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33話・婚約破棄と戦いの始まり

「お待ちください!」


 突然現れたアルド様により責め立てられるグレース様を見兼ね、デュモン様がベッドから降りました。グレース様の傍らに膝をつき、頭を下げます。


「お嬢は当初ずっとアルド様を探しておりました。リオン様に鞍替えすると仰ったのはつい最近のこと。それも家同士の関係を思えばこそ出たお言葉です」

「デュモン! ダメよ、傷が開いてしまうわ」

「いいえ、言わせてください。お嬢がどれほどアルド様を案じてらっしゃったかを」


 縫合したばかりの背中の傷に巻かれた包帯にじわりとにじんだ血を見たグレース様は顔面蒼白となっております。必死に頭を上げさせようとしますが、デュモン様は頑として従いません。


「ふうん。ま、今回は僕が黙って動いたから余計に心配させちゃったかもね」


 デュモン様の熱意が伝わったのか、アルド様から先ほどまでの圧が消え失せました。グレース様とデュモン様はホッと安堵の息をつきます。


「じゃあ、乗り替え未遂と未来の義妹虐めを不問とする代わりに僕のお願いも聞いてほしいんだけど」

「え、ええ。あたくしにできることでしたら」


 デュモン様に肩を貸して立たせながら、グレース様は緊張した面持ちで向き直ります。何故か交渉材料に私のことまで入っておりますが、一体何を要求するつもりなのでしょうか。


 アルド様は隣に立っていた褐色の肌をした女性の肩を抱き、その頬に軽くキスをしました。


「実は情報収集のために入り込んだ隊商の娘……ダナと良い仲になっちゃって、責任取ることにしたんだよね~。あ、もちろん正妻はグレースだから安心して。彼女は愛人でも構わないって言ってくれてるから」

「なっ……!」


 室内が再び静まり返りました。


 なんということでしょう。グレース様に対してリオン様への乗り替えをあれほど責めていた癖に、ご自分はちゃっかり他の女性と関係を持っていただなんて。


「ふ、ふざけるな! 愛人だと? オレのお嬢をバカにするのも大概にしろ!」


 今度こそデュモン様が怒りでアルド様に掴み掛かりました。胸ぐらを掴まれているにも関わらず、アルド様は涼しい表情を崩しもしません。


「いいのかい? 反乱軍のアジトの場所の情報を教えてくれたのは彼女(ダナ)だよ。リジーニ伯爵領の民を救うために最も必要で重要な情報だ。君が要らないと言うのなら教えないけど」

「クッ……!」


 デュモン様の顔が苦悶に歪みました。そもそもアルド様が調査に乗り出した切っ掛けは、デュモン様がネレイデット侯爵家の請求書に細工をしたから。ご実家であるリジーニ伯爵家の領民を守るため、カレイラ侯爵家とネレイデット侯爵家を巻き込もうとしたことが回り回ってグレース様の不幸に繋がってしまったのです。


「……よろしくてよ、アルド様。そちらの女性には協力していただいたのですもの。愛人と言わず、妻として迎えて差し上げるべきでしょう」


 それまで茫然としていたグレース様が淡々と二人の仲を認める言葉を紡ぎます。慌てたデュモン様が何か言いたげに口を開きかけますが、彼女は視線だけでそれを制しました。


「おっ、分かってくれた? 嬉しいなぁ」

「ですけれども!」


 了承を得られて喜ぶアルド様に対し、グレース様はビシッと人差し指を突き付けました。その表情はとても険しく、先ほどまでの狼狽っぷりが嘘のようです。


「あたくしは結婚前に堂々と愛人を作るような御方と関係を続ける自信などありませんわ! 故に、アルド様との婚約は破棄いたします!」


 まさかの、グレース様からの婚約破棄。


「アルド様が調査して得られた情報は我がカレイラ侯爵家が言い値で買い取りますわ。リジーニ伯爵家はうちの傘下ですもの」

「はは、分かったよグレース」


 アルド様は肩をすくめ、そのまま反乱軍についての話が始まりました。


 褐色肌の隊商の娘ダナさんが地図を広げ、アジトの場所を指し示します。リジーニ伯爵領に面した国境から少し離れた位置にある集落を占拠しているようです。


「ウチの隊商が商売で食料や日用品を納めた時に内部に入ったことがあるの。アジトにいるのは大体二百人くらいよ」

「僕も一度だけ隊商の一員に化けて潜入したんだ。戦える者は全体の四分の三ほど。まあまあの規模かな」

「自ら『反乱軍』と名乗っているけど、世直しする気はなさそう。実態はゴロツキ集団と大差ないわ」


 ダナさんとアルド様の説明により、反乱軍の根城の位置とおおよその人数は判明いたしました。リオン様は腕組みをしてしばらく考え込んでおります。


「面倒くさい。黙って突撃するか」

「駄目ですよリオン様」


 いきなり隣国に攻め入るのは得策ではありません。反乱軍討伐が目的なのだと事前に隣国のお偉方に了承を得てから、などと暢気に行動していたら逃げられてしまいますわね。どういたしましょう。


 そこへ老メイド……いえ、先代侯爵夫人がワゴンを押しながら部屋へと入ってきました。いつの間にか姿を消したと思ったら、切り裂かれたデュモン様の服の代わりを用意してましたのね。


「わたしの姪が隣国の公爵家に嫁いでおります。多少の無茶は事後報告でも何とかなりますよ」


 ベッド脇のミニテーブルに着替え一式を並べながら、何てことのない話のように告げられました。


「よし、では騎士団を動かそう」


 外交問題さえクリアすれば、あとは反乱軍の根城を叩くだけです。リオン様はすぐに王都中心街にある騎士団に使いを出しました。


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