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勇者と恋愛相談してみた

「……何を言っているんだ」



神妙な表情で男に問うユウガ。

こいつ、こんな顔も出来るのか、意外だ。

いつものトラブルメーカーでミカナの血圧を上昇させているユウガは何処へ。



場でシリアスな空気を作っているのはユウガのみ。

目の前の男は何を言ってものらりくらりとかわしそうだし。

俺からしてみれば、この男が恋のキューピッドなら、目的達成だ。



あとは警戒心剥き出しのユウガをどうするかだが。



「はっはっは。聞こえなかったかな。ならば、もう一度……君たちの恋愛相談、聞こうじゃないか」



「ヨウキくん、彼は何を言っているのかな」



「あー、そういえば、俺がここに来る時、乗り合い馬車で会った老夫婦から興味深い話を聞いたな」



いかにもその時聞いたのが初めてだと装う俺。

恋愛相談目当てで来たとばれたら面倒だ。



「興味深い話?」



「ああ。何でもこの廃城には恋のキューピッドが住んでいて、恋愛相談をしたら、想い人と上手くいくようになるとか」



「上手くいく、か。厳密には違うけどね」



「え?」



「私がしていることは難しくもなんともないよ。話を聞いて、少しのアドバイス、勇気を与えているだけださ。そうだね、扉に立つまでのサポートはする。鍵を開けるのは自分自身。その扉の先に何が待っているかは……私にもわからないからね」


ふふっと笑いながら、持論を語っているわけだが。

ユウガは少しだけ警戒を解いたらしい。

男の持論に耳を傾けている。



「なあ、俺が会った老夫婦も恋愛相談を受けたと言っていたけど」



「それは先代が相手をしたのではないかな」



「先代って……恋のキューピッドは受け継がれているの?」



ユウガが疑問を持ったらしい。

つーか、いつの間に聖剣収めたんだよ。



「ああ、そうだよ。私は六代目さ」



「受け継ぐものなのか、それ」



「私は先代の意思を継ぐものなのさ」



「それでも、完全に信用は出来ないな。火の無い所に煙は……なんちゃらっていうだろ」



「立たぬな」



そこまで知ってるなら最後まで決めろよ。



「私のことをよく思っていない輩がいるのかもしれないな。誰かを惹き付け合わせるっていうのはね。恨みを買うときもあるからさ」



恋愛相談で恨みを買うとかどういうことだ。

ユウガは俺以上にはてなを浮かべている。



「誰かと誰かが結ばれるとね。第三者は結ばれなくなってしまうだろう? そんな感じで逆恨みされる時もあるのさ」



「なるほど。恋愛では三角関係やらいろいろとドロドロした展開になることもあるしな」



俺とセシリアの恋にそんなドロドロな障害はごめんだが。



「つまり、貴方に恋愛相談をして無事に恋が成就したカップルがいた。付き合いだした二人を疎ましく思った第三者が、二人を引き合わせるきっかけになった、貴方を陥れるために、吸血鬼だという嘘をついてユウガに依頼を出したと」



