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貞操逆転世界で真面目な成り上がりを目指して男騎士になった僕がヤリモク女たちに身体を狙われまくる話   作者: 寒天ゼリヰ
第四章 結婚狂騒曲

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第615話 義妹嫁騎士と塹壕戦(1)

 私、カリーナ・ブロンダンは恐怖していた。いま、私は塹壕にこもり敵の砲撃に耐えている。この聖ドミニク街道とかいう山道のド真ん中に築かれたばかりの穴蔵の周りには、敵の砲弾がひっきりなしに着弾していた。そのたびに爆発が起こり、舞い上がった土や小石が私たちに向けて降り注ぐ。正直めちゃくちゃ怖い。

 ソラン砦の守備隊との交戦が始まって、すでに一昼夜が経過していた。私たちは交代しつつ塹壕を掘り進め、いつの間にか彼我の塹壕の距離は五百メートルを切っている。頭を出せば砲弾どころか銃弾が飛んでくる距離だった。


「ひぃぃ……」


 塹壕の片隅で、ミュリン伯爵家のご令嬢アンネリーエが小さくなってガタガタと震えている。濡れた地面(川が近いせいか、この塹壕はあちこちから水がしみ出してきてビチョビチョなのだ)で腰を抜かしてしまっているせいで、その尻は泥水でグチャグチャになっていた。

 当然ながら、彼女も貴族なので全身を魔装甲冑(エンチャントアーマー)で鎧っている。さっさと立ち上がってしっかり拭いておかないと、甲冑があっという間に錆びて真っ茶色になってしまいそうだ。しかしもちろん、初陣ですっかりビビりきった彼女にそんなことをしている心理的余裕など全くなかった。


「撃たれる側に回るのは久しぶりだけど、これはなかなかしんどいわねぇ」


 余裕ぶった言葉を口にしつつも、私の精神状態はそこの子犬と大差ない。できることならばすぐに頭を抱えてこの場から逃げ出したい気分だった。

 だって、普通に怖いもん! そんなことを考えている間にも、吹っ飛んできた小石が兜に直撃して景気の良い音を立てる。ヒィィ、勘弁して! 着弾が塹壕の外だからこれくらいで済んでるけど、直撃したら普通に部隊全滅しそうなんですけど……。

 けれども、今の私に逃げるという選択肢はなかった。なにしろ、私のまわりには小隊の部下たちが集まっている。古兵の最先任下士官ですら、その顔には隠しきれない不安の色がある。私みたいな新人の小隊長でも、いないよりはいる方が遙かにマシだからね。部下の安全を少しでも守るためにも、私は責任を放棄するわけには行かなかった。


「おや、小隊長殿は撃たれる側になったことがおありで?」


 休憩中の雑談めいた気安い口調で、最先任下士官が質問してくる。皆の緊張を和らげるために、あえて気楽な言い方をしているのだ。私が生まれる前から軍務についている古兵だけあって、彼女はたいへんに気が利いている。


「私はディーゼル家の出身だからね。もとはリースベンの敵側なのよ」


 まあ、実際のところディーゼル家とリースベンの戦争では、私は後方の安全な場所にいた時間の方が長いわけだけど。それでも一応、リースベン軍のあの尋常ではない火力に晒された経験はあるのだ。

 あの戦争に敗れ、お兄様の義妹になって以降、私にとって味方が火力面で優勢をとっているのは当然のことになっていた。けれども、今回の戦争は違う。少なくともこの戦場においては、彼我の火力は拮抗していた。戦場が狭く、砲兵を横並びで大展開するわけにはいかないからだった。

 こちらが五発の砲弾を放てば、敵陣からも同じだけの砲弾が飛んでくる。さらに言えば、敵は砲兵だけではなく歩兵も優秀だ。前装式とはいえライフル装備なのだから、火力は装備更新以前の私たちと完全に同じなのである。


「へへへ、あのときの姉貴はスゴかったッスよー? アルベール様の前で大口叩いて……」


「うっさい、余計なこと言わないの」


 従者のリス獣人、ロッテの頭にゲンコツを落とす。小手とヘルメットがぶつかって、なかなか良い音がした。もちろんヘルメットの上から殴ったところでダメージは全く与えられないから、ロッテの顔に張り付いた笑みは消えない。もっとも、本気で笑っている訳でもないでしょうけど。

 なにしろ、彼女は私と大差のない小心者だ。私もロッテも、素で豪胆なお兄様とは違う。頑張って虚勢を張るのがせいぜいね。


「鉄砲で頭を押さえられるのには慣れてるってわけですかい。ソイツは心強い」


 とはいえ、虚勢でもないよりはマシだ。最先任下士官のうまいヨイショのおかげもあって、皆の緊張が一瞬和らいだ。まあ、数秒後に砲弾が至近で爆発したせいで、すぐにそんな余裕も吹き飛んじゃったけど。全身を叩く衝撃波じみた爆発音に、兵も士官も関係なく皆が慌てて地面に伏せた。あー、もうっ、勘弁してぇ……。


「うへえ」


 耳がキーンとしている。何も聞こえない。けれども、腕も足も体にくっついたままで、お腹に砲弾の破片や石が刺さっているわけでもない。つまり、無事と言うこと。一瞬でそれを確認して、視線を部下たちに向ける。


「みんな無事!?」


「――――!」


 返ってきた答えは、よく聞こえなかった。耳がまだ麻痺しているのだ。しかし、目で確認する限りはけが人はいないようだった。一人倒れているやつがいるけど、問題はない。アンネリーエがびびって目を回しただけだ。泥濘の中でバタつく彼女の腕をつかみ、強引に立たせる。彼女の顔は泥と鼻水と涙でめちゃくちゃだった。


