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29話・金銀の行方

「調査の結果、デュモンがカレイラ侯爵家の名を騙り、店員を懐柔または脅して少しずつ金銀を集め、請求をネレイデット侯爵家に回していることが判明しました」


 ダウロさんの言葉に、デュモン様が苦々しい表情を浮かべております。間に挟まるグレース様は、何がなんだか分からない様子。交互に二人を見て首を傾げておいでです。


「ちょっとデュモン、あなた何を考えているの? 金や銀を集めてるのは何故? わざわざ他家に請求を回さなくても、必要ならばお父様が支払うわよ!」


 グレース様の疑問はもっともです。カレイラ侯爵家は有力な高位貴族。金銭的に困っているとは思えません。ということは、デュモン様が私服を肥やそうとしたのかしら。露見すれば仕えているカレイラ侯爵家とネレイデット侯爵家の両方を敵に回してしまいます。彼のご実家であるリジーニ伯爵家だってただでは済まないでしょうに。


「……デュモン」


 それまで強気に責め立てていたダウロさんが語気をゆるめました。気遣わしげな目を向けられ、デュモン様が口の端を歪めて笑います。嘲るような表情ですのに、何故か悲しげに見えました。


「オレにはこうするしかなかったんだ」


 どういうことかしら。答えを求めて隣に立つリオン様に視線を向けると、何故か満面の笑みが返されました。糾弾をダウロさんに任せっきりにして何も考えていないのかも……と思っていたら、急にリオン様がキリッと表情を引き締めました。


「デュモン・リジーニ。おまえは隣国の反乱軍に金銀を横流ししているだろう」


 その言葉に全員が驚きの声を上げましたが、リオン様は構わず淡々と続けます。


「リジーニ伯の所領は国境に面しているため誰にも気付かれずに隣国へ荷を運び入れることが可能。金銀は反乱軍の資金源となっているはずだ」

「……驚きました。まさかそこまで調べがついているとは」

「したくもない残業までして頑張った」


 苦し紛れなのでしょうか。デュモン様は笑っております。対するリオン様はムスッとしたお顔。時折り泊まり込みで帰ってこない日もありましたものね。


「何故オレの実家のことまで? バレてもせいぜいネレイデット侯爵家がカレイラ侯爵家に怒鳴り込むくらいだと考えていたんですが」


 確かに、請求書の件だけを見ればそれが限界でしょう。金銀は換金しやすい品ですから、現物が残っていなくても不思議ではありませんし。


「実は兄上が真っ先に気付いて調査に乗り出していたのだ。俺が事情を知ったのは出奔後になるが」

「アルド様が?」


 アルド様がいなくなった理由は調査のためでしたの?

 これにはグレース様も驚いております。


「アルド様は当初我々にも黙って独自に調査をしておりました。隣国で商売をしている商隊に潜り込み、反乱軍に探りを入れていたそうです。最近になってようやく連絡が取れました」


 たくさん喋って疲れたのか、リオン様は再びダウロさんに説明役を丸投げしました。


 アルド様は他国の女性を追い掛けて家を出たという噂は事実ではなく、周囲の目を欺くための嘘でしたのね。ということは、この一件が片付けばお戻りになるのかしら。ネレイデット侯爵家がアルド様を捜索せず、商業店ばかりに聞き込みを行なっていた理由が分かりました。


「デュモンの狙いは、隣国の反乱軍に金銭援助をしているように見せ掛けてカレイラ侯爵家とネレイデット侯爵家の家名に泥を塗ること──」


 途中で言葉を切り、ダウロさんは大きな溜め息をつきました。あきれたように肩をすくめて。


「──などではなく、両家を巻き込むことで問題を大きくしたかったんでしょう」


 デュモン様がハッと顔を上げました。


「おまえは癇にさわるヤツだが愚かじゃない。つまらん野心なんかないのも知ってる。だから、何か理由があるんだろ? デュモン」

「……ッ」


 ダウロさんの言葉を聞いたデュモン様は唇を噛み、拳をわなわなと震わせております。そして、消え入りそうな声を絞り出しました。


「…………隣国の反乱軍に、我がリジーニ伯領の民が人質に取られている。活動資金を用立てせねば命の保証はない、と」


 なんということでしょう。デュモン様は私利私欲のために動いていたわけではなく、ご実家が治める領地の民を守るためにこのような行動にでていたのです。


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