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吸血鬼の昔話を聞いてみた

「この先に行ったら、恋人が眠っている?」



こんな怪しさ漂う場所にか。

上に沢山部屋空いてんだから、そこに寝かせてやれば良いのに。

薄暗い地下室で就寝て……まさかな。



「何か言いたそうだね」


「なんで、地下室って思っただけだよ。部屋、沢山余っていたからさ」



「……彼女を誰にも見られたくないからだと言ったらどうする」



「あんた、ヤンデレか」


恋人は誰にも見られたくない、手も触れさせない的な。

そういうのはティールちゃんで間に合っているのだが。



「はっはっは、冗談だよ。ただ……上の部屋ではダメなんだ。彼女は人間ではないからね」



「ふーん」



まあ、俺やハピネスが例外的なわけで基本は同族同士で結ばれるからな。カイウスの恋人が吸血鬼でもなんら不思議じゃない。



恋のキューピッドをしているだけあって、直ぐに付き合うことが出来たのだろうな。



カイウスはルックスも良いし、喋りも上手い。

自分のペースにのせるのが得意そうだし。



「さ、まずは使用人たちのお出迎えだな」



やっと扉が見えてきたと思ったら、意味深な発言。

廃城なのにあれだけ綺麗だったのは、この先にいる使用人たちのおかげだったか。

カイウスに続いて扉を開けた先へ。



そこは広い地下室になっており、石造りの棺桶が何個も並んでいた。

異様な雰囲気が漂う場所に戸惑うも、ドレッサーやらタンスやらがあることに気付き、急に冷静になる。



「今の時間帯は皆、寝ているのさ。来客とばったり会うのもまずいからね」



「まずいて……想像はしていたけど。使用人は全員、吸血鬼?」



「私の大切な家族たちだよ。中には恋人だった子もいるかな」



「この中に恋人はいないのか」



「彼女はこっちだよ」



並んでいる棺桶を通り過ぎ、奥へと続く扉へと足を進める。

扉には鍵がかけてあるようだった。

やっぱり、カイウスヤンデレなのではないか。



「厳重だな」



「大切な……恋人だからね」



カイウスの言葉に一切の偽りを感じない。

これが誰かを愛するということなのだろうと思った。



部屋の中に入ると、まず、目を引いたのは中央に置かれた棺桶。

ガラス張りの蓋になっており、中には手を胸で組んで寝ている女性の姿があった。



回りには花が散りばめられている……って、よく見たら造花だ。

考えてみたら、こんな陽の光が入らない地下室で花を置いてもな。



「可愛いだろう。自慢の恋人さ」



「のろけか」



「そうさ。君も恋人が出来たらわかるよ。自分の愛しい者の話はいくら話しても飽きないからね」


「俺が……か」



デュークに延々とセシリアの話をしまくっている俺の図。

今とさして変わらないような気もするが。



「ところでこの子も寝ているのか?」



俺は何気ない普通の質問をしたはず。

だが、カイウスの表情がしおらしくなってしまった。

カイウスにとって、今、俺がした質問は重かったらしい。



「目覚めないよ、彼女はね。彼女自身が望んでいないから」



「どういう意味だ」



「彼女は元々、人間だから。……嘘をついたね、私は最終的に振られてしまったんだよ」



カイウスの瞳からは一滴の涙がこぼれていた。



「聞いてもいいのか」



「構わないよ、ああ、笑いたければ笑っても良いからね。……昔、馬鹿で自尊心の強い吸血鬼がいたんだ。その吸血鬼は仲間内で騒ぎ放題。女性をとっかえひっかえしては、毎日パーティー開き、贅沢三昧で何一つ不自由のない暮らしをしていた」



