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19.麗良の本心

ここまでお付き合いいただきありがとうございます。


今回は以前イベントで登場したあの場所へ麗良が再度訪れるお話です。(5〜6話に登場しております)


 麗良は王都のとある場所で周りを見回し、探しものをしていた。

 看板の影、積まれた木箱の中、草を分け、水瓶の蓋まで開け始めたところで頭上から鳴き声が聞こえてきた。


(ニャニャーーン)

ーそんなとこにいるわけないだろーがー


「あっいた!チビ助!あなたまたそんな高い所に!ちょっと待って今助けてあげるわ」


 麗良がキョロキョロと足場を探していると、さっきまで頭上にいた小さな黒猫が足元に擦り寄ってきていた。


「あら?あなた自分で降りれたの?おいで、どれどれどこも怪我していないでしょうね?」

 

 麗良は子猫を抱き上げ小さな頭を撫でながら手足を確認する。子猫も嫌がらずゴロゴロと喉を鳴らしご満悦のようだ。そして、店に行きたいから案内をお願い出来ないかと頼んでみると、子猫はまるでその言葉を理解したかのように狭い路地の前で麗良を振り返り鳴き声をあげた。


(ニャン!ニャン)

ーこっちだついてこいー


 先導するべく路地を進んでいく子猫の後を追いかける麗良。老婆と歩いた時とは別の高揚感を感じながら、小さな子猫を見失わないように注意するが、建ち並ぶ建物も気になるのだ。狭い一本の路地だったはずが進んだ先は複雑に入り組み、所狭しと怪しげな看板や店が続いている。営業中かどうかも分からないが窓から中を覗くと、見た事もない形をしたオブジェが棚に並び、またある店は大きな秤のような機械の横に砂や石が桶に入れられていたりと、不思議なものばかりで興味を惹かれる。


(ニャウニャウゥン)

ーおい、おいてくぞ!ー


「ごめんなさい!すぐ行くわ。この前お婆さんが言っていたものね運が良ければって。確かに一人では迷って辿り着ける気がしないからあなたのおかげね、ありがとう」


 麗良は子猫と会話が成立しているかの様に感じながら先を進み、今回もすぐとは言えない距離を進んだ先にお目当ての老婆の店が現れた。

 店内に入ると老婆が笑顔でカウンターに座り、以前リクエストしたお茶まで淹れて出迎えてくれた。


「こんにちはお嬢ちゃん久しぶりだねぃ、この店に何か用かい?」


「こんにちは店主様、以前は素敵なプレゼントをありがとうございました。今日はこの日記帳について聞きたい事があり伺ったのですが、お時間を頂いても?」


 麗良がカウンターに日記帳を取り出し単刀直入に願い出た。すると老婆は「暇してるからいくらでも」と笑顔で答える。麗良は出されていたお茶の味に緊張がほぐれたのか、日記帳を使い始めて特にここ最近不思議に思っている事を老婆に打ち明け始めた。


「あの……ですね、日記に書いた事が現実になるのです。最初は気にも止めていなかったから気付かずにいて……。でも最近あまりにもその様な事が重なるのでもしかしたらと思ったの。先日も仲違いをしていた方達と急に和解でき、その事自体は喜ばしい事なのだけれど、あまりにも自分の望み通りに願いが叶い続けるので流石に不審にと言いうか、不思議に思い原因を考えた時にこの日記帳に思い至ったの……」


 膝の上の子猫を撫でながら、願いが叶ったと言いつつ何故か表情を曇らせる麗良。それを見た老婆は、優しい口調で語りかける。


「お嬢ちゃんはその日記帳で他人の不幸でも願って怖くなっちまったのかい?望みが叶うならいい事じゃないか、それなのに何故そんな不幸そうな顔をしてるのさ」


「もし……この日記に不思議な力があったとして、そのおかげで私の願望が叶っているとしたら……。いえ、勿論他人様の不幸や悪口を書き込んだわけではないのよ?それにおかしな事を言っている自覚はあるのだけれど……」


「けどなんだい?」と、老婆に言い淀んだその先を求められた麗良は先を続けた。


「黒猫と仲良しのお婆さんが実は魔法が使える魔法使いで、私の幸運はそのおかげでした。と言われた方が納得がいくもの、そうでないと説明がつかないほど物事が良い方に進みすぎていて私怖いの。そして不思議な力で手に入れたこの幸せは、何かの拍子に一瞬で消え去ってしまうんじゃないかって……」


「なんとまぁ、キヒヒ…あんた面白い事を言うじゃないか。何故そう思ったのかは置いておいて……どれ、ワシの手を握ってごらん」


 老婆に手を握る様に言われた麗良は、目の前に差し出された皺くちゃで節くれだち歪んだ指をした老婆の手を躊躇いなく握り、更にもう片方の手も添えて優しくその手を包み込んだ。

 老婆は思わず「いい子だ」と呟きもう片方の手で麗良の頭を撫で、自分の手を包む麗良の手へ安心させる様にポンポンと合図を送り視線を合わせる。


「お嬢ちゃんが何をどんな風に書いたかワシには分からんが、何事も正しさを貫くには勇気が必要だ。だがあんたはそれをちゃんと持っている、目の前の困っている人間や動物を助ける事を当たり前と考え、実際に手を差し伸べる勇気。そして物事を見た目で判断しない曇りなき眼と、きちんと礼が言える思いやりの心も素晴らしいもんだ。だから何も怖がる事はないよ、あんたの優しさと頑張りが今の幸せに繋がったんだ」


「おばあちゃん……」


 麗良は本当の祖母の事を思い出し郷愁に駆られ、目に涙を浮かべてしまった。

 その事を察知したのか膝の上の子猫がカウンターに飛び乗り二人の繋がれた手に擦り寄る。

 

 この世界に迷い込んだ麗良は、それが当然であったかの様にその事を受け入れ、適応すべく努力したきた。己の僅かな行動理念と存在意義を示すためにもこれまで前向きに弱音も吐かずにきたが、その()()が外れたかの様に涙が次から次に溢れ出し、麗良は老婆の手に縋る様に泣き出してしまったのであった……。



作者も未だにスーパーなどで祖母に雰囲気の似てる人を見かけると胸がキュゥとなります。

最近では祖母が使っていた強い訛りも方言も、耳にする事が減ってきておりとても寂しく感じる今日この頃です。


最終話まで後少しの予定ですので、最後までお付き合いいただけると嬉しいです。 雪原の白猫

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