17.カレンvs麗良
「カレン様は、ウィルト・ラムゼイ様の事を仰っているのですよね?」
この件についてどこか覚悟をしていた麗良。何故ならウィルトはただの転入生ではなかったからだ。
スラリとした体型に穏やかな笑顔の美しい顔、そして物腰柔らかく物静かで優しい人柄なのだから最近では女子生徒からの視線だけではなく、関心も集めていた。
「その通りよ!貴女と彼にどのような接点があるかは知りませんが、最近馴れ馴れしいのではなくて?」
カレンがそう言うと続いて取り巻き隊からも、婚約者でもないのに図々しい上に勘違いで目も当てられない、痛々しい。と散々な言われようだ......。
ウィルトについては、これまで謎に包まれていた情報が徐々に明らかになってきており、隣国の公爵家の四男ではあるが、あのブロワ家と縁戚関係でしかも転入理由がブロワ家を継ぐ為と本人が発しているのだから、四男であっても減点にさえならず、むしろ加点さえ入る好条件なのだ。
「侯爵家のわたくしでさえ交流がないのに、なぜ下位貴族である貴女などを懇意にするのかしら?たとえあの方達が貴女に何かしらの関心を持ったとしても、貴女はそれを辞退すべきなのです!」
麗良が、そうですよね、仰りたい事はよくわかりますが下位貴族だからと辞退すべきでも、だからこそ辞退出来ない場合もあるのです。と心の中で弁明していると、
「オルダー嬢、すみませんがそこまでにしてもらえますか?私達の関係に貴女は関係無いのだから、これ以上部外者である貴女が口を出すと言う……」
突如現れたウィルト、どこから聞いていてどこから来たのか、いきなり正論をぶつけようとしていたので麗良は慌ててそれを止めるように言葉を重ねた。
「カレン様、わたくし達はビジネスパートナーなのです。ブロワ様ともそこから親しくさせていただいております。カレン様も交流を持ちたいと仰るならば、素直にそう申されてみてはいかがですか?」
「わ、わたくしは別にそう望んでいるわけでは……」
助けに入ったつもりのウィルトは、麗良の発言に納得していなかったが、何か考えがあっての事だろうと口を閉じて見守った。
「ではカレン様は何を望まれているのですか?私の噂にしても、どのような意図があったのかお聞きしても?先ほどカレン様ご自身がお認めになりましたわよね?」
「何よ!.....。意図も何も貴女が周囲から嫌われて独り孤独になればいいいと思っただけよ。わたくし達から見放されたというのに許しを請うともせず、平気な顔をして学園に来ているし、高位の方達と交流してとても楽しそうに過ごしているだなんて許せないわ」
カレンの言い分を聞いた麗良は、なるほどと同意しつつ大きく頷いてカレンの心情を推し量った。プライドの高い彼女は少し灸を据えるぐらいの感覚で、泣いて縋れば許すつもりだったのかもしれない。当てが外れたと思ったのか、それとももしかしたら.....。
「カレン様、カレン様は私が謝らなかった事よりも、他の方達と仲良くなったのが許せなくて、孤立させようとしたのですよね?そうすれば孤独になった私が貴女の所に戻ると、そう思っていたのでしょうか?」
「そうよ!でも図太い貴女には全く効果が無かったようね?だからそれももうやめるわよ、それでいいでしょう!」
不貞腐れた態度でそう言い捨て、その場を去ろうとするカレンの腕を掴み引き留める麗良。
「ちょっと、貴女何を!」
「カレン様、お友達になりませんか?わたくしと」
「はぁ?!な、な、何を!貴女何を言っているのよ」
「これまでの事はお互い水に流して、一から友人としての関係を築きませんか?」
麗良の突然の申し出、これにはそう言われたカレンも、そばで聞いていた取り巻きもウィルトも驚いた。しかし麗良は気にせずに先を続ける。
「わたくしあの日カレン様達と決別した事は、全くこれっぽっちも後悔などしていなかったのですが、しかし友人は欲しいとずっと思っていたのです、それも本当の友人を。それこそ日記で毎日願いを書き残すほどにです」
麗良の申し出に思うところがあったのか、カレンは黙って頷いて麗良にその先を促した。
「わたくしも爵位の階級は認識しておりますが、そこに優劣をつけ、行動や思考までを強要するような関係ではなく、互いに信頼し感情を分かち合えるような友人が欲しいのです」
「貴女、何が言いたいの?」
「はい、つまりは……余計な事は考えず仲良くしましょう。という事です!一緒に勉強したり、出かけたり、悩み事を打ち明けたり相談したりと、そのような関係にカレン様達となれたらいいなぁと」
「む、無理よ。そのような関係!幼い子供ではないのだから」
嫌だと拒絶するのではなく、無理だと弱気になるカレン。まるでこちらを窺うようなそんな目で、どこかオドオドしているかに感じる。それはいつもの自信溢れるカレンとは別人のようで……。
その姿を見た麗良は確信したのだった……。




