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貞操逆転世界で真面目な成り上がりを目指して男騎士になった僕がヤリモク女たちに身体を狙われまくる話   作者: 寒天ゼリヰ
第三章 蛮族たち

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第325話 くっころ男騎士の憤激

「わあ……」


 塹壕線から次々と飛び出していくエルフ兵を指揮壕の中から見ていた僕は、思わず妙な声を上げてしまった。


「……あの連中、突撃命令も出していないのに勝手な真似を」


 ちょっとコワイ目つきで、ソニアが唸る。ううーん、彼女の言うこともわかるが、これは現場の裁量のうちかもしれない。僕が出した命令は、一時間の戦線維持。矢玉が尽きかけている現状では、射撃戦のみで防衛を行うのは難しい。白兵戦になだれ込むのは既定路線だった。

 それに、エルフのメインウェポンは剣だからな。射撃戦をしている分にはいいが、塹壕内での白兵戦にはあまり向いていない。塹壕は、剣を振り回すには狭すぎるのだ。だから、塹壕に取りつかれる前に打って出るという判断自体は間違っていないように思える。

 それにしてもこうも早く突撃に移るというのは予想外だったがね。しかも、塹壕からは次から次へとエルフ兵が飛び出し続けてるし……。まるで畑に襲い掛かるイナゴの群れのような風情だ。こりゃあアレだな、前線に配置したエルフ兵のほとんどが突っ込んでるんじゃないか……?


「もうちょっと具体的に命令を出すべきだったか……」


 僕は小さく唸った。命令内容があいまいになってしまったのは、指揮下の兵員の数が多すぎて各々に具体的命令を出す余裕がなかったせいであり、防諜を意識してのことでもあった。

 前者はもう、仕方のない話である。組織の人数が増えるほど、上意下達は難しくなる。鳥人のおかげで伝令だけは素早くできるが、それ以外の部分は破滅的だ。我々には連隊規模の部隊を柔軟に運用できるほどの幕僚組織も指揮系統も持ち合わせていないのだ。

 我々はいわば図体ばかり大きいのに全身に神経がいきわたっていない巨人のようなもので、(司令部)各器官(前線部隊)がいくら頑張ったところで繊細な動作などできるはずもない。無理に統制しようとすれば却って混乱が深まってしまうだろう。だからこそ、現場の裁量に丸投げするような命令を出すほかなかったのである。

 そして後者の方は、もっと簡単な理屈である。ゼラ氏暗殺事件(本人は死んでないが)の手際を見るに、わが軍に少なくない数のヴァンカ派のスパイが紛れ込んでいるのは間違いないからな。連中に余計な情報は与えたくない、ということだ。


「アルベールどん!」


 どうしたものかと悩んでいると、カラス鳥人の伝令が飛んできた。彼女は天蓋の隙間からスルリと指揮壕に入り込むと、僕の隣に着地して耳打ちをしてくる。


「……なに?」


 その報告は、驚くべきものだった。なんと、塹壕から飛び出して行っているエルフどもが「自分たちごと敵陣を大砲で吹き飛ばせ」などと言っているらしい。しかも、そんな発言をしているのは一人や二人ではないようだ。

 僕は一瞬思案して、近くにいたソニアとダライヤ氏を手招きした。そして、周囲に聞こえないような声で報告の内容を共有する。


「……本気で言っているのでしょうか? エルフどもは」


 顔に冷や汗を浮かべながら、ソニアが唸る。意図的なフレンドリーファイアなど正気の戦術ではないし、しかもそれが撃たれる側から出てくるのは明らかに異常だ。


「……本気じゃろうなぁ。エルフの悪い癖が出たぞ」


 その可愛らしい顔をめい一杯ショボショボさせながら、ダライヤ氏がため息を吐く。


「若者より後に死ぬのは恥。男子供を守り切れぬのは恥。エルフには、そのような価値観があるのは知っておるな?」


「まあ……」


 エルフどもは一切の倫理観を持ち合わせないクソ蛮族だが、戦士としての矜持は確かにある。戦闘の真っ最中に、「若造(にせ)より後に死ねるか!」などと叫びながら無茶な行動に出たエルフを見たことも一度や二度ではない。


「隣には短命種の戦友がおり、後方には武器を持たぬ男子供も控えている。この状況は、エルフの矜持を大変に刺激する。興奮状態に陥り、自殺攻撃めいた戦術に出るのも致し方のない事じゃ……」


「……」


 僕は思わず黙り込んでしまった。この無茶苦茶な行動が、エルフの習性だというのか? もしそうだとすれば……。


「もしかしてだけどさ、ヴァンカ殿は……狙ってこの状況に持ち込んだのでは?」


 ヴァンカ氏の復讐対象は、"正統"だけではなくエルフという種族そのものなのではないか? この頃、僕はそんな疑念を持ちつつあった。冷静にヴァンカ氏の行動を分析してみると、"正統"のみをターゲットとしているようには見えなかったからだ。

 しかし、滅亡の淵に立たされているとはいえエルフはまだ千人以上残っている。おまけに、ダライヤ氏やフェザリアのような、自力救済を諦めて我々の援助を求めている者もいる。いったいどうやって、エルフ種そのものを滅ぼす気なのだろうか? その辺りがずっと疑問だったのだが……。


「……もしや」


「ウン……あのクソ女、僕にエルフ滅亡の引き金を引かせる腹積もりかもしれない」


 つまり、彼我のエルフどもが入り乱れている戦場にむけ、大砲をぶち込ませまくる……それがヴァンカ氏の狙いなのではないだろうか?