「うう、ええ……うぇっ……」


 やっと耳が聞こえるようになってきた。アンネリーエは子供のように泣いている。けれども、彼女を馬鹿にしようという気持ちはわかなかった。アンネは、これが初陣なのだ。生まれて初めての戦場が、槍も剣も届かない間合いで穴蔵の中でただただ敵の砲撃に耐えるだけの場所なんてキツすぎる。逃げ出さないだけでも十分偉いわ。


「味方砲兵はなにをやってるんでしょうね。新型砲も配備されてるってのに、敵方にこれほどの砲撃を許すなんて」


「……さてね。サボってるってわけじゃないと思うけど」


 憎々しげな最先任下士官に、私はそんな言葉を返すことしかできなかった。たしかに、味方の砲兵の活動は妙に不活発だ。私たちのすぐ後ろの陣地には、開発されたばかりの新式の後装式速射砲が据え付けられつつある。でも、今のところそれらが火を噴く様子はなかった。新型だけに、なにか不具合でも出てしまったのだろうか? なんだか不安になってくる。

 新型がだめなら従来型を、と言いたいところだけど、これもまたどうにもヘン。部隊にはそれなりの数の八四ミリ山砲が配備されているはずだけど、こいつらは姿すら見せなかった。結局、後ろから聞こえてくる砲声は迫撃砲の間抜けな音色だけだ。


「ま、指揮を執ってるのはあのソニアお義姉様だからね。考えがあってのことだと思うわよ」


 状況に疑問を覚えているのは私も同じだけど、だからといってそれをそのまま部下に伝えるわけにも行かない。曖昧な笑みを浮かべつつ、そう返すことしかできなかった。

 砲撃戦の件もそうだし、今の配置もなんだかヘンなのよね。いま、私たちは塹壕線の最前衛にいるけれど、それでも敵までの距離は五百メートルは離れている。平地にずらっと兵隊が並んでいるならともかく、お互い塹壕にこもった状況で小銃を撃ち合うにはちょっと間合いが遠すぎる。だからこそ、私たちはこうして銃も構えずおしゃべりしていられるわけだけど。

 今のところ、我々には待機以外の命令はうけていない。これ以上塹壕を前進させろとも、敵陣に突撃せよとも言われていないわけ。まあ、もちろん突撃なんかしたくないけれど、だからといって穴蔵にこもっていても状況が改善しないのは確かだしねぇ。お義姉様は、いったいどういう腹づもりなんだろうか……。


「……ん?」


 などと考えていたら、妙な方向から砲声が聞こえた。私たちから見て右手、つまりは東の方角だ。その方向にあるのは、わずかな緑を貼り付けた荒涼とした岩山で、とてもじゃないけど砲兵を布陣させられるような地形ではないはずだけど……。


「あれは……味方の山砲隊みたい。山の中で砲列をしいて……敵陣を砲撃している?」


 狐獣人の射手、レナエル先生が目を細めながら言った。先生はもともと猟師をしていた人だから、うちの小隊の中でもダントツで目が良い。私はあわてて背嚢から望遠鏡を引っ張り出し、東の岩山に目を向けた。


「あ、本当だ。(くつわ)十字紋を掲げてる……」


 レナエル先生の言うとおり、そこには急な斜面に張り付くように展開した見慣れた大砲群があった。おもちゃのように小さな大砲の周囲では、多くの砲兵たちが忙しそうに働いている。



「なるほど、山砲の面目躍如ってわけか」


 それを見てやっと、私はソニアお義姉様の意図に気づいた。私たちの主力砲である八四ミリ山砲は、普段は馬で牽引しているものの分解すれば人力で運搬することもできる。その可搬性を利用して、山砲隊は本来であれば布陣できないような峻険な山の中に砲兵陣地を築いてしまったのだ。

 山砲隊は、側面から敵陣を砲撃している。いくら強固な防御陣地でも、横からの攻撃には弱い者だからね。ここから見ても、敵兵が浮き足立っている様子が見て取れた。

 山の方では敵の山岳猟兵がうろついていると聞いたけれど、あんな目立つところに陣地を作って大丈夫だろうか。そんな不安もあったけど、側面の防御はエルフ兵が担当しているという情報を思い出してその疑問は霧散した。あのバーサーカーどもが一般山岳猟兵ごときに遅れをとるはずがない。


「……とはいえ、砲撃だけじゃあ敵は倒せませんからね。いずれ白兵でカタをつける必要があると思うんですが……本部は一体どういう作戦を――」


 最先任下士官がそう言った瞬間だった。タイミング良く、私たちのこもっている穴蔵の中に一人の兵士が飛び込んできた。リースベン軍正式の緑の野戦服を着込んだ、見慣れた顔の兵士。私たちの中隊の本部付き下士官だ。


「中隊本部より連絡! 今より五分後、敵陣に対し肉薄攻撃を敢行する! 各小隊は突撃の準備をし、合図があり次第攻撃を開始せよとのことです!」


「エッ!?」


 思ってもみない命令に、私は目をむいた。そして、視線を敵陣の方に向ける。たしかに、敵軍は側面からの射撃で混乱している、けれども、むこうの穴蔵の中でも、こちらと同じようにライフル兵が缶詰になっているのは間違いないわけよね? そこに対して、五百メートルもの距離を躍進して肉薄攻撃をかける? 正気の沙汰じゃないわよぉ!?


「なお、本攻撃は移動弾幕射撃とともに行われます。十分に注意してください!」


「い、い、移動弾幕射撃ぃ!?」


 思ってもみない発言をうけ、私は腰を抜かしそうになった。移動弾幕射撃。それは、砲兵の射撃と歩兵の突撃を同時に行う狂気の戦術である。なんと、中隊長は私たちに味方の砲撃を浴びながら前進せよと命じているのだ……。

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