勇者と廃城に行ってみた
「何故、お前がこんな所にいる」
魔王を倒し世界を救った勇者にお前呼ばわりの対応。
内心、かなり焦っているのだ。
どうして、こんなミネルバから離れた町にユウガがいるのか。
よりによって今、一番会いたくないやつだ。
……いや、出来ればいつも遭遇したくはないが。
「そういうヨウキくんこそ」
「俺は、まああれだよ。……観光?」
まさか、セシリアとの恋愛がうまくいってなくて、都市伝説の恋のキューピッドを頼るために来たなど言えない。
「へえ、そうなんだ。依頼じゃないんだね。僕は友人から手紙が届いてね。困っているから助けて欲しいって」
「友人からの頼み事ってやつか」
ユウガも外交やらなんやらと忙しいはずだが。
友人のために長めの休みを取って来たのだろう。……その辺はさすが勇者と言うべきか。
「うん、そうなんだ。……友人の話によるとここ、ブライリングには近くに廃城があるらしくてね。そこには吸血鬼が住んでいるみたいなんだ。友人の彼女たちが被害を受けたらしくて、僕に退治をお願いしたいと」
「へぇ、吸血鬼ねぇ」
俺もまだ実際に会ったことのない魔物だ。
人魚もそうだが、魔王城にはいたはずなのに会ったことがない魔物多いんだよな、俺。
「放っておいたら被害は拡大するかもしれないからね。勇者として見逃せないよ」
「ご苦労なことだな。まあ、頑張れよ」
適当にあしらって別れるのが賢明だ。
こいつといればいる程、面倒なことになる確率が上がる。
一緒にいるだけでもリスクが高いとか、すごいよな、勇者って。
「あ、待って。良かったら一緒に行かない」
「は、何で。俺が勇者様と。一緒に?」
嫌味も含めて勇者様と語気強めで言ってやった。 何故でこいつと一緒に町を歩かなければならんのだ。
「いや、だって。ヨウキくん、観光に来たんでしょ」
「そうだけど、何か問題あるか」
「観光がてらに廃城に行くのも良いじゃない」
「いや、俺は別の廃城に用があるんだよ」
吸血鬼の住み処になっている廃城になど用はない。
俺は恋のキューピッド伝説がある廃城に用があるのだ。
「え、僕は昨日、ブライリングに着いたんだけど。情報収集した限りじゃブライリングの近くには僕が行こうとしている廃城以外、この近辺にはないよ」
「はっ!? ない……だって」
ちょっと待て、あの老夫婦嘘を……つくわけないな。
一緒にいた期間は短かったが、嘘をつくような人たちには見えなかった。
まさか、俺が行こうとしている廃城に吸血鬼が住み着いたのか。
「もしかして、僕たち目的地が一緒なんじゃないかな。ヨウキくんの勘違いでさ」
「いやいや、待て。俺の話を聞……」
「じゃあ、行こっか」
「行こっかじゃねぇよ。手を離せ!」
仲良くお手て繋ぐとか嫌だ。
まあ、そんな俺の思いもお構い無しなのがユウガ。
俺は引きずられるようにして、二人で廃城に向かうことになった。
「着いたね。いかにもって雰囲気が出てる。これは確実にいるね」
真剣な眼差しで廃城を見上げるユウガ。
腰に差した剣を握り、今から戦闘に行きます的なオーラを出している。
絵になるなあと思うのはこいつがイケメンで勇者だからだろう。
決して、ひがんではいない。
「雰囲気はあるけど、廃城にしては妙だな」
荒れ果てていない……と言ったら嘘になるが。
門の奥に見える庭園は雑草が縦横無尽に生えているわけでもなく、管理が行き届いている感じだ。
城内へ通じている扉にしても普通に綺麗だし。
「吸血鬼って綺麗好きなのか?」
「さあ、僕はそんな話聞いたことないけど。でも、例え城を綺麗にしていようとも、人を襲っているなんて許さないよ」
かっこいい、さすが勇者様……とか女性がいたら言ってるだろうな。
俺が、ふははは、この俺に会ったのが運の尽きだ、安らかに眠るが良いとか言ったら引かれるのに。
「どうしたのヨウキくん。まだ、どこかに違和感を感じる?」
「いや、世の中って平等に出来てないよなーっていう理不尽な不満をどうやって払拭しようかと」
「理不尽……そうだね。だから、傷つき、悲しみ、苦しむことは無くならないのかもしれない。でも、無くすことは出来なくても、せめて、目の前にいる人たちぐらいは救いたい……」
「お前、誰だよ!」
恥ずかしげもなく、何様だこいつは。
デュークやセシリアならさらっと受け流してくれるのに。
「え、ユウガだけど。ヨウキくん、僕の名前知っているよね」
「そういう意味できいたんじゃねぇ! ああー、もういいわ。入るならさっさと中に入るぞ」
俺はここにいるであろう恋のキューピッド。
