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伝説に頼ってみた

予定していた更新日から大分遅れました、すみません。

寂しい一人暮らしにようやく慣れてきたこの頃。 俺は以前、仲良くなった恋人に振られた優男と話していた。



「僕はね、そろそろ独り身を卒業したいと思っているんだ」



「へー、で?」



あまり興味がないので話半分にしか聞いていない。

ギルドにいたら声をかけられたので、仕方なく付き合ってやっている感じだ。

……別に人が恋しいとかそんなんじゃないぞ。


「噂ではブライリングという町の近くに古い城があるらしくてね。そこには恋のキューピッドがいるらしい」



「なんだその乙女チックな噂」



思わず反応してしまったじゃないか。

この世界にそんな恋愛向けの都市伝説があったとはな。

まあ、異世界だし何でもありっちゃありか。



「興味深いだろう? どうやら、そのキューピッドに恋愛相談してもらったら、想い人と上手くいくらしいんだ」



「まじか、恋愛相談してもらうだけだろ。……怪しくないか、そのキューピッド」



「そう思うだろ。調べてみたら、そのキューピッドの話、ここ最近の物じゃないんだ。どうやら、二百年前くらいから、その地域で伝わっている噂らしい」



「二百年て、まじかよ」


ガチの都市伝説じゃないだろうか。



「実際に恋のキューピッドがいるのかはわからない。だけど、行ってみる価値はあると思わないかい」



「まあ、遊び半分の気持ちでなら」



実際にいなくても観光だと思えば良いし。



「そうか。君ならそう言ってくれると思っていたよ。僕はちょっと用事があるから行けないけどさ。もし、キューピッドが実在していたら……吉報を待っているよ」



「は!? おい……」



俺の制止も聞かず、優男は去っていった。

あいつ、まずは俺で試そうっていう考えじゃないか。

一人になってしまったな。



「キューピッドか」



顎に手を当てて俺は最近の出来事を思い返してみた。

ガイは依頼を受けて順調に金を稼いでいる。

ティールちゃんもガイが泊まっている宿に通っていて、ラブラブイチャイチャしているらしい。



レイヴンはハピネスと三人で依頼に行って、色々とあったみたいだし。

あれからレイヴンに会ってないけど、前進はしていると言ってもいいだろう。



そんな中、俺は何かあったというか。

平常運転でセシリアとわいわい話していただけ。


何度も変化を求めて試行錯誤してきたはずなのだが。



「もしかして、俺がセシリアと一歩踏みいった関係になることを拒んでいるのか?」



何かと理由をつけて一定の距離を空けていたりするような気もする。

緊張したら厨二スイッチを入れたりとかもしばしば。



俺はセシリアが好きだ。 今さら確認するようなことではないけど。



「恋のキューピッド、信じてみるか」


都市伝説だろうが何でも良い。

俺の中でふんぎりをつけるきっかけになるかもしれないしな。



もう一人になってしまった部屋で、俺は恋のキューピッドの話を信じてみることに決めた。



翌日、俺は一人乗り合い馬車の中揺られていた。 こういった遠出の時はいつも誰かいたのだが、今回は一人。



周りを見ると老夫婦や冒険者たちが座っている。 完全に一人というのはこの馬車では俺だけのようだ。



優男から聞いた話によると、恋のキューピッド伝説がある町は結構遠い。 馬車で四日はかかると聞いた。

気ままな一人旅を楽しむのも悪くない。



「お兄さん、お一人なのかしら」



「ええ、まあ、そうです」



「ほほぉ、冒険者に見えるが、依頼を一人で受けたのかね」



「いえ、ちょっと一人旅をしようかと思いまして」



馬車の中で景色を見ていると老夫婦に話しかけられる。

暇だったし、こういう交流は乗り合い馬車の醍醐味だろう。



「私たちはひさしぶりに里帰りをしようと思ってねぇ」



「へー、そうなんですか」



「ああ。私たちが生まれ育って、恋を育んだ思い入れのある土地さ」



「もう、あなたったら」


老夫婦のちょっとしたいちゃつきが始まった。

年を取ってもこんな風に仲良く出来るのか。



「ほっほっほ。君はどこまで行くのかね」



「俺はブライリングっていう町に……観光で」



恋のキューピッド伝説目当てですとは伏せる。

自ら、恋愛成就のために伝説頼って遠出しますなんて言えない。



「あら、ブライリングは私たちの故郷よ」



「ほっほっほ。どうやら、馬車の旅が終わるまでご一緒のようじゃのう」


優しげに笑いあう老夫婦。

たまたま話しあった人と実は行き先が同じだったっていうのも、また、乗り合い馬車の醍醐味……。



「もしかしてあなた、ブライリングの恋愛成就の伝説が目当て?」



