16.煙立つ?ボヤのうちに消しましょう!何事も初動が大事です。
「きゅっ急に何を!…」
「君は、根も葉も…根拠すらもない話でレイラ嬢をイタズラに不安にさせる気だったのかい?しかも、最後は何を言う気だったのかな?」
「そっ…それは君には関係ないだろ!元婚約者を心配して何が悪い。そもそも君はレイラとどんな関係なんだ!」
「それこそ君には関係ない事だよ、それで?君が耳にした噂とは…オルダー侯爵令嬢に関する事かい?」
「あ、ああ…オルダー様がレイラに嫌がらせを受けているという噂だ。しかしレイラがそんな事をするとは思えなかったからオルダー様に直接聞いたんだ...」
「それで彼女はなんと?」
「オルダー様は...悲しげに話を濁された。しかし彼女の友人達は何か言いたげにしていたから、オルダー様はレイラを庇っていたのかもしれない。だから両者から話を聞こうと思って...」
「ふぅん、庇っていたねぇ...、奇遇だけど私の所にも直接忠告に来てくれたんだ。レイラ嬢と懇意にするのはやめた方がいいとね。わざわざ聞いてもいない事を名指しで忠告してくるなんて、彼女変わっているよね?カレン・オルダー侯爵令嬢だったかな?レイラ嬢と同じクラスの...」
「ああ、そうだ。オルダー様達はレイラの友人だから...少し仲違いをしたのかもしれない。誤解があったのならば解けるように、何か力になれればと思っただけで...」
「へえ...婚約中はないがしろにしてたのに?いまさら?」
「なっ!なぜよくも知らない君にそんな事を言われないといっ..けなくはないか、ああ...君の言う通り罪滅ぼしの気持ちがあったのかもしれない。しかし久し振りに言葉を交わしたレイラは…とても晴れやかな顔をしていたから...引きずっていたのは俺の方だけなのかもしれないな」
「ふふ、冷静に判断出来た君に一つ忠告をしてあげようか?まず…大前提として、彼女らは友人ではない、という事だ。むしろオルダー嬢はレイラ嬢を敵対視しているし、レイラ嬢もオルダー嬢達とは距離を取り続けており、自ら近付くはずはないんだよ。
そしてここからは疑問点なんだけど...では何故そんな噂が立ち、更に何故オルダー嬢は被害者のふりをしているのか?少し考えると分かるよね?」
「...........................なぜ、レイラを標的に?」
「さあ?私には彼女のような人間の思考は理解出来ないからね、でも今後のオルダー嬢がどう出るかだよ。もしもこれ以上レイラ嬢に執着するようなら、彼女にはしっかりと自分の立場を理解してもらう必要が出てくるけど...とにかくこの事はこちらでなんとかするから、君は今後もしまたオルダー嬢に何か言われても他人事でいてくれるかい?それとレイラ嬢の事はきちんとクロシタン嬢と呼んでもらいたい。たとえレイラ嬢が気にしていなくても、周囲が誤解するといけないからね!じゃあ頼んだよ?君とこうして話せてよかったよベイズ子爵令息、ではまた」
そう言って席を立ち行ってしまったウィルトだったが、残されたキリアンは「誤解されたくないのは周囲にではなく君なんだろう?」と、目の前からいなくなった相手に皮肉を呟き、かつての婚約者を守ろうとする男の登場に、安心と僅かな嫉妬を感じつつも己の引き際を決断したキリアンなのであった……。
そうして警戒していても、事件というものは起こるわけで…放課後学舎と離れた場所に連れてこらた麗良は、案の定カレン達三人に囲まれていた。
「貴女…いったい、どういう神経をしていますの!」
「カレン様?どうなさったのですか?何故わたくしをこの様な場所に?わたくしはまだ投書箱へは訴えておりませんよ?」
「その事は関係無くてよ!貴女ご自分に関する噂が気にならないの?ほんっとうに図太いのね!」
「噂…というと、カレン様に注意を受けたわたくしが逆恨みをして、カレン様の私物を隠したり破壊したり?そして足をかけて転倒させたり突き飛ばしたり?
あとは……例えばそうですね、汚水をかけ衣服を剥ぎ土下座を強要したりですとかやはり定番は下駄箱への生ゴミでしょうか?あぁ土下座と下駄箱と言うのは…」
「ちょっ!待ちなさい、貴女何を言っているの?」
「何を…と言われましても、わたくしはただ親切な方々が聞こえよがしに会話されていた事を耳にしただけですので」
「嘘よ!そんな意味のわからない事まで広めていないわ!わたくし達はただっ」
「はぁ……。カレン様?噂を広められた事を認めましたね?何故その様な事を?わたくしの何が気に食わないのですか?」
「あっあ、貴女生意気なのよ!!あれほどわたくし達が良くしてあげていたというのに、婚約を破棄された後、休暇明けの貴女はまるで別人の様になっているし、それにあれだけ忠告していたというのに貴女は婚約者でもない方の名を軽々しく呼んでいるではないの‼
(なるほど、レイラが名前呼びに消極的だったのはこの人達にその考えを植え付けられていたからなのね)
「お言葉を返すようで申し訳ないのですが、カレン様?ウィルト・ラムゼイ様の事を仰っているのですよね?」
麗良が微かに懸念していた事が現実のものになってしまい、麗良は降りかかる火の粉を振り払うべく彼女達に向き合ったのであった。




