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穏やかな日々をもう一度(END2)


「俺もリンカが好きだ。だからこれからも一緒に居てくれ。頼む……」


 ロイドはリンカを強く抱きすくめた。彼女もまた、彼に応じて身を委ねる。


 互いにやらねばならぬことはあるはずだった。それでもここでお互いに離れたくはなかった。


 世界の命運よりも、今ここで、二人の愛を確かめ合うことが先決であった。


 想いは弾け、二人は互いに身を寄せ合う。そして二人は、慣れ親しんだ自分たちの巣へと戻ってゆく。



●●●



 サリスが消えたことで、リンカは声を取り戻していた。

 ロイドの愛の言葉に、リンカはようやく戻った声で答える。


 凛と咲き誇る華のようなリンカの声に、ロイドの心は魅了された。


 その日の晩。

 おぼろげな月明かりの下、二人はこれまでずっと秘めていた想いを身体を使って表した。激しく互いの身体を求めあった。飽きるほど肌を重ね、ただ獣のように交わり続けた。夜が明けても、二人の求愛行動は終わることがなかった。そしてまた月が昇るころ、身も心もすっかり一つとなったロイドとリンカは、ようやく眠りに就いた。


 それが二人の選択だった。二人の想いが導き出した答えだった。


 そのためリンカは処女を喪失し――世界にとって脅威を呼びかねない存在となってしまった。

 リンカほどの魔力を持つ魔法使いの血であれば、ザーン・メルやロムソ、東の魔女、もしかすると魔神皇以上の恐ろしい存在をこの世に呼び起こしかねない。

 もはやリンカは世界にとっては脅威でしかなく、表に立つことが許されない存在となっていた。


 だからこそ二人は冒険者を辞め、あらゆる人との縁を断ち切り、旅立った。


 人里離れた山の奥へ身を寄せ、そこを二人の手で切り開いた。

そしてそこに二人のためだけの小さな家を設けた。

 ロイドとリンカは誰に気にすることも無く、そこでも激しく、飽きることなく毎日互いを求めあった。

獣さながらの生活であった。


ロイドは飽きることなくリンカを求め続けた。リンカもまたロイドを日々欲した。

そうして過ごすうちにロイドとリンカの間に、二人にそっくりな兄妹が生まれた。


 そんな生活を続けた何年かの後、オーキス=メイガービーム率いる一党が、ようやく魔神皇を討伐したという吉報が舞い込んできた。

下界での長きにわたる戦乱が終結したのである。


 聖王国最強の鎚の聖勇者オーキス=メイガービームは、聖王キングジムが第三子:クゥエル=ジムと戦闘民族ビムガンの国“トリントン”の初代女王ゼフィ=リバモワの力を借り、辛くも邪悪なる皇を打倒したと聞く。


しかしその代償は非常に大きく、数多の街が滅び、かつて過ごしたアルビオンでさえも、今は廃墟になってしまったらしい。


 もしもあの時、ロイドがリンカを手放し、魔神皇の討伐へ向かわせていればどうなっていたのだろうか?


多数の犠牲が出ずに済んだのではないか。

オーキスも魔神皇との戦いで片足を失わずに済んだのかもしれない。

ゼフィも魔神皇の片腕“青き吸血騎士ヴァンパイヤナイト”との激戦で受けた深手が原因で、若くして亡くなることはなかったかもしれない。


しかしこれらは今更の話で、可能性でしかなかった。

それにこの選択はロイドとリンカの総意でもあり、その可能性を承知の上で、二人は契りを交わした。

世界の命運よりも二人だけの静かで穏やかな生活を選んでいたのだった。



●●●



「……」


 温かい陽だまりの中、庭の切り株に身を寄せあって座るロイドとリンカの姿があった。

 ロイドとリンカは互いに肩を寄せ合いながら、庭で元気にあそぶ子供たちを眺めていた。

 魔神皇は倒され、世界には平穏が戻った。


 更に近年聖王国九大術士の一人【魔法大教授ワイアット】の研究により、非処女による血の召喚によって出現する魔神の脅威が、その精神性に強く影響されているとの発表がなされていた。既にリンカは世界の脅威ではなく、ロイドさえ傍に居れば、なんの問題もなかった。

しかし今さら、数十年前に捨てた世界へ二人が繰り出すことは無い。

それは大事な時に、世界から目を背けて、二人の世界に浸っていた彼らなりの罪滅ぼしだった。


 だが、ロイドとリンカが儲けた兄妹にとって、二人の業は関係がないこと。

だからこそ、いつかこの辺鄙な山奥から、もっと広い世界に送り出したいと思っている。

 自分たちが捨てた世界へ出て、その中で自らの生きる意味を見つけてもらいたい。そう願って……。


「なぁ」

「?」


 ロイドがぶっきら棒に声を掛けると、リンカは小首を傾げる。

その姿は何年たってもあどけなく、胸が疼く。歳を重ねても、リンカの美貌はロイドの心を決して離さなかった。


「お前は本当にあんまり喋らないよな。声がなかった時みたいに……」

「……」


 照れ隠しの言葉をリンカを素直に受け取ったのか、頬を膨らませる。


「悪い悪い。だけどこれで良いんだ。言葉は少なくても、気持ちは通じ合ってるんだ。ありがとう、俺の傍に居てくれて」


 ロイドが久方ぶりに感謝を口にする。

すると最愛の彼女は少し低くなったが、相変わらず響きの良い声でこう言った。


「こちらこそ、ありがとうございます。貴方……愛してます。これからも、ずっと……」


それなりの絶望と、無いに等しい希望――そう思っていたのはもうだいぶ昔のこと。


 相変わらず絶望はそれなりにはある。落ち込むことも多い。


 しかし希望はあった。


 平穏な日々と、自分の前に現れてくれた最愛の人に感謝しつつ、ロイドは生涯を満喫する。

 辺鄙な山奥の生活だが満ち足りている。側にはいつも、愛する人が隣にいてくれるのだから。


 ロイドとリンカは辺鄙な山奥、穏やかな日常を送っていく。

そんな生活は子供たちが旅立ち、互いに老いて、そして自然と天に召されるまで続いていく。


 二人の穏やかな日々は一生脅かされることが無かったのだった。



 おわり


*ちょっとお待ちを! 未だ終わりではありますせんっ! 嫌ですよね? こんな終わり方。

やっぱ欲望のままに生きちゃダメですってぇ~……

明日をお待ちください。明日が真の最終回です!


ここまでリアルタイムで読んでいただいた皆様に感謝を込めて。

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