守り神のギルド登録してみた
「ク、クレイマンさーん!」
慌てた様子で女性職員改め、シエラさんはギルドの奥へ消えた。
自分では対処出来ないと悟ったらしい。
ギルドが異様な雰囲気に包まれている中、シエラさんに引っ張られるように、クレイマンがやってきた。
「朝っぱらからなんだよ。俺にも準備や裏で作業があんだぞ」
「嘘つかないで下さい! 奥様の手作り弁当を見てにやけていただけじゃないですか」
あいつは何やってんだ。
昼まで待てよ、気が早すぎるだろ。
「でかい声で言うな! ……で、何があったのかって、お前か」
「ふっ、久しぶりだな」
ほぼ毎日のように会っているが、久しぶりに会ったかのように演じる。
黒雷の魔剣士はしばらく姿を表していなかったからな。
「……面倒だから、要件聞くぞ。どうした?」
何故、またこの格好をしているのか等の理由は聞かないらしい。
さすがクレイマン、話がわかるな。
「今日は我が友人のギルド登録をするために参上した」
「……後ろにいるやつのか?」
「その通りだ!」
「似た者同士、うまがあったんだな」
「そんなところだ」
クレイマンがガイを見て、呆れている。
俺の格好は黒雷の魔剣士装備。
厨二感が漂った全身黒衣装だ。
今回の主役のガイの外見。
まず、モコモコのスキーウェアのような服。
北国から来ている商人から買った。
雪山で暮らしている民族の方々が着ている物らしい。
上下セットで、首も完全に隠している。
手にも手袋をして、念のために服と手袋を紐で結んでいる。
顔にはあえて、鬼のマスクを被せてみた。
どこかの国の宗教が魔除けに使っているものらしい。
皮袋に鬼のリアルな顔を再現しているので、少々気持ち悪い。
本当に魔除けの効果なんて、あるのかと疑う。
足も長靴を履かせて、手袋と同様、紐で結んである。
全身コーティングしているので、岩っぽさは完全にない。
というわけで、ガイが魔物だと言われるようなことはない、正に完璧だ。
「ガイだ。すまないがギルド登録とやらを頼みたい」
「わかった。これに必要事項を書いてくれ」
「クレイマンさん!? いいんですか」
あまりにあっさりと用紙を渡したためか、シエラさんが止めに入った。
別にガイの応答は紳士的で、特にあやしむところはなかったはずだが。
「ぬぅぅ、やはり、無理か?」
ガイが小声で弱音をはく。
安心しろ、この俺がついているぞ。
「ふむ、俺の友人に何か問題でもあっただろうか」
「あ、えっと……その」
「あー、まあ。全身モッコモコの顔にはマスクだろ。単純に怪しんでんだよ」
「クレイマンさん、はっきり言い過ぎです!」
「俺はお前が口に出すのをためらってたんで、面倒な時間が生まれそうだったから、代弁してやっただけだ」
半分嘘をついているな、クレイマンのやつ。
微妙ににやついているから、わかる。
弁当を見ていたことをばらした仕返しも含まれているな。
おそらくだけど……そんなんで仕返しするとかこどもかこいつは。
しかし、このままではガイの登録がスムーズに出来んな。
ここは予め考えていた作戦を実行しよう。
「すまないが、こいつにもこのような格好をしている理由がある。聞いてほしい」
ガイは雪国の山村に生まれた。
体が大きかったガイは村の近くで暴れる魔物を討伐し、村を守るヒーロー的な存在だった。
しかし、ある日、鬼のような顔の魔物と戦い、重症を受ける。
全身に傷を負ったガイはしばらく戦えなくなった。
戦えなくなったガイを村人たちは疎ましく思い始める。
体が大きく、食費のかかるガイ。
山村のため、蓄えている食料にも限りがある。
そんな中、いたたまれなくなったガイは故郷である山村を去った。
しかし、疎ましく思われたとはいえ、故郷を忘れないために雪国でしていた格好をすることを決意。
そして、自分を追い詰めた鬼のマスクをあえて被り、自分を鼓舞することにした。
「……以上が、こいつがこのような格好をしている理由だ」
気がつけば、ギルドにいた人たち全員がガイの過去話を聞き入っていた。
……全部、俺が考えたでたらめな過去話だけどな。
まあ、ある程度今のガイの現状を元にはしているけど。
ガイに説明した時は本当にその話をするのかと何度も聞かれた。
何を不安に感じているのか、わからんな。
「あー。とりあえず、必要事項書いてくれ。登録すっから。なんか、悪かったな」
「う、うむ。わかった」
すらすらと用紙に記入していくガイ。
やはり、作戦は成功だな。
「……あの〜」
「む、なんだ」
おそるおそるといった感じで、シエラさんが声をかけてきた。
