少女に説明をしてみた
また、中途半端です。
ガイ、働きに出る編は次で終わります。
「あ、ティール……ちゃん?」
なんで鍵がかかっていたはずの俺が借りてる宿部屋にいるのか。
それと何故、目に光が灯っていないのか。
そして、部屋に散乱している大量の魔鉱石が詰まった袋はなんなのか。
「すみません、勝手にお邪魔して……」
「あ、はは。別に、良いけどさ」
「宿の主人の方に無理を言って入らせてもらったんです。いつも来ているし、顔を覚えてくれていたみたいで、すんなり通してくれました。優しいですよねぇ」
「そ、そうだね。ここの主人、優しいからな」
宿の主人はこの状態のティールちゃんに頼まれたのか。
普通なら、知り合いだからといって、簡単に部屋の鍵は開けない。
おそらく、ティールちゃんに押されて断れなかったのだろう。
「あれ、お嬢様ではないですか」
「ティ、ティールちゃん。その、身体は大丈夫ですか?」
「はい……大丈夫ですよ。元気です。あ、安心して下さい。屋敷の仕事もしっかりやっていますし、休暇も頂いてここにいるので。たまっていた休みを全部使ったんです」
そういえば、ティールちゃんてここに仕事終わりか、昼休憩の時にしか来てなかったな。
自分で希望する休みを取っていなかったのか。
……ガイのためにがっつり稼ぐためか。
「そ、そっか。それで……」
「聞きたいことがあるんです」
まるで何かのサスペンス。
ティールちゃんの声色に俺とセシリアは凍りついた。
何が聞きたいのか大体、察してはいる。
「な、何かな?」
「守り神様は………どこですか?」
冷えきった表情に光の灯っていない目。
そして、ティールちゃんから発せられているとは思えないくらい低く、ある意味感情の込もっていない声。
この状況に俺は震えている。
魔族の姿になれば勇者など簡単に倒せるこの俺がだ。
ティールちゃんにどう応えるべきか。
一度でも選択を間違えれば取り返しのつかないことになる。
ガイは働きに出たと言えば、ティールちゃんはどうでるか。
私の働きが足りなかったんですね、もっと働かないと守り神様のために、とか言いそうだ。
実は俺が追い出したと言って、ジョーク路線に持っていくという手も……駄目だ。
そんな手を使ったら、バッドエンドまっしぐら。
やはり本当のことを言うべきなのか。
「ティ、ティールちゃん、落ち着いて下さい。ガイさんはちゃんといますから」
「いる? どこにですか。この三日間、毎日通っていましたが守り神様が帰ってきた痕跡はありませんでした。書き置きもないです。何か言われてもいません。本当に突然いなくなったんです。お願いします、守り神様が何処にいるか知っているなら、教えて下さい!」
セシリアに対しても容赦なしで詰め寄るティールちゃん。
参ったな、どうしようこの状況。
考えてみたら、俺からガイを探すのって難しいんだよ。
身体が石だから嗅覚じゃ追えないし、聴覚だけじゃ周りの音もあるから、確実な場所はつかめない。
別れる時に何処にいくのか、帰ってくるのはいつかも聞いていないからな。
……いつ帰ってくるかわからないなんて言ったら、ティールちゃん探しに行きますって言いかねないぞ。
「くそっ。セシリア、ここは任せた!」
「えっ、ヨウキさん!?」
ここはセシリアに任せて、俺がなんとかガイを探す。
勝手に決めて、勢い良く飛び出そうとしたのだが。
「どこに行くんですか」
しかし、扉の前に立ち塞がるティールちゃん。
唯一の出入口を塞がれた今、俺とセシリアの退路は完全に断たれてしまった。
「ヨウキさん、本当のことを言いましょう。隠す必要もないかと」
「いや、待てセシリア。ティールちゃんに言うのはまずい」
「何がまずいのですか?」
小柄な少女のティールちゃんからは想像が出来ない程の威圧感を感じる。
「守り神様に何かしたんですか」
「落ち着け、ティールちゃん。何かしたとかじゃないよ」
「嘘です! お嬢様も三日間屋敷を空けていましたよね。ヨウキさんもこの三日間、一度も部屋に帰ってきてなかったです。二人で共謀して守り神様を……」
「待って! わかった、わかったから。本当のこと話すから落ち着いて」
俺だけでなく、セシリアまで疑い始めるとは。
ティールちゃん、なりふり構ってられない感じ。
ガイよ、お前はティールちゃんに何をしたんだ。 いままで聞いた話以外にも何かしているだろ。
俺は目の前のティールちゃんを見て、そう考えずにはいられなかった。
「……変装して働きに出た?」
「ああ、そうだよ」
「はい。私たちがガイさんを追い出したりとかはしていませんから、安心して下さい」
俺とセシリア二人がかりで、ガイが働きたいと言い出した所から、一人で頑張ると言い残し、去っていったところまで説明をした。
黒雷の魔剣士や慈愛の導き手については伏せたけどな。
「そんな、守り神様が危険を承知で外へ働きに出ていったなんて」
「まあ、ガイもいろいろと考えた上での行動だろうし」
決してヒモ状態が辛くなったからとは言えない。 言ったら、ガイに殺される。
「……わかりました」
「わかってもらえましたか。良かった、これで……」
「私もギルドに登録して守り神様と一緒に働きます!」
ティールちゃんの決意に固まる俺とセシリア。
まさか、その発想はなかったな。
「ティールちゃん、落ち着いて聞いてください。ギルドで仕事をするということは多少の危険が伴います。ティールちゃんの身体のことを考えると難しいかと」
「お嬢様、守り神様は今、まさに、その危険な状況にいるのかもしれないのですよ。私一人が呑気にしてられません。早くギルドに登録してこないと」
「いやいやいや……多分、というか無理だ」
希望を持たせるのは酷なのではっきり言おう。
ティールちゃんのギルド勤めは不可能だ。
身体は病弱、戦闘経験ゼロ。
俺がクレイマンに頼んだとしても止められる。
仕方がない、どうにもならない事実。
……だから、ぎろりと俺を睨まないでくれティールちゃん。
「私が病弱だからですか。魔法使えず、武器も振るえないからですか。だったら、シークくんに戦闘術を教えてもらいます。魔法も頑張って覚えますし、身体も鍛えて……」
「ティールちゃん!」
珍しくセシリアが声をあらげた。
びくっと震えたティールちゃんにセシリアは静かに首を横に振る。
「ガイさんはティールちゃんがそんなことをしても喜びませんよ。無理をしてティールちゃんが倒れたら、ガイさんはどう思うと思いますか」
諭すように、厳しい表情で語りかけるセシリア。 ティールちゃんは何も言えずに俯いている。
「ティールちゃんがガイさんを好きなように、ガイさんもティールちゃんのことが大切だと思っています」
「守り神様が私を……」
「今まで、ガイさんがティールちゃんを拒絶したことがありましたか?」
ガイがティールちゃんを拒絶したことなど、俺の記憶にはないな。
いつもなんだかんだで付き合っている感じだ。
「ない、です」
「ですよね。……ここ最近、ずっとティールちゃんは自分にできることを精一杯やっていましたね。ガイさんのために」
必死に働いて、魔鉱石を買い、重い袋を宿まで運んでガイに渡す。
やべぇ、ティールちゃんがやってきたことを順序だてすると、病弱なのにかなり頑張っているようにしか見えない。
「ううう……はぃ」
肯定したことが恥ずかしいのか、顔を真っ赤にしまた俯くティールちゃん。
……俺は完全に空気である。




