守り神を見送ってみた
予約投稿し忘れてました。
「黒雷の魔剣士は仲間を大切にする……礼など不要だ」
「そうですよ、ガイさん」
「……そうか」
なんか妙な空気になってしまったな
……元から異色な三人パーティーだから、変な空気は最初から出していたかもしれないが。
「今日はもう終わりであろう? 我輩はもう少し町を歩いてくるとしよう」
「ほう、ならばこの黒雷の魔剣士。とことんガイに付き合ってやろうではないか」
「私もお付き合いしますよ」
「いや、いい。一人で回らせてくれ」
「なに!?」
まさか断られるとは思わなかった。
今日一日だけで単独行動したいとか、早すぎるだろう。
「ガイさん、まだ一人で歩くのは危険かと……」
セシリアも賛成ではないらしい。
俺みたいに何が起ころうと逃げられる術を持っていればいいのだが。
巡回中の騎士たちに捕まったりするかもしれないし。
「確かにそうかもしれんが……いずれは一人で行動するようになるのだ。遅いか早いかの違い。それだけのこと。何より、我輩は黒士のように自分から目立つような行動はせんからな」
失礼な話だ、俺は目立つ行動などしていない。
ただ、俺が押さえきれずに溢れだしている廚二が人を引き付けているだけだ。
……セシリーの視線が痛いな。
ヘルメットを被っていても、俺の考えは筒抜けということか。
さすが、慈愛の導き手だ。
しかし、もう一人でミネルバを歩きたいとはな。
「うーむ……どうする、セシリー」
「ガイさんの意見にも一理ありますが」
「すまないが絶対に譲らんぞ。我輩にも我輩なりのプライドがある。急いでいるわけではない。ただ、今まで何もしていなかった分を取り戻すべく、効率よく動きたいと思っている」
どうやら決意は固いらしい。
まあ、ガイなら騎士団に遭遇しても上手く言い訳を考えられたり出来るだろうし。
「いざとなったら、黒雷の魔剣士の名前を使うが良い。仲間だと言えばどんな問題も解決だ!」
「余計に話がまとまらなくなりますよ。……ガイさん、対応に困ったらデュークさんを頼れば良いかと」
「うむ……わかった」
「くっ、デュークに負けた」
黒雷の魔剣士が一人の騎士に負けるとはな。
さすが、我が元しもべのデューク。
俺の中でいざとなったら呼ぼうランキング、ベストスリーに入る強者だ。
「勝ちも負けもありません。ほら、ガイさんが行ってしまいますよ」
「何!?」
我に返ると近くにガイの姿はなく、人混みの中へ消えようとしていた。
何も言わずに去るか。
それもまた格好良いかもしれない。
しかし、俺はそれを許さない。
「絶対に戻ってこい。だが、俺たちの隣に入れるくらいの強さを手にいれろ! 楽しみにしているぞ」
最後は格好よく決めるのが黒雷の魔剣士。
ガイは振り向かなかったが俺の声はしっかり聞こえていただろう。
次に会う時、ガイは以前と比べ物にならないくらいの力を手にいれているだろう。
「……ガイさんは別に長期間の旅に出た訳ではないはずですが」
「男が成長したいと言って、一人立ちしたのだ。これくらいの見送りはしないとな」
「かなり大げさだと思います。あと、悪目立ちしています」
いつのまにか、俺たちの回りには沢山のギャラリーが集まっていた。
俺の行動がやや目立ったらしい。
ガイが振り返らなかったのは、反応したら自分だと思われて、目立ちたくなかったからか。
「ふん。黒雷の魔剣士は忍ばない! ……だが、これでは身動きが取れないな。場所を変えるぞ」
「えっ!?」
セシリアを抱えて適当な建物の屋根まで跳躍。
本人の許可はもちろんとってない。
そのまま何度か屋根への跳躍を繰り返し、路地裏へ向かって下りると共に≪バニッシュウェイブ≫で透明化。
