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1章 命 ーはじまりー
虚は表情ひとつ変えることなく、じっとそれを見つめていた。
夜の闇が濃くなり、人々が寝静まっている時間。
それは冷えた夜の空気の中でまだ熱を持っており、鉄の臭いを帯びた白い湯気を発していた。
ガタンガタン……ゴォォォォッ!
頭上の降下線路に電車が走って行く。電車の光で照らされる束の間の紅。
虚は風で靡いた黒い髪を耳にかけて呟く。
「6人目」
抑揚のない、冷たさすら帯びているその声は夜に吸われていく。
空気に触れて赤黒く変色していく血溜まりに自身の何を考えているのかわからない顔が反射する。
血溜まりを作っているのはセーラー服を着た女子高校生、しゃがんで死体を観察する。
腹部は肉ごと切り裂かれ、腸が乱暴に掻き出されていた。
まるで獣に食い荒らされた獲物だ。
「お前が殺ったのか」
虚は立ち上がり、振り返ることはせずに問う。
背後にある凍るように冷たい気配、だがそいつは問いに答えることなくその場から消えた。
虚は振り返り、はぁ……とため息を吐いて夜空にある月を見つめる。
これは人間の仕業じゃない。




