10年の終わり、1年の始まり(5)
「「ひいっ!?」」
兄弟の首が胴体から離れたのを見た二人の息子達が悲鳴を上げた。
「フランシス! ああ! なんてことだ! 私のかわいい跡継ぎが! 貴様ああ! 許さんぞ! 一族全員皆殺しだ!」
「私に家族なんていない。あなた達に殺されたのだから」
私はフードを下ろし、腰まで伸びた長い銀髪を見せつける。
「ま、まさか……あの村の生き残り!?」
「ほら、やっぱり知ってるんじゃない。ウソをついた罰よ。アベル、もう一人」
「や、やめろお!」
ゲイルが止めるのも聞かず、アベルは2人目の首を撥ねた。
「ああああ! なんてことだ! 貴様あの村の生き残りか! いや……その髪に背格好……まさか新しい王妃候補か!」
その問いに私は黙して答えない。
「私が進言した通りではないか! 他国の血が入っているのではなく、あの村の生き残りか異国の者だと!
ふははは! いいぞ! これを殿下に伝えれば、褒美もぐはっ――!」
聞くに堪えないセリフに、私はゲイルの顔を殴りつけていた。
拳からも血が流れるが、気が高ぶっているせいか痛みはない。
「息子が死んだというのに随分ね」
「まだ一人残っておるわ」
ああ……だめだ。
家族に対する想いが私と違いすぎて話にならない。
もっと絶望させられる思っていたのに。
クズはクズか……。
「最後の一人も死ぬとは考えないの?」
「私を脅そうとしても無駄だ。子供ならまた作ればいい。あの女との子であれば、家柄も十分だからな!」
「ち、父上!? そんな!?」
息子がたまらず声をあげた。
「黙れ! ふざけた輩との交渉はこうするのだ! 覚えておけ!」
「そう、じゃあ最後の一人もいらないわね」
「な!? ま、待て!」
声をあげたゲイルを無視し、私がアベルに目で合図を送ると、三人目の首が胴から離れた。
「あああああ! なんてことだ! 育てるのにまた15年はかかるのだぞ! それにせっかく同じ趣味もしこんだというのに! 家族の楽しみを奪いおって!」
「私から家族を奪った男が何を言うか!」
私は近くにあった棍棒でゲイルの膝を砕いた。
「ああああああああ! やめろ! やめてくれ! 金か!? 金ならここで稼いだ分がたくさんある! いくらだ! いくらほしい!?」
耳に入るだけで吐き気がこみ上げてくる。
仇の悲鳴は心地よい音楽になるかと思っていたが、そんなことはなかった。
ただただ不快なだけだ。
それでも私は手を止めない。
止めるわけにはいかない。
こいつらに罰を与えられるのが私だけだというのなら、最後までやりとげなかればならない。
それが、村に唯一生き残った私の役目なのだ。
「あなた、商人の出なんですってね。今の奥さんと結婚して、爵位を得たとか。跡継ぎが生まれなければ、家は途絶えて終わりよね」
「い、いらん心配だ。あんなババァでもまだ抱ける。子供の一人や二人作れるさ」
この後におよんでそんな口を聞けるものだ。
私は持ち込んだ鞄に手を突っ込み、中身を引きずり出す。
「見える?」
「あ? あ……あ、あ、あ……」
今度こそゲイルの顔が絶望に染まった。
「あなたの奥さん、でしょ?」
「なんてことを! なんてことをしたんだ! あああああ! もうおしまいだ!
いや、また子供をさらってくればいい!
そうだ! 妻の死さえしばらく隠せればいけるぞ! ふひひ!」
ゲイルは白目を剥き、だらりと口からよだれをたらした。
「そう、よかったわね。ところでゲイルさん、10年前に村を襲った連中で、この中に知り合いはいない?」
私はゲイルに残り4人の似顔絵を見せた。
「し、知らん! 知っていたとしても、しゃべれば命はない!」
どうやら当時のことは、かなりのタブー扱いになっているようだ。
噂を集めるのにもかなり苦労したのだが、武勇伝として語るようなバカなマネはしていないらしい。
「なぜ自分の命が、今すぐになくなると考えないのか不思議だわ」
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