ダメです
昼食後、座敷童子が食器を洗い始めた。
その時、妹が僕にこう言った。
「お兄ちゃん、耳かきしてー」
「え? いや、夏樹なら、自分でできるだろ?」
妹は頬を膨らませながら、こう言う。
「分かってないなー。誰かにやってもらうっていう背徳感っていうか優越感がいいから、頼んでるんだよー」
そういうもの……なのかな?
「ということで、よろしくお願いしまーす」
妹はソファにダイブする。
妹はニコニコ笑っている。
時折、僕の方に目をやりながら。
仕方ないな、やってやろう。
僕は妹の要望に応えることにした。
「えーっと、どっちの耳から……」
「どっちも!」
無茶言うなよ。
「僕はそんな器用なことはできないぞ」
「知ってるよー。言ってみただけだよー」
今日は妙に上機嫌だな、明日は雨が降るかもしれないな。
「じゃあ、右耳からやるぞ」
「はーい」
当たり前のように僕の太ももに頭を乗せてくる。
まあ、たしかにそうしないとできないけどさ。
その……なんというか、もう少し警戒しても。
「お兄ちゃん、早くしてよー」
「え? あ、ああ、悪い。え、えーっと、じゃあ、失礼します」
妹は時々、僕の体に黒い長髪を巻き付けてきたが、なんとかなった。
「はい、終わり」
「じゃあ、次は童子ちゃんの番だねー」
童子は聞こえないフリをしている。
おそらく、多分……。
「童子ちゃーん! お兄ちゃんが耳かきしてくれるよー!」
夏樹よ、もうその辺にしてあげなさい。
「仕方ないですね」
え?
「それでは、よろしくお願いします」
「え? あー、はい、分かりました」
座敷童子は僕が耳かきを始めようとすると、僕の膝に円を書き始めた。
「あのー、それ、くすぐったいのでやめてもらえませんかねー」
「嫌です。終わるまでやめません」
えー。
「安心してください。今度は私があなたの耳をきれいにしてあげますから」
「あのー、拒否権を行使してもよろしいでしょうか?」
座敷童子は僕に殺意を向けると、同時に静かにこう言った。
「ダメです」
「……はい、すみませんでした」
はぁ……まあ、そうなるよな。