「ヨウキくん、僕の友人を疑うの」



「だって……なあ」



「はっはっは、まあ、落ち着きたまえよ。私が吸血鬼かどうかは置いておいて……君たち、二人とも恋をしているだろう」


確実にそうだという自信を持っている。

そう感じた俺は目を見開いた。



「なあに、その年で恋をしていないなんてことはまれだろう。かまをかけてみただけさ。そんなに驚かなくていいじゃないか」



「……それにしては自信満々な言い方だったけどな」



「相談をされる側が恐る恐る話していては不安にならないかい? 私は相談者を不安にさせないために、自分の言葉には自信を持って言うようにしているのさ」



なんというか、掴み所がなくて困るな。

しかし、この男が俺の求めていた恋のキューピッドに間違いないようだし。

このままの流れで恋愛相談するのもありかも。



「僕には確かに好きな人がいるけど……」



「まず、君! 見ただけでわかるが……モテるだろう」



「確かに、むかつくぐらいモテるぞ、こいつ。全力で顔面にクリームパイを投げつけてやりたいくらい」



「ヨウキくん!?」


安心しろ、そんな勿体ないことはしないから。

大体、お菓子をそんなことに使ったら知り合いのマッスルパティシエが黙ってない気がする。



「はっはっは。そうだろう、そうだろう。君の身なりからして、複数人から恋愛感情を受けていてもなんら、不思議じゃない」



世の中やっぱり、イケメンなのか。

恋のキューピッドにそんな発言された日にはもう、どうすればわからないのだが。



「あ、あはは、そうかな」



悪い気がしないのか、嬉しい様子見せるユウガに軽く殺意を覚える。

男の嫉妬など醜いだけだから、あまり深く考えないが。



「ふむ、そこの君」



「俺か」



いきなり、恋のキューピッドから指名された。



「彼は君の目から見たらどんな人間かな」



「人の話を聞かない、自己主張の強いハーレム勇者」



「ちょっと、ヨウキくん、酷くない!?」



「うるせー、本当のことだろ」



俺は思ったことをそのまま言っただけだ。

ユウガならへこまないだろうし、恋のキューピッドには真実を伝えないとな。



「ほほう、そうなのか」


「納得しないでくれないかな……」



ユウガが恋のキューピッドの反応にがっかり気味。

自分を偽ったら正しい結果が出ないというのに。


「いや、失礼……結論を言うと、君に一人の女性を愛することは難しいかもしれない」



「はっ、えっ。今の会話でどうしてそんなことに」



「あー、なんというか、どんまい」



狼狽えるユウガを見ていられなくなり、励ましの言葉と共に肩を叩く。



「彼の人の話を聞かない、自己主張の強いハーレム勇者という言葉でほぼ決まったかな」



「ヨウキくん!!」



服の襟を掴まれ、乱暴に揺さぶられる。

頭が揺れるから止めて欲しい。

つーか、事実を述べただけだ、俺は悪くない。



「とにかく、詳しい話を聞こうぜ」



「ううぅうぅぅぅ〜」



「意味のわからないうなり声をあげんな」



勇者ならちゃんと現実を直視しろ。



「説明すると、どうやら君はルックスだけでなく、勇者という肩書きを持っているみたいだからね。純粋な戦闘力もありそうだ。ルックス、肩書き、強さと揃っていたら、女性も放ってはおかないね」



「まあ、例外もいるぞ」


「それはそうだよ。女性が男性のどこを好きになるかなんて、わからないのだから。ただ彼には一般的に女性が好きになる項目が揃っているのさ」


なんか、理屈っぽく考えると嫌だな。

世の中の大半がそうなのかと思ってしまう。



「あくまでも私の考えだからね。だが、彼は自己主張が強く、人の話を聞かないときた。おそらくだけど、好きだという感情が芽生えている女性には空回りしていないかい」



「正解だろ」


セシリアにセンスのないアクセサリー選んでたし。



「そんな、ことって」



「好きな人がいるのにハーレム。優しさからか、君は向けられている好意を無下に出来ない。もしかしたら、空回りの末に君は本当に愛すべき人を見失っているのかもしれないな」



ワイングラスを置く音が部屋に響いた。

グラスの中のワインは空だ。



「さて、ワインもなくなったし。君への恋愛相談は終了だね」



「救済なしかよ」



いくらなんでも可哀想な気がしないでもない。

最終的に意味深な感じで終わったぞ。



「ああ、そうだったね。……本当に好きな人がいるなら、覚悟することだね。君の選択によって、幸せになる子もいれば、悲しむ子もいるのだから。だけど、焦るのだけは止めて置いた方が良い。あと、前だけじゃなく、周りも見ることだ。……いや、君の場合は後ろかもしれないな」


確かにこいつの場合、現在の回りを見るより、過去を振り返った方が良いかもしれん。

前ばっか向いていて、見落としまくった物があるだろ、見つけろ。



「よし、じゃあ、次は俺だな。そうだよな」



ユウガは結果がショックだったのか、我ここにあらず。

聞くなら今、ちゃかしの入らない今だ。



「よし、恋愛相談を始めよう。質問だ、君は好きな人がいるね。その子とは今後、どうなりたいと思ってる?」



「今後、どうなるかって、それはもちろん……」


自分の気持ちを伝えて、付き合いたい。

それが答えだ、だけど、何故か口に出すのを躊躇ってしまう。



「もし、駄目だったらとかネガティブなことを考えていないかい。失敗したら、気まずくなって、会えなくなるとか」



「ああ……そうか」



心の中ではそんな弱音があるんだ。

だから、口に出すのを躊躇ったのか。



「君、今のままが楽しいと思っていないかい」



「えっ……」



「君、彼に対して憎まれ口をたたいていたけど、私の言葉を聞いて落ち込んでいる彼を少し心配していただろう。性分なのかな」



自分のことを観察され、分析されるというのは案外、恥ずかしい。

恋のキューピッドだけあるな、観察眼ありすぎだろ。



「まあ、そんなところかな」



「でも、君、彼と違ってモテそうなオーラは無いね」



「はっきり言うな!」



俺だって女性から黄色い声援くらい……前世から、今まで遡ったが記憶にないな。



「だけど、仲間や友人からの信頼は厚いだろう。君が繋がりを大事にしているからだろうね」



「厚いのか……?」



俺を三人で協力しておちょくってくる元部下三人が目に浮かぶ。

……うん、信頼されている証拠だな。



「何を想像したのか知らないが。……顔が白いぞ。いいか、続けるぞ。そんな繋がりを大切にする君が、好きになった女性だ。一緒に過ごせる空間をさぞ、大切にするだろうね」



「実際にしているし」



セシリアの淹れてくれた紅茶を飲みながら、談笑するのが一番癒される。最近はこの時間が永遠に続いてくれないかと考えるくらいだ。



「それだよ。君は繋がりを大切にするあまり、行動を起こして彼女との関係が変わることを恐れているんだ」



「は!?」



「告白するのに、何かしら理由をつけて先伸ばしにしていないかい」



「……」



確かにAランクになったら告白すると決めていた。

考えてみたら、そろそろBランクからAランクに上がれるかもしれない。黒雷の魔剣士としてAランク任務も何度か経験した。

クレイマンもそろそろ良いって言ってくれるだろう。



「私から言えることは一つ。好きな子がいつまでも君を待ってくれるとは思わないことだ。君の好きな子を想っているのは君だけじゃないかもしれないよ」




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