これで回りにいたギャラリーは俺たちを完全に見失っただろう。
あとは透明化の効果がきれる前に移動するだけだ。
「本当にもう……行動が突然すぎますよ」
「説明していたら、さらにギャラリーが増えるだろう」
さっさとあの場から離れるのがベストだ。
「……うーん。正論なので反論出来ません」
「ふっ、だろう!?」
黒雷の魔剣士はセシリアを凌駕する。
「わかりました。とにかく、魔法の効果がきれる前に移動しましょう」
「わかった」
とりあえず、先ほどのギャラリーから離れる形で移動した。
また、囲まれても同様の手口で逃走できるから忍ばなくても良い気がするが。
セシリアはそれをよしとしない。
目立ち過ぎは厳禁らしい。
「なあ、セシリーよ。もう充分に目立っているだろう。これは手遅れだ。いっそのこと、胸を張って堂々と往来の町中を疾走するというのは」
「駄目です。……歩かずになぜ、疾走したがるのですか」
「その方が格好良いだろう!」
黒雷の魔剣士の二つ名通り、黒い稲妻の如く、何処でも駆け抜ける。
それが……黒雷の魔剣士だ。
「……沢山の人々が行き交う場所では控えて下さい。衝突事故が起こりますよ」
「この俺がそんなミスをすると……?」
俺は自信満々でセシリアに告げる。
実際、衝突など起きるわけがない。
走っている時、俺は肉体だけでなく五感強化もしている。
突然人が出てきても、直ぐに方向転換し避けられるぞ。
「そうかもしれませんが、これだけは譲れません。迷惑行為は駄目です」
「ふむ……そこまで言われたら善処するしかないな。わかった、人が密集しているところでは、建物の上を飛び交うようにしよう」
「普通に歩いて下さい!」
「ツッコミは健在だな、セシリー」
漫才をしている内にギャラリーから離れることが出来たな。
そろそろ、≪バニッシュウェイブ≫も効果がきれるし、ちょうど良かった。
「よし、ギャラリーも撒いたしここで別れよう。もう日も暮れる」
「別れるって……魔剣士さん、今後の予定は?」
「もちろん、久々のAランク依頼に繰り出す予定だ。くっくっく……腕がなるぞ」
せっかくの黒雷の魔剣士だ。
ここで稼がない手はない。
このテンションのまま、依頼を受けるべきだろう。
例え、最後に悲劇が俺の身を襲うとしてもな。
「私も行きますよ」
「なぬ!?」
「久し振りに腕がなりますね」
セシリアらしからぬ発言が飛び出した。
しかし、着いていくとは全くの想定外だ。
「お、落ち着けセシリーよ。家は大丈夫なのか? 」
「はい。こんなこともあろうかと三日の外出許可をもらってます」
「め、目立つぞ。俺といるともの凄くだ。下手をしたら、変装がばれてパニックになる」
「わかりました。では、今日、行った教会へ向かいましょう。そこに行けば解決しますから」
相変わらずの有無を言わさぬセシリア。
まあ、どういうことか気になるし、了承する。
「ちょっと待っていてくださいね」
教会に着くなり、セシリアはそう言って中へと消えていった。
一体、何をしているのかと待つこと数十分。
「お待たせしました」
出てきたセシリアの姿に驚いた。
シスター服はどこへやら、どこぞの探検家が着るようなシャツにズボン。
簡素な胸当てをし、リュックを背負っている。
髪形は三編みにし、帽子を被り丸眼鏡。
普段のセシリアと全く違う雰囲気にビックリだ。
「どうですか? 杖代わりに魔法書を持ってきたので、戦闘力はさほど変わりませんよ」
「なるほど、武器も変えたわけか」
この準備を教会に集まった段階でやっていたとはな。
セシリアに俺の行動はすべて読まれていたというのか。




