敷に乗り込んだ。
ユウガに任せて俺は楽しようと、思っていたのだが。
「ユウガ、僕の言葉は君に届かなかったんだね」
「ち、違うんだ、ショットくん、えっとね」
「まさか、あの吸血鬼の肩を持つだけでなく、僕を疑うなんてね。本当に残念だよ」
「え、えっと……」
言いくるめられており、早くもギブアップ寸前。
助けを求めるかのように、左斜め後ろにいる俺を見てくる。
俺が口を開いたら、どんな感じになるかは目に見えているのだけど。
「悪いがこっちも、ギルドの正式な依頼じゃないにも関わらず、時間をかけて調べた結果なんだ。あんたを疑う云々は置いておいて、カイウスが吸血鬼で女性を襲ったっていうのは事実じゃない」
「ふん。僕はユウガと話しているんだ。それに、ギルドの正式な依頼ではないだと? だったら、冒険者の君にはなおのこと、今回の件に関しては関係ないだろう。僕がユウガに出した個人的な依頼。つまり、友人に対するお願いみたいなものなのだから」
「……はぁ」
やっぱりこーんな感じのことを言われて終了か。
短くまとめると部外者はすっこんでいろとのことだ。
この分だと、俺が何を言っても聞かないだろう。
ユウガが自分の言葉でショットくんを追い詰めなければならない。
元々、ユウガが簡単に頼みを聞いたのが発端だ。
自分で解決するのが当然といえば当然だが。
「おい、昨日打ち合わせしただろ」
小声でユウガに助け船を出す。
「な、なんて言えばいいんだっけ」
「うぉい!」
こいつ、内容忘れてやがる。
ショットくんは余裕なのか、下卑た笑みを浮かべているし、どうしたもんか。
打開策はないかと考えていると、いきなり、ユウガが切り出した。
「ショットくん。これが調査の結果なんだよ。もし、君が誤った道に進もうとしているなら……止めたい。僕は、勇者だから」
「ふ、勇者だからといって何でもしていいのかい。僕は自分が正しいと思っているからね」
中々、強情で往生際が悪いな。
……それにしても遅いな、そろそろ、来るはずだけど。
そう思っていたら、部屋の扉が勢い良く開いた。
「だ、誰だ!?」
「はっはっは、出張サービスに来たぞ、恋に悩む少年たちよ!」
良くわからんセリフと共に現れたのは、恋のキューピッドことカイウス。
ここに来る前に、屋敷に来てほしいと頼んでおいた。
「な、ユウガ! これはどういうことだ」
「いや、僕にもさっぱり……。まさか、ヨウキくんが呼んだの」
「昨日、恋愛相談にのってもらうって言ったろ」
「そうだけど、ショットくんに何の説明もなしにいきなり……」
「く、来るな、吸血鬼め! 貴様が皆をたぶらかしたせいで、僕は」
カイウスにやたらと強い拒否反応を示しているショットくん。
やっぱり、俺の想像は当たっていたか。
「おおよその見当はついている。私はただ、彼らの後押しをしただけだ。選んだのは君の周りにいた子たち自身さ」
「う、うう……何で、そんな」
「君の注いでいた愛情が彼らにかなわなかった。それだけのことさ」
落ち込んでいるショットくんに容赦ない言葉を浴びせるカイウス。
ショットくん、さっきの虚勢はどこへいったのか、しおらしくなってしまったな。
「何を言っても無理か。こいつが出てきた時点でもう……」
「ショットくん……」
「……皆、僕のことが好きだと思ってた。ある日、好きだと言ってくれた人がいる。私もその人が好き、そう言って僕から離れていった。それからどんどん、離れていって、気がついたら一人だ」
「ほほう。……で?」
「彼女たちに告白した男たちを調べていたら、全員、廃城に残っている伝説を頼ったことを知った。僕も恋のキューピッド伝説は知っていたが、てっきり誰かが流した噂だと思っていたよ。まさか、実在していたなんてね」
「はっはっは」
地元の伝説なのに、本当か嘘か知らなかったのか。
相当、箱入りで育てられたか、または、女性に囲まれていて恋に悩む必要なんてなかったからか。
「調べていく内に伝説は二百年も前からあると知った。それで、腹いせにユウガに依頼を出したのさ」
「本人の口から聞くと改めて、自分勝手で支離滅裂な理由だと再認識するな」
「ふん、笑いたければ笑うが良いさ。どちらにしろ、僕はもう終わりだ。好きにするが良い」
反抗も言い訳もする様子はなく、ショットくんは煮るなり焼くなり好きにしろといった感じらしい。
貴族ってもっとみっともなく足掻いてくると思っていたので、ちょっと拍子抜けだ。
好きにしていいなら、私怨でカイウスを殺すため、ユウガに嘘をついたってことで騎士団につきだすことも出来るが。
「……ふ」
「どうしたんだ。さっきはもっと笑っていたじゃないか。もっと笑えばいいだろ、僕を!」
「少年、君はただ、悔しかった。好きだった彼女たちが離れていって。そして、羨ましくも思ったのではないか? 一人の女性を愛するということに!」
「……は? 何を言っている。僕は」
「君の心の中にいるはずだ。愛しいと思っている存在が!」
カイウスがやばい、勢いがすごい。
ショットくんが押され過ぎて、椅子に座ったままのけ反っている。
「ヨウキくん、止めなくていいのかな」
「このままで大丈夫だ。上手いこと解決する……と思う」
空気となりつつある俺たちは行く末を見守ることにした。
「本当に恋愛に絶望したのならば、人を使って私に復讐などするか。来るなら自分で来ているだろう! 君は怖かったのだろう、私と会うことが」
「い、いきなり何を言って……」
「私が今まで何人、恋に悩む者を見てきたと思っている! 私の目はごまかせないぞ」
ショットくんへ詰め寄り、目を覗き込んでいる。
その辺にしておけよ、変なトラウマになるんじゃないのか。
「……く」
「成る程、二人きりでないと話せないのだな。それもまた、恋に悩む者が持つものだ。好きな子がいるばれるのが恥ずかしい、名前を言うのも恥ずかしいという」
「そ、そういうわけではない!」
「ならば、我が城にて存分に話を聞かせてもらおうじゃないか。あそこは何人もが恋の悩みを打ち明けた場所。いわば、恋に悩む者の聖地! さあ、行くぞ」
「うわっ。くっ、離せ!」
「では、さらばだ」
ショットくんを脇に抱えたカイウスは部屋から走り去っていった。
口を開けて固まったユウガ、たまたま持っていたハンカチを振る俺が残される。
「カイウスさん、止めなくて良かったのかな……?」
「知らん」
これにて、吸血鬼騒動は解決したのである。
……ユウガも俺も、そこまで役にたっていない気がするのは気のせいか?