カイウスの過去話らしい。

ルックスだけでなく育ちも良いのか。

とにかく、やりたい放題の毎日を過ごしていたようだな。



「そんな、ある日。吸血鬼はぱたりと女性に飽きてしまった。誘えば直ぐに寄ってくるからだろうか、想うところがあったらしい」



その頃の自分が嫌いなのかカイウスは、最低だね、とぼやいている。



「そこで吸血鬼が考え付いたのは、やってはいけない諸行だった。恋愛に疎そうな少女をたぶらかして、自分色に染めようなどと。まるで、ゲームをするかのような感覚だった」



恋愛相談にのり、迷える者を導く恋のキューピッドの過去の蛮行が露になっていく。



「吸血鬼のターゲットになったのは、同族ではない、人間の少女だった。たまたま散歩をしていたら、目に留まっただけ。それだけの理由で少女は吸血鬼の遊びに巻き込まれた」



偶然を装って出会い、甘く優しい言葉をかける。 男から言い寄られたことがなかった彼女は、最初こそ疑い戸惑ったらしい。

しかし、女慣れしていた吸血鬼の手腕には勝てなかったようだ。



「どうやって彼女の疑いを無くすか、わかりやすく好意を伝えるか、自分を好きにさせるか。パズルを解いていくかのように彼女を攻略していった」



彼女の笑顔を見ても何の罪悪感も感じなかった。 むしろ、内心笑っていたのかもしれないなとカイウスは語り、歯軋りをしている。



「彼女が自分の色に染まり始めた頃、吸血鬼は遊びを終わらせようとしていた。本気で好きになったわけじゃない。ただ、遊び感覚だったからだ」



実際に別れ話を持ち込んだらしい。

別に好きな人が出来たと、もう君とは会えないと言ったそうだ。



「彼女はとても悲しそうな顔を見せ泣いた。だが、すぐに服の袖で涙を拭き強引に止め、吸血鬼に礼を言った。素敵な思い出になったと、初恋があなたで良かったと言ったんだ。滑稽だろう。相手は紳士でもなければ善人でもない、遊んでばかりの吸血鬼が正体だというのにね」



「その頃はゲスい吸血鬼だったんだな」



「言ったろう、笑っていいと。まあ、彼女にはたちの悪い嘘をついたねと抱き寄せて耳元で優しく囁いたさ。もれなく強烈なビンタをプレゼントされたよ。初めての経験だった」



「話を聞いてる限りじゃ、後ろから刺されていてもおかしくないと思うけどな」



「はっはっは、その通りだ。私は彼女に会うのが遅すぎた。それまでの愚行のせいかな、罰が下ったよ」



笑っているのはやせ我慢か。

目にはうっすらと涙が見える。



「彼女が襲われた、私の遊び相手の一人にね。私を独占されると思ったらしい」



女の世界って怖いからな。



「彼女は瀕死の重症を負った。そして、私が吸血鬼だとばれた。怒りで自分を抑えきれなかったよ。それでも、彼女は……私を好きだと言ってくれたんだ」



「……そうか」



俺は棺桶の中の女性に目を向ける。

彼女を忘れられなくて、カイウスは……。



「おい、待て。それって、彼女は死んだってことじゃないのか」



「ああ、瀕死の重症だったからね。でも、私は死なせたくなかった。始めて本気になれた女性だ。失うなんて、とんでもないと思ってね」



「いや、でも、無理だろ」



回復魔法なんて、カイウスは使えなさそうだし。


「吸血鬼には眷属化する能力があってね。私は彼女に使った」



「眷属って……人間から魔物に!?」



そんなことが出来るなんて、始めて知ったぞ。

偶発的に人の死体が魔物になったりはするが、任意で好きな相手を魔物にするとか。



「ああ。魔族の間では禁止されていることさ。人の記憶を引き継いだ魔物は半端者だ。魔物になりきれず、人には戻れない。不幸しか呼ばないからね」



「それを知っていたにも関わらず、眷属にしたのか」



「眷属……まあ、吸血鬼にね。本人の意思は無視したよ」



「問答無用かよ」



「……それが、原因なのかな。眷属化は成功したはずなのに、彼女は目覚めない。勝手な行動をした私のことを怒っているのかな」



寂しげに俯く、カイウス。

自業自得だと思うぞ。

……それにしても、こいつがやったことははたして、彼女にとって幸せだったのだろうか。



人として死ぬことが許されず、自分の意思関係なく魔物にされる。



「彼女に謝ったのか?」



「いや、目覚めないからね。毎晩、顔を撫でながら愛の言葉は囁いているが」



「アホか、まず謝れよ。自分が勝手にとった行動に対して」



筋を通してから、口説け。



「私はそんなに勝手な男だろうか?」



「充分、勝手だわ。恋のキューピッドやってるくせに何故わからん」



俺やユウガへの恋愛相談は完璧だったというのに。



「数々の女性経験、長年生きて蓄えた知識、姿を変えて色々な地域に赴き、出会いによって鍛えた観察眼。それが私の武器さ」



「自分のことに応用しろよ。……もしかしたら、彼女さん寝たふりしているだけかもしれないぞ」


「そんな馬鹿な! もう二百年以上、このままだぞ」



「案外飾らない、率直な言葉を待っているかもしれないぞ」



女性の考えることはわからないからな。

辛抱強く、待ってくれているかもしれないぞ。

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