19 オーパーツ
校長室の応接セットに、大志摩校長と向かい合わせに風太と玲七郎が座った。玄田は、どうせ話を聞いてもわからないからと、大志摩の娘である皐月と保健室で寛いでいる。
風太と玲七郎を等分に見ながら、大志摩は、「もう一ヶ月以上前になるけど」と話し始めた。
主に地方のニュースで流れただけだからあなたたちの記憶にはないでしょうけど、葦野ヶ里遺跡の近くから異常に大きな甕棺が発見されたの。普通は素焼きの甕を使うのだけれど、真っ黒で艶々した巨大な甕だったそうよ。その上、甕の表面に海にいるフジツボの跡があったの。だから、本当に古い時代のものなのか、随分疑われたわ。所謂オーパーツ、発掘された地層の場所や年代にそぐわない出土品、じゃないかということでね。
地元のテレビ局は、と言っても公共放送を含めても三社しかないけど、張り切って取材合戦を繰り広げたわ。ところが、一週間もしないうちに、ピタリと報道されなくなった。まるで、口止めされたみたいにね。
それからよ。この城下町に、というより、その周辺の魔界に異変が起きたのは。最初は、遺跡の近く棲む狐狸の類いが、頻々と消息を絶ったの。それで彼らは怖がって人里のある方へ、つまり城下町側へ逃げて来た。彼らには不慣れな人里で、トラブルがたくさん起きてしまったわ。
特に義妹の経営するオリオン座ホテルは、お客さんからの苦情が増えて困ったため、先週、契約している陰陽師を呼んで、ホテルとその周辺を徹底的にお祓いしてもらったそうよ。あなたたちも気づいたでしょうけど、お陰でこの古い街から魑魅魍魎が消えてしまったわ。その陰陽師は、来週また様子を見に来ると言ってたらしいけど、そちらの若い陰陽師さんが代わりに来たのね。
そう、息子さんなのね。
お父様を悪く言うつもりはないけど、あれは逆効果だったわ。人間の世界でも、殺菌し過ぎると却って悪い黴菌が増えてしまうと言うでしょう。魑魅魍魎がいなくなったところへ、これ幸いと一気に連中が進出して来たの。
影響は魔界だけでは済まなかった。人間界も狙われたわ。
連中は次々に眷属を送り込み、この街を乗っ取ったの。巧妙にすり替わったり、操ったりしてね。だから、困ったことがあっても警察を呼んじゃダメ。市役所も連中の支配下にあるみたい。義妹のオリオン座ホテルも、ほとんど制圧されてしまったわ。
わたしたちは、少なくとも子供たちを護ろうと、仲間の白狐たちを呼び寄せ、学校の周りに結界を張り巡らせたわ。
それだけでは心配だから、豆狸たちを子供に化けさせて、見回らせたの。横尾先生が、子供の数が合わないと不安がってたけど、あれは豆狸だったのよ。
何日かはそうやって凌いだんだけど、遠足の予定を変更できなくて葦野ヶ里遺跡に行った後、学校で飼っている動物が殺されてしまい、連中が潜り込んでるのがわかったの。
警察も当てにならないし、困っている時、横尾先生が、風太さんの名前を言ったの。わたしはその話に飛び付いたわ。この世界は狭いから、海に棲む河童の話も、大阪の麒麟の話も、噂で聞いていたのよ。
若い陰陽師さんはご不満そうだけど、今は、争っている場合じゃないわ。相手は、日に日に力を増している。早くなんとかしないと、この街だけの問題じゃなくなるわ。
わたしも連中のことは詳しくないけど、何か焦っているのは間違いないわ。その理由は、葦野ヶ里遺跡に行けばわかるはずよ。
子供たちはわたしたちが護るから、あなたたち二人に、それをお願いしたいのよ。
「長い話になって、ごめんなさいね」
大志摩校長の話を聞いている間、二人の反応は真逆だった。
アルカイックスマイルを浮かべ穏やかな態度で傾聴している風太と違い、玲七郎はずっと膝を揺すり、時々舌打ちしていた。
「何だよ、今の話。まるでおれの親父が悪かったみてえじゃねえか」
その不満には、風太が応えた。
「そんなことないさ。事情をご存知なかっただけだよ。それに、そのおかげで連中の動きがハッキリしたわけだからね」
「そうね。わたしたちも、人間の力を借りる決心がついたわ」
まだ不満が治らない様子の玲七郎も、今はそれどころではないと自分を抑えたらしく、「わかったよ」と頷いた。
大志摩校長は、やっと少し安心したような笑顔になった。
「今日はもう遅いから、葦野ヶ里遺跡には明日行くとして、良ければお二人とも、今夜はうちに泊まったら?」
風太は嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます。実は、オリオン座ホテルに泊まろうと考えていたんですが、やはり、危険だなと思っていたので。でも、お邪魔じゃありませんか?」
「大丈夫よ。元は主人の実家が経営していた旅館なの。部屋はたくさんあるわ」
「でしたら、我儘ついでに、玄田くんもいいですか? 今はまだ帰さない方がいいと思うので」
「勿論よ。陰陽師さん、あなたは?」
「ま、仕方ねえな」
「では、改めて、明日はよろしくお願いするわ」
大志摩は立ち上がり、深々と二人に頭を下げた。




