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31話・驚愕の真実

 人質に取られたグレース様へと全員の注目が集まっている最中、背後から迫り来る男の存在に気付きました。彼は腰の剣を鞘ごと引き抜き、老メイドに振り下ろそうとしております。


 リオン様やダウロさんは正面から向かってくる男たちの相手。デュモン様はグレース様から一切視線を外しませんし、コニスやアリエラも自分の身を守るだけで精一杯。


 いま動けるのは私だけですわ!

 この場で一番か弱き者を狙うなんて不届きな!


「危ないっ!」


 身体を反転させ、老メイドを玄関脇の植え込みへと突き飛ばします。男が振り上げた鞘は私の左肩を強かに打ちました。焼けるような鋭い痛みに歯を食いしばります。


「フラウお嬢様ぁ!」


 ルウが慌てて男との間に割って入りました。その声で、グレース様に向いていた注目が玄関前にいる私へと集まります。すぐさまコニスとアリエラが私の前に立ちはだかり、襲ってきた男を退けてくれました。


「フラウ嬢!」


 リオン様の低い声に名を呼ばれ、顔を上げました。彼は戦う手を止め、こちらを凝視しております。地面に膝をついて肩を押さえる私を視界に入れた途端、憤怒の表情を浮かべました。


「貴様、よくも」


 男たちを瞬時に殴り倒して私の元へと駆けてくるリオン様の姿に、心のどこかでホッと安堵の気持ちが湧き上がりました。


 私を打った男は踵を返しますが、行く手をダウロさんに塞がれて逃げ場を失い、そのままリオン様にしこたま殴られました。倒され、意識を失った男たちはルウやコニスたちが手分けをして縛り上げていきます。


 先ほどの攻防で、反乱軍の男たちは半数以下に減りました。しかし、まだまだこちらが不利。


「お嬢様がどうなってもいいのか!」

「た、助けて」


 まだグレース様が捕らわれているのです。涙目で助けを求めておりますが、迂闊に近付けません。彼女に刃物が突きつけられているからです。


 一定の距離を保ったまま睨み合い、膠着状態に陥りました。どうしたものかと悩んでいると、別邸の裏手から複数の蹄の音が聞こえてきました。土を蹴る音が徐々に大きくなっていきます。


「みな退がれ」

「え、えっ?」


 いち早く気付いたリオン様が私たちを建物のそばに下がらせました。何が起きるか分かっているようです。


 次の瞬間、数頭の立派な馬が別邸前の庭に雪崩れ込んで参りました。先頭の白馬には白い服を身にまとった老爺が跨っており、土煙を上げて駆けてくる様は圧巻です。


 リオン様とダウロさんは後続の馬へと飛び乗り、呆気に取られていた男たちを文字通り蹴散らしていきます。その隙をつき、デュモン様がグレース様を捕らえていた男に掴み掛かり、彼女を奪い返すことに成功しました。


 残りの男たちは突如乱入してきた馬たちに蹴散らされ、一人残らず縛り上げ晴れていきます。


「グレース様、こちらへ!」


 救い出されたグレース様は恐怖がまだ引かないのか、私の腕の中で小刻みに震えております。しっかり抱きしめ、背中をさすって差し上げました。


「こ、こ、怖かったぁ……!」


 普段は高飛車で憎らしい御方ですけれども、私と同じ十七の娘なのですもの。恐ろしい目に遭い、すっかり怯えてらっしゃいます。でも、すぐにバッと顔を上げ、辺りをキョロキョロと見回し始めました。


「デュモン!」


 グレース様はデュモン様を探していたのですね。彼は少し離れた場所に立ち、安全な場所に保護されたグレース様の姿を見てニコリと微笑みました。


 その直後、デュモン様は地面に崩れ落ちました。なんと、彼の背中には大きな傷が。先ほどグレース様を助け出す際に斬りつけられたのでしょう。


「きゃああ、デュモン! デュモン!」


 震えて立てなかったはずのグレース様が駆け寄り、デュモン様の身体に縋り付きました。老メイドが応急処置を施しますが、きちんとした治療をするには医師を呼ばねばなりません。


 ここは王都郊外の森の中にある別邸。近くに病院はありません。どうしたものかと考えていると、先ほど馬に乗って現れた老爺がやってきました。老爺が着ている白い服はコックコート。ということは、彼は別邸のコックなのね。初めて姿を見ましたわ。


「今からワシが医師を呼んでくる。森の向こうの集落に診療所があるからな」


 そう言い残し、老爺は馬の腹を蹴って門から飛び出していきました。お年を召してらっしゃるのに素晴らしい手綱捌きですこと。


 呆気にとられていると、怒りの気を鎮めたリオン様が口を開きました。


「心配ない。お祖父様なら十五分ほどで戻られる」


 え、今なんて仰いました?


「フラウお嬢様、先ほどは助けていただきありがとうございました」


 デュモン様の止血をしながら老メイドが私に御礼の言葉を述べました。突き飛ばした先が植え込みでしたので、老メイドは小さなかすり傷だけで済んでおります。


「フラウ嬢のおかげでお祖母様は無事だった。俺からも礼を言う」


 は???


 目を丸くしておりますと、ルウが小首を傾げます。そして、屈託のない笑顔で私にこう言い放ちました。


「メイドのおばあちゃんとコックのおじいちゃんは先代侯爵夫妻なんですよぉ」

「フラウ、あんたまさか知らなかったの?」


 グレース様もご存知のようです。


 私の記憶が確かならば、先代ネレイデット侯爵夫人といえば、侯爵家に降嫁した元王女様だった気が……。


 何も知らないのは私だけでしたの?


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