ユウガは迷惑をかけている吸血鬼が目当てだ。
中に入って途中で理由つけて別れれば良いだろ。
「よし、頑張ろうね」
「頑張るのはお前だけだ」
「えっ、ヨウキくん手伝ってくれないの?」
「なんで、俺が手伝うんだよ」
俺は観光に来たって言ったろうに。
ユウガ宛で友人からの依頼なのだから一人で片をつけろという話だ。
「ここは乗り掛かった船っていうことでさ」
「いや、その船どこに向かうかわかんねぇから遠慮するわ」
舵を取っているのがトラブルメーカーだぞ。
誰がそんな船に乗るというのか。
「よし、じゃあ行こうか」
「少しは人の話を聞けよ! ……って、もういいや、だるい」
ここで話していても、延々と漫才をするはめになりそうだ。
結局、俺が根負けする形になり、二人で廃城に入る。
「城内も綺麗に掃除されてんな。こんなに広いのに……」
セシリアの屋敷より広いはずなのだが。
廊下においてあるツボなどの調度品に埃が被っておらず。
床も毎日掃除しているのかと思うぐらい綺麗だ。
「これは……」
「どうした、何か気づいたのか?」
「感じるよ、敵は一番上の階にいる」
「だいたいそうだろ!」
こういう城とかはボスは一番上の階にいるって決まってんだよ。
何か気づいたのかという俺の期待を返せ。
「でも、変だよ。こんなに広いのに敵は上の階だけにいるなんてさ」
「そうだな。これだけ、広い城を綺麗に維持するなら、住んでいる人数も多いはずだが」
ユウガにばれないようにこっそりと嗅覚強化をして調べる。
吸血鬼がいる城にしてはそこまで血の臭いはしない。
つーか、上の階に誰かいるみたいだけど。
俺の感覚だと一人しかいないっぽいぞ、どうなってんだ。
ユウガに言うわけにもいかないので、一人で悶々と悩む。
どこかに隠れている可能性もあるが、俺の察知を出し抜けるだろうか。
普段はここで生活しているけど、今は出払っているという可能性もあるな。
「どうしたの、何だかすごく難しそうな顔をしているけど」
「安心しろ、大したことじゃないから」
ユウガを華麗にスルーし、思考を働かせるもわからず。
何とも遭遇しないまま、廃城の最上階まで到達した。
「この部屋だね。中に誰かいるよ」
「そうだな」
俺からしてみたら、誰かいることはわかっているネタバレ状態なので特別身構えるようなことはしない。
奇襲にも対応出来るだろうし。
ユウガも準備は不要のようだったので、静かに部屋に通じる扉を開けた。
「やあ、よく来たね。迷える少年たち。歓迎するよ」
中には豪華なソファーに足を組んで座っている男がいた。
「君を倒しにきたんだ。この町を困らせている……吸血鬼!」
腰に差していた剣を抜き、男に向けるユウガ。
よく見たら、懐かしの聖剣だった。
「おっとっと。いきなり野蛮な挨拶だね。何を根拠に私が吸血鬼なんだい?」
「とぼけるな。町の女性たちに被害を与えているのは知っているぞ」
「あはははっ。私が町の女性に被害? そんなことしていないさ」
「なんだって……?」
「私は恋に悩む者たちの味方をしているだけさ」
「何!?」
こいつが俺の探していた恋のキューピッドなのか。
こんなワイングラス片手に、ちょいちょい無駄に指を鳴らしたり、髪をかきあげる仕草を見せるナルシストが。
「どうしたのヨウキくん。急に大声を出して」
「いや、別に何でも」
「はいはい。まあ、誰に私が吸血鬼なんて吹き込まれたか知らないけれど。とりあえず、座らないかい」
男は手を叩いてこの場を納めようとしている。
この男が吸血鬼だという具体性のある証拠は今はない。
それに、こいつが俺の求めていた恋のキューピッドなら……。
「よし、座るぞユウガ」
「え、なんでさ、ヨウキくん。敵は目の前にいるのに」
「待てって、こいつが吸血鬼なんて証拠はどこにもない。だけど、吸血鬼じゃないっていう証拠もないんだ。ここはこいつの話に乗ってみよう」
「う、うーん……でも」
「判断を誤って一般人を攻撃なんてしたら、ミカナとセシリア、レイヴンと勇者パーティーの面々から説教をくらうぞ」
「うっ!」
ユウガの表情が途端に曇る。
三人がかりの説教を想像したのか。
セシリア、ミカナ、レイヴン仁王立ちの前に正座するユウガっていう場面も見てみたいけどな。
説得に成功したので、俺とユウガは男と向かい合うようにソファーに座った。
「よし、じゃあ始めようか」
「……何をする気だ」
警戒心ばりばりなユウガ、実は剣を収めていなかったりする。
抜き身の聖剣とか危ないから止めて欲しい。
「勿論、君たちの恋愛相談だよ」




