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な、何だって!?

 僕が目を覚ますと、目の前には闇しかなかった。

 パイプ椅子ではなく、木製の椅子に座らされている。両手は縄で、両足は足(かせ)で拘束されている。

 口はガムテープ(?)でふさがれている。

 どうやら僕は監禁されているようだ。

 鬼の力を使えば、すぐにここから逃げ出せるが、彼女はそれを知っている。

 雪女ゆきめ あおい。君はいったい僕をどうするつもりなんだ?

 どこかで扉が開く音がした。

 誰かの足音が僕の方に近づいてくる。

 草履ぞうりが地面にこすれる音。

 冷気が僕の体を覆う。

 これは、彼女の冷気だ。

 今日は二回も凍らされた。

 だが、僕は死んではいない。

 鬼の力が無意識のうちに僕の体を守ってくれたおかげだ。

 今、何時だろう……。

 早く家に帰って妹の元気な姿を見たいな。

 ついでに座敷童子の姿も。

 僕がそんなことを考えていると、彼女が僕の目の前にやってきた。


「先輩、私と結婚する気になりましたか?」


 僕は首を横に振る。


「そうですか。まあ、先輩のようなシスコンにとっては、私なんて平均以下ですよね。まあ、それは今日限りで終わります」


 彼女は白い浴衣ゆかたふところから小さな小瓶を取り出した。

 中には赤い液体が入っている。


「先輩、これが何か分かりますか?」


 血のような色をしている。

 絵具ではない。果汁……でもないよな。

 なんだろう。


「これはですね、私の血とその他諸々(もろもろ)を煮詰めて作った『惚れ薬』です」


 ……な、何だって!?


「これを今から先輩に飲ませます。別に大脳に直接、命令するようなものではありませんが、先輩の脳内に私のことが好きだといういつわりの記憶を植え付けるので、妹さんとの記憶は少し……いや、かなり改竄かいざんされるでしょうね」


 そ、そんな……。

 僕と夏樹なつきとの記憶が改竄かいざんされる?

 冗談じゃない! そんなもの誰が飲むものか!!


「先輩がいけないんですよ。私の言うことをおとなしく聞いていれば、こんなことをしなくて済んだのに」


 彼女は人差し指で僕のひたいに触れた。

 その直後、僕の体は両目と口と耳と鼻以外、凍ってしまった。

 彼女は僕の口からガムテープをがすと、小瓶のふたを開ける。


「それじゃあ、全部飲んでくださいね」


 彼女が赤い液体を僕の口に流し込もうとした、その時。

 妹が今日の朝、僕にくれた折り紙製の赤い鶴がどこからともなく飛んできて、その小瓶に体当たりした。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


 どうしてつるから妹の声がするんだ?

 赤い鶴は風など吹いてもいないのに飛び続けている。


「まあ、詳しいことは後で話すよ。とりあえず今は早くここから出よう」

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