 まあ正直なところ、前装式の山砲数門といくつかの迫撃砲だけで千数百人もの人間を皆殺しにするなんて不可能だけどな。しかし、ヴァンカ氏が目にしたであろう火砲は、やたら連射性の高い後装式速射砲と見た目だけは派手なロケット砲のみ。彼女の中で我々の火砲類が過大評価されている可能性は十分にある。

 そう考えると、これまでのヴァンカ氏の行動も辻褄が合う。男子供をあえてこちらに渡したのも、アリンコ兵をだまして戦線投入したのも、エルフ兵の暴発を誘発するためだ。あの女は、とにかく敵味方のエルフ兵が入り乱れる状況を作りたかったわけだな。

 ……ふざけやがって。僕はサーベルの柄をぎゅっと握り締めた。復讐だかなんだか知らないが、何様のつもりだ。テロリストめ。もはや、対話の余地はない。奴は必ず殺す。


「……」


 ダライヤ氏はかりんとうだと思って食べたモノが猫のフンだったような顔をして、完全に黙り込んでしまった。たぶん、僕も同じような表情をしていると思う。ただ一人、ソニアだけが平静だった。


「なるほど、なかなかに迷惑な手合いですね。……まあしかし、別に彼女の策に乗ってしまっても問題は無いのでは? 砲兵を使わずに歩兵のみで戦いを続けた場合、事態が泥沼化することは避けられません。敵は予想外に精強でしたからね……」


 ソニアはちらりと、指揮壕の外へ目やる。そこでは、相変わらず坑道の出入り口を巡る攻防が続いていた。坑道から侵入してきた敵の数は決して多くは無いのだが、アリンコ兵とエルフ兵の組み合わせがとにかく凶悪なのだ。防御に徹されると、なかなか押し込むのが難しい。

 同じことが、より規模を拡大して善戦でも起きているはずだ。こちらの方が兵数が多いといっても、決して油断はできない。少なくとも、損害比が一対一を割るのは間違いないだろう。


「この事態を解決できるのは、砲兵の火力のみです。撃たれる側がそれでも良いと言っているのですから、誤射を恐れずに火力支援を行った方が却って被害を軽減できる可能性もあります」


「……」


 僕はソニアの言葉を脳内でかみ砕いた。人の道を外れた作戦である。だが、検討の余地はあった。勝つために時には外道に堕ちねばならぬのが軍人という職業である。僕だってそれなりに長いあいだ兵隊をやっているわけだから、清濁を併せ呑む必要性とて承知している。しかし……


「駄目だ、却下。信頼というのは、時に命よりも優先すべきリソースなんだ。健軍間もないリースベン軍に、味方を撃つ軍隊という風評をつけるわけにはいかん」


 ……それに、僕は海兵隊員だ。海兵隊員は、死んでも戦友を見捨てない。意図的なフレンドリーファイアなんか論外に決まってるだろ。

 前世の士官学校で教官が言っていた言葉が、脳裏によみがえる。『良識や倫理を投げ捨てても、決して誇りだけは失ってはならない。なぜなら誇りを失った軍人は、じきに単なる野盗に堕すからだ』……前世でも現世でも、僕は野盗に堕した軍人を何人も見てきた。断じてああいう風になるわけにはいかん。


「それに、ハッキリ言ってあんな女の思惑に乗るのは、大変に面白くないからな。……あのロクデナシのテロ女め、心底気に入らんぞ。クソッタレが、絶対に目にもの見せてやる……」


 私怨で種族その物を絶滅させようとするんじゃねえよ、ボケカスめ。ガキまで巻き込みやがって、断じて許せん。あんなヤツの思惑に乗ってやるなぞ、虫唾が走る。なんとか、ヴァンカの思惑とは正反対の形でことを納められないだろうか? 一分ほど考え込み、白湯を飲んでから僕は近くの鳥人伝令を呼び寄せた。


「ウル殿を呼んで来てくれ。クソ忙しい所大変申し訳ないが、もうひと働きしてもらうことになった」


 そんな僕を見て、ソニアがニヤリと笑った。こいつ、僕がこういう反応をすると分かったうえで、あえて外道な作戦を献策したな!?


「まったく、お前ってやつは。……見てろよ、相棒。あのファッキン女の策なぞ滅茶苦茶にしてやる」

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