006 読書
「図書室にございます」
そう答えたのは、護衛として後ろについていたエリアスだった。知っている単語の登場に、気持ちの高揚が隠せない。
「とっ、図書室って、どこにあるんですか?」
「……?そこの廊下に出て、左に進んだ先です」
答えたのは、先ほど紅茶をいれてくれた女性だ。まさかの敷地内図書室に目を見開く。てっきり「図書室」という建物かと思った。
おやつの後片付けもなおざりに、急いで椅子から飛び降りる。
「いきましょう、今すぐ」
急にキリッとした天音を見て、エリアスは若干引き気味だったが、そんなことは気にしない。
「――忙しないですね」
ほとんどため息のように吐かれたその言葉にも、気づかないふりをした。
◇ ◇ ◇
「わぁ……」
目の前に広がる本の渦。もちろん、渦というのは比喩で、実際は整頓されて棚にしまわれているのだが、なにしろ量が多い。ちょっと大きめの図書館並みの蔵書量だ。一軒の家にあって良いレベルではない。
――こんなファンタジー観の世界に本があるのかなんて疑ってすみませんでしたっ!
天音は脳内でこの世界の神にスライディング土下座をした。神はニコリと微笑み、「いくらでも読みなされ――」とそう言った。ような気がした。
「ありがとうございます!読ませていただきます!」
図書室の入り口で、聞こえるか聞こえないくらいの小声でそう言った天音を、エリアスが奇異なものを見る目で見ていた。
どんな本を読もうか、と考えながら天音は本棚を眺める。せっかくなら、この世界のことを知れるような本がいい。
「『世界の根幹』?」
引き出したのは、古びた装丁で厚めの本だった。試しに、ぱらぱらとめくってみる。
「lpmp jpm p jotsoys smsys mo js. drlso mp lpmlsm jr mp lsmdjom hs sti mp fstpi/ esysdjo es. dptr mo lsmditi pfptplinrlo jo,oydi mo lo hs ydioyr djo,syys mp fs」
天音は本をそっと閉じた。終始この調子なのだ。仮に暗号だとして、いつまで経っても解読できそうにない。
変わった本の存在を脳内でメモをすると、天音は次の本を取り出した。
「魔法の有効活用で、人生が決まる!」
なんだか、地球にもありそうなタイトルだった。この世界に魔法があることは知らなかったが、先ほどの加護の授与もその類なのだろう。そう思えば、驚くほどではない。
物語ではないが、説明文も嫌いではない。天音は本を開き、知識の海へとダイブした――
よくわからない。
それが、本を読み終わった天音の感想だった。
天音に読める文章かどうかという最低限の条件こそクリアしたが、あまりにも解読が難しい。固有名詞や専門用語が多用され、あたかも常識のように扱われる文章だ。
天音はあきらめ、一冊だけ貸し出し処理をすると部屋へ戻った。




