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10年の終わり、1年の始まり(3)

「誰? 誰が見つかったの?」


 私の目標は、リカルド王以外に目立っていた5人をまず先に殺すこと。

 本当は村を襲った全員を同じ目に遭わせたい。

 だが、30人もの人間を相手に復讐を遂げるには、おそらく私一人の人生では足りない。

 途中で捕まってしまうかもしれない。

 ならば、リーダー格の5人とリカルドだけは絶対に殺すと決めたのだ。


 アベルには、5人の人相や特徴など、覚えている限りのことを伝えてある。

 それだけで対象を探し出し、裏を取るのは大変な作業だろう。

 私一人では、正直難しかった。

 罪もない人を殺してから「人違いでした」ではすまないのだ。

 そんなことは村の人達も望まない。


「名前はゲイル=ガルシア、38歳。クレアが描いた似顔絵のうち、3枚目の男だ」


 私の面倒をよく見てくれたお姉さんを犯し、殺した男だ。

 他にもたくさんの女を縛り、犯していた。

 最も色欲を露わにしていた男ではないだろうか。


「今は何をしているの?」

「騎士団に在籍しており、中隊長を務めています。妻が1人、息子が3人。役職のわりにかなり裕福な暮らしをしています」

「裏で何かお金を動かしていると?」

「はい。たびたび家をあけることがあるようです。その際、近隣の村から若い娘を攫い、別宅で『お楽しみ』をしている形跡がありました」


 まだそんなことを続けているのか。

 腹の底から吐き気とともに熱くどす黒い何かがこみ上げてくる。


「攫った娘を『仕込んだ』後、金持ちの好事家に売って財を成しているようですね」

「家族は知っているの?」


 身分不相応な稼ぎをしていて、気付かないはずがない。


「はい、息子達3人は父親と共に同じ趣味を愉しんでいるようです。妻は事情を知りながら贅沢三昧ですね。

 妻の方が家柄が良く、夫の商売の口利きをしているようでう」

「そう……」


 よかった。

 クズのままでいてくれた。

 これで心置きなく、絶望の底に叩き落とすことができる。


「やるのか?」


 温かい穏やかさから、凍るような冷酷さへと、アベルの口調と雰囲気が変わった。

 こちらが彼本来の姿だ。


「やるわ」

「くく……いいね。その目だ。その目をしている限り、オレはお前に雇われよう。報酬はきっちりもらうがな」


 アベルの正体は、国で一番と噂される暗殺者だ。

 彼を雇うきっかけとなったのは、私の株を上げることになっただ国王暗殺未遂の直前におきた、もう一つの暗殺事件。

 誰にも知られることなく私が防いだ暗殺だ。


 そう、2回目の暗殺未遂は、噂の通り、私がアベルに依頼した自作自演なのである。

 片腕が動かなくなったのは誤算だが、おかげでリカルドの信頼を得られた。


 1回目の事件の後、既に執事として王宮に潜入していたアベルと交渉し、彼を雇ったのだ。

 報酬は、1人殺すごとに、私が養父から譲り受けた莫大な財産の5分の1を渡すこと。

 そして、王を殺すことに成功すれば、その時点で私が持ち得た財産の全てと、『私自身』を渡すことだ。

 王を殺すことに成功した頃には、私も毒によってまともな状態ではいられないだろうけど、それはもちろんアベルには言っていない。


 王宮で立ち回るために手に入れた養父の財産がこんなことに役立つとは思わなかった。


 ちなみにこのアベル。

 王の暗殺に失敗したわけなのだが、私に雇われ直されるにあたって、もとの雇い主を殺してきたという。

 「そもそも、王の暗殺など成功しても自分は殺されていただろうから、どちらにせよこうなっていた」とは彼の弁である。

 それがわかっていて暗殺の仕事を受けるとは、どういう神経をしているのか。


「そちらこそ、条件を忘れないで」

「わかっているさ。『手を下すのは自分で』だったな。くっくっく……」


 何がそんなに楽しいのか。

 自分で復讐など画策しておきながらこう言うのもなんだが、暗殺者など信用ならない。


「決行は?」

「次にゲイルが別宅を使うのはいつ?」

「今夜だ」

「都合がいいわ。今夜決行しましょう」


 今夜のリカルド王の相手は、別の王妃候補だ。

 それに、仇が判明したとあれば、もう一日だって待ちきれない。


「オーケー。準備をしておくよ」


 やっと……やっとだ。

 復讐が始められるよ、みんな。


 私は胃のあたりがかっと熱くなるのを感じた。

 もうみんな、ここにはいないのにね。

ここまでお読み頂きありがとうございます。

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