「ぶふっ!?」



地元出身なら地元の伝説を知っているのは当然か。

しかし、この婦人の口から恋愛成就の伝説が出てくるとはな。



しかも目当てなのは間違いないし、動揺して噴いてしまった。


「君くらいの年なら好いている女性の一人や二人はいるからのぅ。わしもそうじゃったし」



「あら、一人じゃないのね。私、ちょっと寂しいわ」



「何を言っておるんじゃ。わしは今も昔もオリエ一筋じゃよ」



「あら、そうなの。素直に嬉しいわ、グラム」



老夫婦のイチャイチャがすごい。

もしかしてこれも、ブライリングの伝説の成すものなのだろうか。



「その、お二人もブライリングの恋愛成就の伝説を利用したんですか」



「ほっほっほ。伝説のおかげでわしらの仲が良いと?」



「いえ、そういう訳では……気を悪くしたならすみません」



「いいのよ。気にしないでちょうだい。伝説のおかげって訳ではないけど……私たちが付き合うきっかけにはなったわよ。ねぇ、グラム」



「そうじゃな。あの頃、わしはオリエに告白する勇気なんぞ、まったくなかったからの」



「あら、その言い方も寂しいわねぇ」



「仕方ないじゃろう。わしは農家の生まれで三男坊。オリエはブライリングで五本の指には入る商家の一人娘。釣り合いがとれてないのは明らかじゃ」



「私は店番をしている時、毎日様子を見に来てくれるグラムのこと、嫌いじゃなかったのよ」



老夫婦が結ばれるまでの壮大なストーリーを語り始めた。

ブライリングの伝説から完全に脱線しているな。

まあ、さっき恋愛成就の伝説って言葉にがっつり食いついたせいで、俺に好きな子がいるかって話になりそうだったしな。


こうやって長い年月、苦楽を共にしたであろう老夫婦の話を聞くのも悪くないし。



「旅は長いですし、よけれは思い出話を聞かせてもらっても良いですか?」


「そうかね。それじゃあ、私たちの甘酸っぱい青春時代の話をしようかねぇ」



「オリエとわしが付き合うまでの話からしようか。……年寄りの話は長いからの、途中下車は許可するぞぅ」



「ふっ、安心してくれ。俺は人と話し慣れているし、恋愛話も嫌いじゃない。何より……俺から言い出したことで根をあげるなんて、カッコ悪いからな!」



老夫婦相手にいつものポーズを決める。

先程の青年はどこへやらといった感じで、呆然とする二人。

しまった、つい癖で厨二が出てしまった。



これは完全に引いてるパターンだろう。

はてさて、どうしたものか。



「君、面白いわねぇ。今の若い子で流行っているのかい」



「わしが若かった頃にはなかったが。……時代を感じるのぅ」



なんか変な方向に勘違いされてしまった。

変人と思われるよりましなので、好きに納得してもらうか。



老夫婦のおかげで乗り合い馬車の旅は、暇をもて余すことなく終えた。



「じゃあねぇ、ヨウキくん。道中、とても楽しかったわ」



「俺も楽しかったです。色々な思い出話を聞かせて頂いて」



恋愛は甘いばかりではないということを、老夫婦の思い出話を聞いて学べた。

本当に恋愛とは奥が深い。



両親の説得、幼なじみからの恋慕、格差問題、恋敵による二人の仲を引き裂こうとする陰謀等々。


俺がセシリアと付き合えても、様々な困難が襲い掛かってくるということも視野に入れねば。



「滞在中、時間があったら顔を見せてくれると嬉しいのぅ」



「わかりました。用事が終われば、お伺いします。じゃあ、家までお気をつけて」



老夫婦に別れを告げ、ブライリングを探索する。 市場は活気があり、通り過ぎる人たちの表情も明るい。

農業が盛んなのか、新鮮な野菜を売っている店が多いな。



「そういえば、グラムさんも農家生まれだって言っていたっけ」



食い物に不便はしなさそうな感じだ。

観光もそこそこに、ぼちぼち恋のキューピッドとやらに会いに行くかな。


「確か、グラムさんとオリエさんの話だと町外れの廃城に住んでいるんだっけか」



恋のキューピッドならもっとメルヘンな場所にいると思っていたのだが。 俺が自分の想像していた場所と違うって言ったな。



そしたら、あれは完全に廃城じゃよ、と返された時には驚いた。

結ばれるきっかけを作りに行った場所を堂々と廃城って。



もっと思い出は美化されても良いと思う。

ま、どこに住んでいようが関係ないが。



「よし、行くぞ」



「やあ、奇遇だね」



「ああ、そうだな……って誰だ」



顔も見ないで返事をしてしまったので、振り向く。



「ヨウキくんは依頼で来たのかな」



そこには勇者、ユウガが爽やかな笑みを浮かべて立っていた。

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