「こちらの方がこういう格好をしていることは理解しました。……こんなこと聞くのも、失礼かもしれませんが、黒雷の魔剣士さんも何か理由があって、そういう格好を……?」
「愚問だな。理由などない。……あえて言うならば、黒雷の魔剣士だから、と言っておこう」
「は、はぁ……」
「おい、登録終わったぞ」
「そうか、すまんな。では、今日は失礼する」
「依頼は受けねーのか?」
「今日は登録だけだ。翌日にまた、顔を出す。行くぞ、ガイ。では、去らばだ」
俺はガイを引き連れてギルドをあとにした。
「クレイマンさん、世の中っていろいろな人がいらっしゃるんですね」
「あん? んなこと、生きてたらざらだぞ。ましてやギルドになんて、いろんな人種が集まるからな。覚えといた方が良いぞ」
「勉強になります……」
シエラさんとクレイマンの会話は常時、肉体強化している黒雷の魔剣士にばっちり聞こえていた。
「おい、小僧」
「我が名は黒雷の魔剣士……」
「長いわ! 我輩は省略して黒士と呼ばせてもらうぞ」
「ふっ、好きに呼ぶが良い」
「我輩、今、とてつもなく面倒だ」
クレイマンのが移ってしまったのか。
あの短時間で移るとは、クレイマンすごいな。
「ガイ。お前はギルドランクがまだ、低い。早く上がるぞ」
「……そのことなのだが、黒士。我輩はどうやって戦えば良い?」
「……何?」
「我輩の戦闘スタイルは上空からの闇属性魔法による攻撃が主流だ。人間は確か、闇属性の魔法は使えなかったのではなかったか」
闇属性魔法は魔物、魔族が使う魔法。
研究はされているらしいけど、人には使えないことは証明されている。
エルフや獣人も使えなかったはずだが。
そんな闇属性魔法を乱射したら、確実に魔物だとばれる。
「ガイ……他に使えそうな魔法は?」
「我輩、闇属性しか使えんぞ」
今日はガイに合いそうな武器を買って明日、討伐系の依頼を受けようと思っていたが、まさかの挫折。
「緊急会議だ。この程度の問題、すぐにけりをつけるぞ!」
「全く、この程度ではないと思うのだがな」
ガイのツッコミを無視し、歩きながら相談することにした。
「武器で解決するぞ。ガイ使える武器は?」
「ない。近接格闘など出来んな。せいぜい、単純に殴りあうことぐらいなら出来るが」
「却下だ!」
拳のみなど、ガイが這い上がれるわけがない。
モッコモコな服装で近接格闘なんて、聞いたことがないぞ。
「こうなったら、魔法を覚えるぞ。火あたりならいけるだろ」
「習得するまで、我輩はどうするのだ。我輩は今すぐに現状から脱却をしたいのだぞ」
「……そうだったな」
ヒモからの卒業がガイの目的だった。
悠長に魔法を覚えている暇などないか。
「我輩でも使える武器はないだろうか」
「ふむ。こういうことは専門家に相談すべきだな。行くぞ!」
武器屋に行き、店主に相談することにした。
ガイはパワフルな外見なので、大型の武器が良いとは思うが。
武器屋に着くと、店員、客たち全員からの注目を集めた。
やはり俺は目立ってしまうらしいな。
「黒士、完全に悪目立ちしているぞ」
「他人の視線など捨て置け。店主、すまないが彼に合いそうな武器はないか?」
視線を無視して、カウンターに直行。
親父顔な店主におすすめの武器がないか尋ねる。
「お、おう。そいつは初心者なのか? 普通ならショートソードを勧めたいところなんだが……体格を考えると、大剣か、ハンマー、メイス辺りが良いと思うぜ」
「どうする?」
「うむ。ハンマーにしようか。力ならある」
料金は俺がガイヘのヒモ脱却祝いということで貸しにはしない。
鬼に金棒ならぬ、鬼にハンマーである。
「装備も決まったな。これで明日から依頼に行ける。いいか、ガイ。黒雷の魔剣士のパートナーとして、実力を発揮してもらうぞ!」
「我輩はティールのために稼ぐだけだ」
「愛する者を守るため、そういうことか。気に入った。黒雷の魔剣士、持てる力を全て出しきって協力するぞ」
「おい、愛するとはなんだ」
「気にするな。……ちなみに今日は違う宿に泊まるぞ」
黒雷の魔剣士を一週間ほど続けてガイをサポートする。
一人で行動できるようになるまで心配だからな。
「わかった。……今日はこれから何をするのだ」
「ミネルバを案内するつもりだ。あと、ハプニングへの対処を考える」
万が一正体がばれそうになったら、どうするかとかについて議論する予定だ。
「ほう。では、案内を頼む」
「任せろ」
一日かけてミネルバを歩き回り、施設などの場所を見て回った俺たちであった。
……途中で騎士たち何人かに連行されそうになったがな。
ギルドカード見せたら、事なきを得た。
……まだまだいけるはずですね(厨二が)




