勇者の頼みを聞いてみた
「おや、もう帰るのかい」
「悪意はなさそうだしな。恋愛相談にものってもらったし、もう帰るよ」
「そうかい? 本性をさらけ出して話せる相手は久しぶりだったからね。私も中々に楽しめたよ、ありがとう
」
吸血鬼に礼を言われるが、大したことはしていない。
ただ、素性をさらして話しただけだ。
吸血鬼にとって楽しめたなら良いけど。
「おう。またな」
「さらばだ、同族よ。君の恋が叶うことを祈っているよ。……もし、それが人間への恋だとしてもね」
「……ありがとう」
「はっはっは。相談者の恋愛成就を祈るのは当然さ。私は恋のキューピッドだからね」
部屋を出ていく間際、吸血鬼は指を鳴らし、俺を見送る。
吸血鬼とはなんか気が合いそうだ。
「さて、目的も達成したしどうするか」
廃城を出て、軽く伸びをする。
せっかくの一人旅で遠方の町まで来たのだ。
セシリアやデュークたちにお土産でも買っていってやろう。
さっき町をさっと回った時に良さげなお土産屋を何軒か見た。
目星はついている、あとは行くだけ。
プランも決まり出発。
気楽な旅行の始まりだったはず……なのに。
「さっき別れたばかりだろ! なんで、またお前と会うんだよ」
「そこまで言わなくても……」
土産屋を目指し、町中を歩いていたら、またしてもユウガに遭遇した。
先程の恋愛相談の結果のせいか、いつもの爽やかさと勢いがない。
こいつ、かなり気にしてやがるな。
「まあ、その……言い過ぎたわ。すまん」
こんな憔悴しきった奴に冷たく当たるのは厳しいか。
しかし、直後に俺は優しさを見せたことを後悔する。
「うう……別にいいよ。僕、頑張るから」
「そうか、なら頑張れ」
「うん。頑張る。だから、ヨウキくん。一緒に僕の友人の所まで行ってくれるかな」
「どういう話の流れだよ!」
今の会話で何故、その結論に至ったのか全くわからん。
会話文をかなりすっ飛ばしたかのように、繋がりがおかしいぞ。
「彼に言われたことで、僕は過去を振り返ってみた。そして、気づいたことがあったんだ。僕はずっと独りよがりに生きてきたんだって」
「ほうほう」
そこに気づくとはユウガも成長したと思う。
人の言葉は聞かず、一人で暴走し、走り抜けるような人生をおくってきたというのにな。
だが、そう考えついたなら、なお、さっきの頼み事をする理由がわからない。
「誰かの言葉、想いを尊重してこれからを生きていきたい。自分で救ったと思って終わりたくないんだ。本当に相手が救われたのか。独りよがりの救済はただの自己満足だ。僕は、本当の勇者になるよ」
「立派な決意だと思うぞ。俺にはとてもまね出来ん」
とりあえず、誉めて逃げ出そう。
……逃げたいからって、全く誉めていないわけではない。
自分の過ちに気づいて、それを直すと宣言するのは良いことだ
だから、決して逃げたいだけで誉めたわけではない。
「ありがとう。僕は変わる、変わるんだ。だから、ヨウキくん。君には変わる決意をした僕を見届けて欲しい」
しかし、ユウガは逃げることを許してくれないみたいだ。
いつの間にか、握られている右腕。
こいつ、人の話聞くって宣言したばっかじゃーか。
早速、聞いてないぞ。
もうなるようになれとなげやりになった俺は、わかったと了承してしまったのである。
「はあ、お土産は明日だな」
引きずられるようにして、歩く中。
俺はユウガを一瞥し、ため息混じりに呟いた。
「ショットくん、君の頼みだけど何か手違いがあったみたいだ。あの廃城に吸血鬼なんて、いなかったよ」
「ユウガ、何を言っているのさ。あそこにいるのは吸血鬼だよ。現に僕の彼女たちは襲われたんだ」
「じゃあ、その襲われたという彼女たちに会わせてほしい。廃城で会った青年なのか、確認したい」
「お、襲われた彼女たちは全員ショックを受けて、遠方の修道院で療養中なんだよ」
この、押し問答はいつ終わるのか。
ユウガの下、案内されたのはなんと、ここ一帯の領主の家。
セシリアの屋敷へ普通に通っているので、でかい屋敷には慣れている。
しかし、ユウガの言っていた友人が貴族のご子息様だったとはな。
さすが、人の話を聞かなくても勇者だ。
ただ、ユウガの友人の……ショットくんだったか。
三男坊で旅をしていた時に知り合ったみたいだが、どうも胡散臭いというか。
つーか、二人ともさっき彼女たちって話しているけど、どういうことだ。
「ユウガ、こいつの言う彼女たちとはなんだ」
「うん? ああ、ショットくんはお嫁さんの候補が何人もいるんだ。きっと、その子たちのことだよ」
「はぁ、何だよ、それ」
