92、➆歴史(文芸)「幕末異聞記~物語は動いた~」
異聞伝。
「ほたえなっ!」
ワシは階下の騒がしさに大声で叫んだ。
喧騒に紛れ、斬撃の音が混じる。
「・・・シンタロー、これはまずいきに」
蠟燭の灯を消し、身を潜めようとした刹那、数人の浪士たちがなだれ込んできた。
風邪さえひいてなければ、深酒さえしていなければ。
額に熱を感じる。
目の前が真っ赤だ。
やつらは足早に去って行った・・・なんて無粋なやつらだ。
額に手をやる。
やっぱり血だ・・・ぱっくり斬られている。
これは・・・ヤバいな。
ワシは隣で横たわる慎太郎の肩を揺さぶる。
「シンタロー、生きとるがや」
「ああ」
返事がする。
あいつはワシより傷が浅そうだ・・・ワシは無理かもしれんが慎太郎は生きるかも・・・いや、生き抜く・・・あいつはしぶとい男じゃき。
「ワシは無理そうじゃ」
「なにが、死ぬな」
相変わらず、ぶっきらぼうな男だ。
こんな時に大笑いしてしまった。
「はははははは」
「何がおかしい」
「シンタロー、ワシは死なんぞ」
「そうだ。その心意気じゃ」
心の中で分かっている。
この後、待っているものを。
「ワシは転生する」
「転生?」
「異世界転生じゃ!おなごどもをはべらし、魔王を退治する」
「おもしろそうだな」
「お前も来るか」
「気が向いたらな」
「それでいい・・・それで・・・いいん・・・じゃ」
真っ赤な視界が白に変わる。
ワシはこと切れたのか・・・。
目覚めるとそこは・・・。
幕末のなんちて。