類は友を呼ぶというが、こいつらハーレム友達か。
くそっ、貴族の息子らしいが一発拳をぶちこんでやりたくなるな。
「おい、ユウガ。先程から気になってはいたが、横にいる男は何者だ」
「えっと、彼はヨウキくんだよ。今回の頼み事の件で協力してくれる友人だよ」
「おい、協力するなんて一言も言ってないぞ!」
あと、お前の友人になった覚えもないぞ……うん、ないよな。
「そうか、ごほん、これは失礼した。僕の名はショット・ヘイムダールだ。僕の私事のためにはるばる遠方から済まない」
ショットくんは一度咳払いをし、呼吸を整える。 何者扱いの謝罪もしてきたし、普通の人っぽい。
「俺はヨウキだ。ただの冒険者、ユウガに巻き込まれただけだから、そんなに畏まらなくても大丈夫だぞ」
「……そうか。冒険者だったか」
急に俺を見る目が変わった。
俺が冒険者だと知り、一気に人を見下すような、そんな感じだ。
まあ、よくいる貴族って、こんなもんか。
こいつにセシリアの爪のアカを煎じて飲ましてやりたい、いや、飲ませないけど。
「ヨウキくんも一緒に廃城に行ったから、わかるよね。あの青年は吸血鬼なんかじゃないって」
「あー、そうだな」
普通にあの男は吸血鬼だけどな。
だけど、こいつの話はなんだか信用出来ん。
だからといって、調査しないわけにもいかないだろうけど。
「僕は納得出来ない。ユウガ、残念だよ。友人の君なら僕の言葉を信じてくれると思っていたのに」
「ショットくんを疑っているわけじゃないんだ。ただ……廃城の彼は違うよ!」
こうやって確証もなしにお互いの意見をぶつけたって終わるわけないからな。
一度出直すか、これ以上は時間の無駄にしかならん。
「おい、一旦、帰るぞ」
「え、だって、まだショットくんとの話が終わってないよ」
「その話が終わらなさそうだから、帰るんだよ。こいつが納得するような証拠を探すぞ」
そんなもんあるか、わからないけどな。
だって、本人は吸血鬼だしさ。
むしろ、正体が吸血鬼だという証拠の方が簡単に手に入りそうだ。
「ユウガ、僕は待っているぞ。必ずや、あの憎き吸血鬼を仕留めてくれると」
心の中でしねーよ、勝手に待っていろと悪態をつき、屋敷から出た。
「疲れた」
この一言しか出てこない。
ショットくん、まあ、ユウガの友人だったわ。
似た者同士で馬があったのか、どうなのか。
ハーレム作ってて、人の話を聞かない。
嫌みったらしくないだけ、ユウガの方が幾分かだけましだな。
「えっと、僕は変われたかな」
「そんな簡単に人は変われねーよ」
「そ、そんな……」
落ち込んでいるユウガをガン無視して、真面目にどうするか考えよう。
俺からしたら、完全に巻き込まれたわけだが。
ショットくんが嘘をついている可能性は、ほぼ間違いない。
だけど、どうやって恋のキューピッド、カイウスを吸血鬼だと知ることが出来たのか。
あと、カイウスには問いたださなかったけど、あの廃城にはまだ隠された何かかありそうだったな。
「僕は変わるんだ。この依頼を絶対に終わらせてみせる。真実を見つけるんだ」
「良い心掛けだと思うぞ。あと、なんか、気になることがあるし、俺も正式に協力してやるよ」
「本当!?」
落ち込んでいたはずの表情は何処へ。
満面の笑みを浮かべてきやがった。
そういうのは惚れている女にやれ。
無理矢理、巻き込んだ癖に、いざ手伝うと言ったらこれか。
「ヨウキくんがいたら、百人力だよ」
「その根拠は」
「だって、レイヴンも頼りにしているよね、ヨウキくんのこと。……セシリアもヨウキくんと行動しているの多いみたいだし」
それは俺がセシリアに好意を持っていて、いろいろな所に誘っているからだよ。
まあ、真実を語ったらバトルは避けられないので、話題を流そう。
「マー、セカイヲスクッタ、ユウシャサマニハ、マケルケドナー」
「えっと、すごい棒読みな気がするけど……」
「ま、冗談は置いといて……今日はもう遅いし、解散な。明日、町の入口に昼に集合で」
「えっ、うん。わかった」
わかったと言ったくせに、解散しなかった。
俺の後ろを着いてきて、同じ宿。
集合場所を決めた意味が皆無。
こいつ、一般的な宿に泊まるとか。
てっきり、豪華な宿に泊まると思っていたんだがな。
その方が直ぐに集合できて、効率も良い、だが。
「部屋は別で頼む」
宿の受付の店主に告げる。
「え、なんで……」
横にいるユウガは不服そう。
なんでじゃねーよ、察しろ。
「よろしいのですか?」
「二部屋で」
「はい、かしこまりました」
これだけは譲らなかった。




